冬/冬想

 



冬、とひと口に思い浮かべて、憂いが先に立つ人はどれだけいるのだろうか。

見えない先行きの不安ではない。

ぴんと張り詰めた冷気と、いっそう深い闇の夜。言い知れぬそれに睫毛を震わせるのは、独りだ。




路端の水溜りに張った氷に心躍らせた覚えはある。それを割る刹那の愉しさと割った後の興の移り気も知っている。少し解けて残った雪も、踏み荒らした田畑の霜も。全ては幼い記憶の中に残っている。

しかし今は、その刹那が危うい事を知っている。――否、知ってしまった。

足を滑らせ、昏倒こんとうする事の危険さを。割れた氷に爪先をとられ、頭蓋ずがいをも割る可能性を。




それが大人になるということだと、誰かが言っていた。

大人とは、子供とは。己の中でそれは、定義つけられるものなのかと。

晦日みそかも近付くばかりの宵闇の路端で張る氷に、疑問ばかり憂いに上書きされるばかりだった、あの頃。




「――懐かしいなあ」




しんしんと降る牡丹に湧き上がった記憶に、ひとつ呟く。

牡丹と共に舞い踊るのは、もう一人。




そう、憂うばかりの冬ではない。

春は、すぐそこだ。








 

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春夏秋冬 六宗庵 @keinxpulse

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