第3話 占いの館と知恵のパズル 優しいおばあちゃん

花に囲まれた小さなお屋敷が見えた。


「私達の家と 似ている気がする」


さらに近づいてみると いい香りが漂ってきた。アップルパイの匂いだ。それで思わず屋敷の扉を開いてしまった。


「おやおや 雨でもないのにずぶ濡れじゃないさ。さあ その椅子に座って。このパイもお食べ。 おーい ハンス!レディーがずぶ濡れなんだぁ! 拭くものを持ってきておくれ。あと 熱いお湯を沸かしておくんだよ」


ハンス「あっ はい! メアリーさま」


メアリーと呼ばれる人物は私が パイを食べると紅茶を差し出し、何も言わずに私をじっと見つめていた

食べ終わってお腹が満たされると 浴槽へ行くようにと指示された。

浴槽へ行く途中の館の中のものは 一つ一つが品のいいものでセンスの良さがうかがえる。


私たちの家にあった 魔導通信機も置いてあったわ。

そして お風呂から上がると可愛らしい洋服が用意されていた。


この館の主は メアリーバレンタイン。

昔は都で暮らしていたらしいけど、今は隠居の身になって占い師をしているらしい。 

お風呂から出てきた私に暖かいミルクを進めてくれて、モコはモル小屋でぐっすりと眠っていると教えてくれた。

ミルクを飲んでいると気持ちも落ち着いてきて メアリーに今までのことを話したわ。


騙されたことは 許せないけどでも  


ピョンタがもっと 私を信じて色々な仕事を私に任せてくれていたらこんな事にはならなかったんじゃないかって。


もっと 厳しくしてくれていたら もっと強い私に慣れていたはずなのにって期待されてなかったのかな??

そんな話をしていると メアリーが口をはさんできた。


「いいや 私は占い師だから普段は口を挟まないのだけれど、トモちゃん。私はあなたのことが羨ましい。

何もさせないのは、それはピョンタなりの愛のカタチなのさ。

ただ 人を成長させるものではないかもしれないけれどね」



「羨ましいですって!」


すべてを失った私が羨ましいですって?

こんなに豪華な品々に囲まれて暮らしている人が 私を羨んだりしないでよ。

何も不自由な事なんてないでしょう。

でも 話を進めるとメアリーの言葉が納得だった。簡単に言ってしまえば彼女はさみしいのだ。


家族もいないようだし、寂しいおばあちゃんは仲間も毎年のように旅立っていくといっていた。

メアリーは年配ですものね。すこし 仲間の話を聞いてあげようかしら。


「占い師になる前は 何をされていたのですか?」


「聞きたいかい? ふふふ がはは。義賊よ!義賊! 国を一つ潰したことがあるわ。懐かしいわぁ 占い師の力を使えば簡単ですもの ふふふ」



義賊?貴族じゃないわよね? それは仲間がどんどん減っていくはずだわ。

だって 国を相手にしているのですもの!

その後 私も義賊に興味があるかと聞かれたけれど「ありません」と断った。


私の目標は金貨を100枚集めること。

昔の私なら簡単な事よ。テーブルの引き出しを引けばいいだけ。


でも 平民同然の私には無理な金額だわ。

仮にモコを売ったとしても 金貨10枚がいいところかしら。


「プイプイ グルルルル・・・」

モコは私の家族だから 売らないけどね。


でも 義賊の誘いを断ると「そのまま 魔導都市メキストへたどり着いても生活に困るだろうさ。モコちゃんの面倒を見るのにもお金はかかる。 

占いを覚えてみないかい?あと とっておきの魔法も教えてあげようじゃないか」といわれた。


急いでいると言ってもメアリーの言うことは一理あるので 占いと魔法を習ってみようと思った。

魔法というのは 「ファイアボール」とか「ほうき」を使うような

ハデなものじゃなくて 「自分の心の炎を消す魔法」という一風変わった物だしい。

でも 魔法使いになるにしても きっと 役に立つはずだと言われたので

初級編の魔法と言うことで納得した。

私は占いと魔法を習う代わりに、お返しに魔導通信の電話番をする仕事を貰った。

次の日からは 美味しい朝食をご馳走になってから魔導通信機の前に座り込んで電話番。


きっと暇だとうと思っていたけど 悩み事を抱える人は多いみたいで予想以上に連絡がきた。

しかも 電話の応対は応対はメアリーから渡されたリストを使ってすべて私がするのだ。


「あなたが返事をするのよ。 はい これが応対用のリスト。おめでとう。これであなたも占い師よ」


占い師って、そんな簡単になれるものなの?

