鷹
彼は、所謂幼馴染というものだった。よくうちに遊びに来たので、一番遊ぶ友達だった。彼が花冠を作ってくれる度に嬉しかった。既にその頃には淡い気持ちを彼に抱いていたのだと思う。
彼の父親は、木こりをしていた。彼もその後を継ぐことを考えていたらしく、よく体を鍛えていた。村で一番身体能力が高い子供だったと思う。彼の母親は端材から人形などを加工して街の雑貨屋さんで販売していた。村の中でも裕福な家庭だったと思う。
私が売られた後、彼は冒険者になるべく村を出たそうだ。冒険者は、魔物を倒して生計を立てている人たちのことで、その中でも有名なパーティーがあるらしく、そこに無理を言って見習いとして加入し、修行をつけてもらったらしい。剣、槍、弓と基本的な魔法を一通りマスターしたみたい。それは大変な期間だったと思う。村には魔法を使える人がいなかったから、魔力を感じる所から覚えなきゃいけなかった、って言ってたっけ。
修行を始めて三年が経った時、魔王が復活した、という話が聞こえるようになった。私たちの生まれた村と反対側の国境では隣国と戦争をしていたんだけど、その近くで魔物が大量発生する現象が頻発するようになったから、休戦協定を結んで魔物狩りをしよう、という話になったみたい。そうしたら、一度も討伐隊が帰って来なかったから、人の血に反応して復活した、という結論らしい。だから、冒険者の中からも実力のあるパーティーが討伐する話が出た。
その頃、私は変わらずお店で働いていたけど、彼は所属していたパーティーで実力が認められて、魔王の討伐に参加することになったそうだ。本当はリーダーが止めたみたいだけど、私にもし再会したら、見栄を張りたかったみたい。……そんなことしなくても惚れていたのに。
そこから一年かけて、魔王を討伐できたそうだ。彼は実力が認められて、国の英雄として貴族と同等になったみたい。そこで、パーティーメンバーの一人が、王政に腐敗がある、と感じて、半年で国王を崩御させられる材料や人材を集めて、その半年後に処刑まで持って行けるような仕組みを作ったみたい。……彼はすぐに帰って来たみたいだけど。まあ、両親に迷惑かけたから、かな。
私が帰って来た時、顔には出さないようにしていたけど、彼が一番喜んでいたと思う。私は仕事中もずっと彼のことを忘れずにいて、唯一携帯を許された彼からもらったペンダントに毎晩祈りを捧げていたこともあって、二人ともすごく意識していたと思う。……そこからは早かった。すぐに結婚して、彼は木こり、私は義母さんに人形細工を教えてもらって仕事に参加するようになった。夜もすごく充実してた。五年であんなに逞しくなるんだ、と感慨深かった。身籠もるまでに時間がかからない訳です。
無事に可愛い双子が産まれて、すごく幸せ。彼はずっと現役だし、家事も手伝ってくれるし、義母さんも義父さんも優しいし。……本当はお母さんもいてくれたら、とも思うけど、十分幸せです。
「ありがとう、あなた」
「急にどうしたの?」
「なんとなく! 私、とっても幸せ!」
「俺もだよ」
◆
後書きはこちらです。
https://kakuyomu.jp/users/genm9610/news/16816700426817827972
花と鷹 嬾隗 @genm9610
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