第5話 レストランの初仕事
「リフト 私なんかに付き合ってくれて本当にいいのかしら?」
「ええ 仕事探しならバール一人でも大丈夫でしょう。それに トモちゃんに付いて行かなかったら バールのヤツがスネますから。」
「どうしてバールがスネちゃうの?二人ともいい人なのね。 ふふふ」
「プイプイ」
モコは門の入り口にあるモル小屋に預けたい。
魔導都市ともなると モル小屋も立派な作りで 沢山のモルモットがいる。
モルモットは群れで過ごしたがる習性があるから沢山の仲間たちと過ごさせてあげたい。
でも モル小屋に泊まるにはお金がかかるので 今日から働けるところを探したかった。
「レストランですし安心だとは思いますが ホントにこのお店でいいのですか?
そうですか。
では私はバールを連れてお客として戻ってきます。チップは弾む予定です」
結局 リフトに付いてきてもらったのは正解だった。持つべきものは友達だった。
さすがに 怪しい道に迷い込むことはないけど、農園暮らしをしていた私がキョロキョロしながら歩き回っていたらよくない事が起こっていたと思う。
ちなみに 私が働くことになったのは「カラスの止まり木」というお酒の飲めるおしゃれなリゾット屋さんだった。
濃厚なチーズ。完熟なトマトにお酒が進むと評判の人気店らしい。
でも なぜかウエイトレスがすぐに辞めてしまうという不思議なお店だった。
「はぁ~」
リフトが帰ると ウエイトレスたちが一斉にやる気をなくした態度になった。
後でお店に帰ってくるって教えてあげたほうがいいのかしら?
そうよね 彼は路銀をたくさん持ってそうだし、気落ちはわかるわ。
私は店長が用意してくれた とっても可愛い洋服に着替えた。
「腰のリボンを占めるわよ」
「おぇぇぇぇ・・」
「大丈夫?」
「ええ なんとか・・ああ よだれが」
とっても可愛らし過ぎて というか子供っぽらしかった。
仕事は リゾットを運ぶ仕事だけど ここのお店では
運ばれたリゾットに、オプションで私たちがチーズをかけてあげる仕事がある。
そうすると お客さんがチップをくれるのよ。
モコちゃんのためにも いっぱいかけるぞ!っと思った。
「私が リーダーのイザベラよ。最初は私の指示をしたテーブルに注文を取りに行ってくれれば、それでいいわ」
リーダーのイザベラさんは親切で お姉さんのような頼り甲斐のある女性だった。
忙しいけど 働きやすい。
なんでみんな辞めちゃうのかしら?
お店も忙しい時間帯になって稼ぎ時のタイムがやってきた。
「お~い あの!あの~!! お姉さん。チーズかけてください!!!!」
イザベラさんの指示も追いつかなくなってきたあるとき、忙しく走り回っている私にお客さんが声をかけてきた。
「では 行きます! 行きます、チーズ♪とろーりチーズ♪♪はい チーズ♪」
なんで チーズをかけるのに歌うのかしら?
「君 新人の子だろ?ボク・・ボク 次から君に決めたんだな。はい これチップだよ。」
でも お客さんは満足げな顔してくれているからよかったのかしら。
チップも嬉しいし。
「グルルルル・・」
あれ?店の外からモコちゃんの声がした。
そして 私は魔物ににらまれたような視線を感じたけど気のせいかな??
・・・・
イザベラ「あの 新人・・私の客を取ったわね ムッキー!」
・・・・
店が空いてやっと 休めるようになってきた。
店長も ウエイトレスたちに、ちょっとだったら抜けて休んできていいと言ってくれていた。
さて どこへ行こうかしら?まかないで食事にしようかしら?
だけど ちょうどバールとリフトがやってきた。
店のテーブルに着くと ウエイトレスたちの目が輝いているのがわかる。
そうよ 路銀をたくさん持っているわよ。
リフト「やあ トモちゃんこっちへです!」
リフトが手を振ると また魔物の視線を感じた。しかも今度は複数だわ。
外のお客さん用のモル小屋にいるモコも「グルルルル」って鳴いてるし
何がいるのかしら? 私に「いいわねぇ~」って言ってくる同僚はどうかしてるの?