でも メアリーに渡されたリストは年齢と性別事にページが別れており そこにはよくありそうな悩み事が書かれていた。


そして側にメアリーがいなくても、ほんとに問題が解決できてしまった。


そして 相談に取ってあげると「ありがとうございました。」と年上の高貴な方たちから感謝されて なんだか恥ずかしいわ。

他にも失恋した魔導士の男性は話を聞いてあげただけなのに「あなたのような女性と付き合いたい」と言われて困った。

「君の名前の呪文を開発したい!」なんて言うのよ

それに 私のことなんて何も知らないじゃない?


でも 困っているとメアリーが紅茶の時間にしようと部屋に入って来て私の代わりに ガツンっと断ってくれた。

休憩のティータイムをしているとメアリーが「ともちゃん。あんたの声はとても心地がいいねぇ。

実は隣の部屋であんたの話ぶりを聞いていたのさ。

そして あんたは魔力も持っている。実は魔力を持っている人間はそれほど多くわないのさ。

だから ただの人には魔石が必要なのさ」とメアリーは私を認めてくれているようなことを言ってくれた。



午後からは魔法の練習だったけど こっちは本当に興味のあることだった。


もしも 「心の炎を消す魔法」を習得して さらにファイアボールなんかを覚えられたら、金貨100枚を集めなくてもモコと二人で何とかなるような気がする。

早く私たちの家を取り戻したい。

でも そう強く思っていると いつものアレが私の中に出てくるのよね。

・・・。

ビンセントとフジャラの愚か者を笑う姿が脳裏に浮かぶ。


ああ ダメダメ


やめて 笑わないで。


辛いよ。 助けてピョンタぁ。


う。。。

・・・。

それじゃ 始めようかとメアリーはカーテンの閉められた部屋に私を連れて行った。

部屋の中は 昼間なのにローソクの炎がゆらゆらと光を放っていて

なんとも 妖艶な雰囲気になってメアリーが魔女に見えた。


「そんなに怖がらなくても大丈夫さぁ。さあ椅子に座って。

今から伝えることは 単なる魔法じゃない。ただ ソレを自分のものにできれば魔法に匹敵する力を持つことになるだろうさ。

もちろん 魔法を使うときにも役に立つだろう。どうだい 興味はあるかい?」


ええ そう自信ありげに言われると興味がわいてくるわ。

ニッコリ笑ってうなずくと 小さなクッションの上に置かれている多面体のキューブを手に取って ゆっくりと私の手の中へ持たせてくれた。


「知恵のパズル」と呼ばれる キューブ状の魔法のパズルらしい

「さあ トモちゃん。気持ちが落ち着いたらキューブにだけ集中をしてごらん」と言われたのでキューブをただ ただ、眺めているとキューブの面体の数がどんどん減っていった。

そういう魔法のパズルのようだ。


初めは形を変えていくキューブを眺めているのが楽しくってずっと見ていられたけど

徐々に キューブの面体の数が少なくなり遅くなっていくと、脳裏に違う考えが浮かぶようになってきた。


ビンセントとフジャラの愚か者を笑う姿が脳裏に浮かぶ。


ああ ダメダメ


我に返ってキューブを見てみるとキューブは 正方形どころかトゲトゲの物体に変わってしまっていた。

私は失敗した。でも メアリーの言うことは違った。


「すごいじゃないか? キューブを解いている時間に紅茶を入れることができたよ。最初にしては順調さ」


失敗したのになんか 褒められた。


そして紅茶はカモミールの香りがして張り詰めた気持ちが落ち着いた。

でも、ビンセントとフジャラが何度か出てきて邪魔をしてくるからメアリーに相談してみた。


「この部屋でトモちゃんの邪魔をしてくるのは本物のビンセントとフジャラじゃない事はわかっているね?

