第2話 夫の正体は転移者だった。もう歩けない
「ふ~ん、なるほどね」
私には18年より前の記憶がない。
ピョンタがいきなり現れて「結婚してくれないか?俺のすべてを受け取ってほしい」と誘われたところから記憶が始まっているのだ。
手紙に期待をしていたけど それは書かれていなかった。
でも 18年も過ごした今では それよりも過去のことなんてどうでもいい。
18年前の プロポーズは最高だったし 私にはその思い出からで十分。
場所だって虹に囲まれて、私たちは宙に浮いていたような 素敵な。。アレ?人族が浮けるはずないか。
それより 手紙に書かれていたピョンタは意外な人物だった。
この手紙によれば 彼は実は異世界転生者という種類の人族らしいのだ。
地球という聞いたことのない国にしか存在しないレアな人族。
それが災害級の転移に巻き込まれて無一文で草原に叩きだされてしまったらしい。
「ピョンタはすべてを無くしてしまったのね」
当然 街を目指してさまよっている間に力尽きて倒れてしまった。
でも 彼は運がよかったらしく ポックルという精霊に拾われて楽しい時間を過ごす。
モルモットに出会ったのもその時が初めてだったらしい。
人の背丈のモルモットは 地球にはいないらしくてかなり感激したと書いてあった。
「ふふふ モルモットが大きいなんて普通のことなのにね 子供のモルモットしか見たことがなかったんじゃない? 笑っちゃうわ」
でも 親友の精霊もできたみたいだけど、実は魔族スパイダーというのが当時は
ポックルたちの土地を所有していたわけね。
それで 強制的にクモの糸から布を織らされていた。
色々あって親友を失うことになったピョンタはポックルの地を離れて 街で暮らし野生のモルモットを捕まえてお金を稼いだ。
そして 街と街の外である異変が起きていることに気が付くの。
案の定。 街の金持ちたちの横暴によって魔石が集まり過ぎたみたいで、街に魔物が攻め込んできたわ。
この世界には魔石という便利なものがあるのだけど 集め過ぎちゃうと魔物を呼ぶの。
一部の金持ちたちは欲を出して みんなよりもたくさんの魔石を集めようとするから
それで滅びちゃったりするのよ。
ピョンタは いつかこの街にも魔物が来ることを予見していたみたい。
そうして 魔物の襲撃の後に傷ついて不景気になってしまった街で安くレストランを買うことが出来てオーナーとして成功したらしいの。
その後よ。 スパイダーが自分から精霊の農園を買ってほしいと言ってきたのわ。
こうしてピョンタは農園の所有者となって 小さな街を作ったの。
手紙はそこで終わっていた。
「あれ? もうおしまい?」
これから私が登場するはずなのに。楽しみにしていたのに!
「プロポーズはどんな気持ちだったのよ。 断られたらどうしよう??って思ってビクビクしてたんじゃないの?ふふふ」
でも 出てくる前に終わってしまった。
「彼は最後に自分の生きざまを知ってほしかったのね。お疲れ様・・頑張ったね・・。」
ただ 実は農園を中心とした小さな街はすべてがピョンタのもので私は この街の後継者となる。
そして最後のページには真新しい紙を使って「一人では大変だから、信頼の置けるビンセントとフジャラに相談しなさい」と書かれていた。
ビンセントとフジャラに相談すると彼らはニマニマと笑う。
嬉しそうだ。 簡単に了承してくれて共同経営者になってくれた。
ビンセントは 「トモちゃんは ピョンタと暮らしていたころの様に自由に暮らせばいい」と言ってくれた。
彼は馬顔だけど優しい魔族のようだ。
でも そうはならなかった。私を楽しませたいと集まってくる男性たちが 毎日のように来るので私の生活は忙しくなった。
「フジャラ こんなお芝居みたいな事、いつまでやらなきゃいけないの?今日は休みたいわ」
「いいえ 遠投よりトモちゃんに会いたいと貴族の方がいらっしゃいます。ピョンタ様は貴族ではないのに実力で
街の自治をされていた珍しい立場のお方です。
ですが彼の無き今、自国の領地を広げるために、カトクの権利のない貴族たちが、あなたとの婚約を望んで後をたたないのです。」
ピョンタは失ったけど、そうか 私ってそんな価値があるのね。
毎日求婚されて 何も考えられないくらい忙しかった。
そして 貴族たちの中には口のうまい人たちも多くて わかっていても嬉しい気持ちに少しずつなっていった。
色々な人たちに想われて、想われることが幸せな事なんだって思えるようになってきた。
でもある日
私はひょんなことから経営権をビンセントにすべて貸し出したことになっていると言うことが分かった。
契約は公的なもので解除するには金貨100枚が必要になるらしい。
たった100枚の金貨。きっと手続きに間違いがあったに違いない。
私はモコと屋敷に駆け戻るとビンセント達にそのことを話した。
すると 彼らは大笑いをした。
馬の口が大きく開いて奥歯が見えくらいだった。
そして 私は実力行使で屋敷を追い出されてしまった。
私はモルモットのモコと二人の無一文。
誰の力も借りられそうにないし モコと一緒に金貨100枚を自力で稼ぐしかない。
魔導都市メキストを目指そうと考えた。
「乗せなくていいわよ」
モコが私を乗せようと膝を下ろしたけど 今は歩きたい気分。
私は歩きながら考えることにした。
だって・・だって・・全部失ってしまうかもしれないのよ・・どうしたらいいのよ!
助けてピョンタ! もし この世に魂というものがあるのなら 一度だけでいいわ。
私を助けて お願い。
どんなにどんなに念じてもピョンタは現れなかった。
そして ビンセントとフジャラは今頃 私の家で私のリンゴ酢を飲んで乾杯をしているだろうと思うと、
頭がどうにかなりそうよ。
ビンセント「がはは 酸っぱいぜ がははは」
フジャラ「酸っぱくございます ビンセント様 ははは」
私はパニックになりそうになりながら 歩き続けた。
道端に水たまりがあると 積極的に踏みつけた。
そんな 気分だったから。
私はずぶ濡れよ。助けて・・ピョンタ。。
ねえ あなたはどうして色々な事を教えてくれなかったの?
すべてを教えてくれていたら私がこんな目に合う事なんてなかったのに ひどいわ。
モコが心配そうに私のすぐ後ろにくっついてきて ときどき 「ツンツン」って気遣うように鼻でつついてくれた。
そして 魔導都市メキストは遥か彼方。歩き疲れて休むところを探していると
花に囲まれた小さなお屋敷が見えた。
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