この店ちょっと怖いわ。
バール「トモちゃん なんて格好してるんだよ。ガキだな がはは」
リフト「笑うなんて失礼ですよ。仕事なんですから。 じゃぁ この店で一番高いリゾットを頼みますね」
リゾットが出来るまで 少し時間がかかるので3人で話をした。
バールは 別れた後に仕事を貰いに直接、商会なんかを訪ねて回ったらしいけど
腕はいいはずなのに なぜか面接は全滅だったらしい。
リフトもうなずきながら 「ふ~う」とため息をついていた。
バール「いつもは うまくいくはずなのにどうしてダメだったんだ?」
バールが悩んでいるようだったので 占い師の経験を生かしてアドバイスした。
バールの場合は立派な武器を持っているけど 服装にはお金をかけていないのだ。
見た目は大切なのよっとアドバイスした。
最初は 凹んでいるようだけど 筋肉質だし大丈夫よね?
リゾットが出来上がるとバールが意地悪な感じで 「がはは トモちゃんチーズかけてくれよ」と言ってきたので
「沢山あるわよ はい!」と テーブルの上にチーズの入った容器を置いてあげた。
私が歌うのは仕事のため、バールたちを笑わせるためじゃないわ。
リフトは 何が可笑しいのかわからないけど クスクスと笑っていた。
・・・。
・・。
「はい これを着なさい」
私は二人がリゾットを食べている間に ちょっとお店を抜けて向いの洋服屋にいって安いけど見た感じのいい服を調達してきた。
服を買ってみて分かったけど。実は思った以上にチップを貰っていたみたい。
二人は食べ終わるとお礼をいって また 仕事探しへ行ってしまった。
少しだけど お返しが出来てよかった。
振り返ると お店のウエイトレスたちが みんなが脱力してたわ。
休憩時間は しなかったのかしら?
イザベラ「休憩時間が長かったわね。感心しないわ!早速だけど あのテーブルと、あのテーブル・・間違えたら怒るから覚悟してね。私 怒るときは朝まで怒るから!」
常連さんのテーブルだから 粗相のないように気を付けるように言われた。
指示を出した後のイザベラは ほくそ笑んでいるように見えた。
お客「リゾットA・・トマト増し、チーズ増し・・まし・・まし・・まし・・まし、オニオン抜きで」
お客「リゾットCで ぬき・・まし・・ぬき・・ましましまし・・まし。。ネギ多めで」
お客「・・・固めで」
お客「・・・焦がして」
呪文のような注文だった 新人には覚えられないし頭がパンクしそう。
「新人なので」と言い訳をして二回、注文を聞くことにしたけど
でも 聞いてもおそらく覚えられずに間違えてしまうだろう。
どうしよう、助けてぇ ピョンタ。。
でも 私って本当に ピョンタに頼ってばかりだったのね。
記憶がなくなっていたと言っても 甘えすぎてたわ。
私は パズルを解いているときの様に 心を切り替えた。。
そして もう一人の私の様子をうかがってみた・・。
心を深く沈めると やっぱり もう一人の私がパニックを起こして大騒ぎをしている。
可哀そうだと思うけど声はかけない。
パニックを起こしている事だけに気付けば それでいい。。
後は流れに任せて 私はふーっと息を吐いた。
「では 注文をお願いします」
・・・。
・・。
「・・・でお願いします!!」
「あいよぉ!!トモちゃんだっけ 新人なのによくやるねぇ!これから よろしくな!」
私は厨房に すべての注文を言い切った。そして 名前を憶えてもらえた。
イザベラ「え! ウソでしょ? 常連客は口うるさいからリストまで作っているのに。あの子ったら全部 覚えてしまったと言うの?ムッキー」
心の音が小さく鳴れば 本来の私の力が凄いと言うことがわかる。
私はなんだか 成長しているみたい。
あれ? あのテーブルにお客さんがいるのに どうしてみんなは注文を聞きに行かないのかな??
一つのテーブルに 貧相なお客が座っていた。。。
「やあ お嬢さん。 見ていたよ。新人なのにあれだけの注文をさばいてしまうなんて すごい特技じゃないか?
いったいどうやったんだい? うちの従業員も同じことが出来れば潰れずに済むのだろうけど・・・。」
「潰れるですって? よかったら詳しいお話を聞かせてもらえますか?」
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