実はトモちゃんの中にはもう一人のトモちゃんが居るんだよ。

でもその子は臆病でね。自分が怖いからトモちゃんにも、一緒に不安でいてほしいのさ。

キューブを解いているときは、心が静かになるからね

普段は聞こえない 深いふか~いところでいつも叫んでいる。 その子の声がよく聞こえるようになるんだよ」


「どうすればいいのですか?」

「何もしなくていい。気が付いたら ただ そっと 気持ちをキューブに戻してあげればいいのさ」


私の中に 違う何かがいるなんて気持ち悪いな。

でも こんな日々を数日繰り返していると メアリーの入れてくれるカモミールティーがすっかり好きになってしまって練習の後の紅茶とお菓子が好きになってしまった。 

そんな ある日メアリーは私にピョンタの手紙を見るように指示をした。


あの手紙は何十回も読み返したのに今更 何がしたいのかしら。

でも 今まで見慣れていた手紙が違うものに見えた。


あ!あああ!


メアリーは 少し悲しげに目を細めた。心配してくれたのかもしれない。

「気づいたかね」


ピョンタからの手紙はおそらく後半部分が抜き取られている。

そして 最後の一枚はピョンタが書いたものじゃない。

あのときは気が付かなかった。

どうして そんな簡単な事に気が付かなかったのだろう?


「なんてことなの!こんな簡単なことにどうして気が付かなかったのかしら!?」


「トモちゃん 落ち着いて、自分を責めてはいけないよ。気づかなかったのには ちゃんと理由があるのさ。。。

魔術でもかけられたなら まだ 気持ちの整理がつくかもしれないが、実は 多くの人は 気が付いているようで無関心なのさ」


メアリーが言うには 人は例えば紅茶を入れているときに夕飯のことを考えていたり 大好きな誰かのことを考えていたりと全く違うことを考えてしまっているのだと言う。


そんなことがあり得るのかな?

何かに気が向けば 気づくはずだし。っと思った。

だけど それは土砂降りの雨の夜でも私たちが眠りにつくことが出来るように、あまりにも身近なことになりすぎていて振り回されていることにすら気づかないらしい。


私はこの日の夜、メアリーに抱き着いて泣いた。

悔しい気持ちもあったけど、メアリーにうまく話しを乗せられてピョンタの話をいっぱいすることになった。

メアリーは興味がありそうな顔でじっと 私の話を聞いてくれてメアリーも少し楽しそうに見えた。


また 数日が過ぎた。


私は 魔導都市メキストを目指すために旅立つ日が来た。

モコちゃんも 元気いっぱいになってた。

「プイプイプイ」


そしてモコは 以前にもましてクルリンヘアーがキュートにまとまっていた。

リボンまでつけてもらって とてもよくしてもらっていたみたい。


「メアリー・ハンス ありがとう。でも どうしてこんなに良くしてくれたのですか?」


「そうだねぇ 街の生活が落ち着いたら遊びに来るといい。その時話してあげよう」


私は パズルとハンスからバスケット一杯に食べ物を貰いモコと魔導都市メキストを目指して歩き出した。

ホントは 金貨100枚くれるかもしれないって期待しちゃってたんだけどね。だって 義賊でしょ?ふふふ

プイプイ


・・・・・


「メアリー様 ご無理が過ぎます。私はメアリーさまにかけられている呪いのせいでで メアリー様がいつ倒れてしまうかと心配でした。さあ ベッドへお戻りください」


メアリーは 空に向かって話始めた。


「いいや 気分はむしろいいぐらいだ。 見てるかい?ピョンタ! 私に貸を作られておまえは悔しいだろう。ふふふ。それにしてもあの子は いい娘だよ。

妻と聞いた時には驚いたが、今はあんたが どうしてあの子を妻として迎えようと思ったかわかる気がするよ。あんたはあの子を大切に育てたかったんだね。

これは占い師の勘だけどあの子は将来チャーム(魅了)の魔法を覚えることになるだろう。

そして欲しい物は大抵、手に入るようになるだろうさ。

何を望むかはあの娘次第だろうけどね」


メアリーは トモちゃんのことを思いながら、守りたいもののために呪いを受けた自分の過去を振り返った。。。


「ハンス! 久しぶりにあたしは酒を飲むよ!!」


「メアリー様 おやめください・・」

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