第24話 月焰の死闘

幾多いくたも剣をぶつける。

月読命つくよみのみことが高揚していた。

久方ぶりの戦闘に、命をかけた、殺仕合ころしあいに。


鉾を武器に持つ敵神に問う。

月読命が彼が何者なのかを知っている。

本当に危惧すべきは鉾ではなく、彼の四肢。

「君もあの神に賛同しているのかい?」

「まぁ、予想の範疇はんちゅう内だけどね。」


「かくいう貴様こそ、中立の立場ではなかったのかぇ?」

「気が変わったんだよ。俺には愛する子達がいる。」

「君たちを野放しにすると、子供たちに悪影響でしかない。」

「これはッ!」

「由々しき問題だ!」

「親としてそれは見過ごせない。」

「今更気づいたよ。俺は本当に馬鹿だっ!!」

渾身の振りで彼を吹き飛ばす。


後方に飛ばされた神は、鉾を構え直し神気を放出する。

炎獄の火。空に輝く太陽よりも熱い炎。


「その程度で、俺に勝てると思うな....」

彼奴は月読命との間合いを詰める。

「逝ね。月の神よ。」

目で追うことなど到底敵わぬ速度を持ってして、鉾を自在に操り月読命を空間ごと切り裂く。

「くっ!」

凶音と共に鍔迫り合いに持ち込む。

「中々、やるじゃないか。」

彼は右手を鉾から離し、拳を作る。

怨火産霊えんほむす...さい!」

右ストレートが音速を越え飛んでくる。

「はぁ!」

刀の側面で何とか防御するが、彼の拳は地獄のほのおを纏い、威力が増大する。

左手で保持している鉾を手放し、空を舞う。

地に落ちた鉾から無数のつるが現れ、月読命の両脚を固定した。


怨火産霊えんほむす....乱壊!!」

無数の拳と蹴術の複合技が月読命を襲う。

拳と脚の残像はまるで、1つの流星が尾を引きながら地面に落ち行く姿のようだ。


「神の剣! 夜輝月やこうのつき!」

剣先で満月を描くように振り、前方からの攻撃をいなす。

「その程度かぇ? おおおぉぉ!!!!」

一段と衝撃波が強く、速くなる。

「ぐぅ!!」

そろそろ腕も限界だ。

何とか距離を取らなければ。

衝撃の波を掻い潜りこちらの剣波を届かせる。

「ならば!」

月影つきかげ!!」

前方に広範囲の空を切り裂くこの技が有効だ。


はるか後方へ避けた彼は薄ら笑いを浮かべ言う。

「月の神よ、貴様では俺に勝てぬ。」

「俺の体術の能力を知っているだろう。」

「長期戦になればなる程貴様に優位はなくなる。」

「勝ち目がなくなるのだ。」

「死ぬのだ。」

「消えてしまうのだ。」

月読命は荒い息をしながら彼の言葉を聞く。


「そこで1つ、貴様を助ける提案をしよう。」

彼は親指を学に向ける。

「母と戦っている、あの人の子を殺せ。」

「さすれば、俺に楯突いた罪を軽くしてやろうぞ。」


学はかつての母、伊邪那美の毒に苦しんでいる。

まだ立てないだろう。

俺が時間を稼がなければと月読命は決意する。

「悪いけど、断る。」

彼奴の顔から笑みが消える。

「学は凄い子だ。」

月読命はいつくしみの表情を浮かべる。

「あの子は俺の心を動かした。」

「そして、今、歴史の歯車も動かさんとしている。」


刀を構える。

それは地の剣 閃雷の構え。

月色の神気が蔓を吹き飛ばし、大地を陥没させ、大気を揺るがす。

「俺は最期の最期まで抗う!」

「人の子を守る為に!」

「俺の心の月が曇ることは絶対に無い!!」


月香見ていてくれ、俺の闘志を。

君が遺したあの子達を守る為、今有る総ての力で奴に挑む。


「神の剣!」

「絶技 月鳴神つきなりのかみ!!」


微笑を浮かべ、神は高調する。

「心の高鳴りを感じるぞ...!!」

「勝てぬと知りながら尚挑む心意気!!」

「敵ながら尊敬の意を表す....!」

「最大の技で沈めよう...その命を!!」


怨火産霊えんほむす.....迦具土かぐづち!」 


暗闇の中、二柱は互いの絶技をぶつけ合う。

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