第23話 消えぬ遺恨、永遠の恋情
鴉が群れを為し飛びゆく、夕焼け空の神社で、幼き頃の俺は茜さんの幻影と対峙している。
「学くんは何故、
遠くから届く
だって、僕は....
「いつも立ち向かっては、やられて....」
「そこまでして何故守りたいの?」
声はトーンを落としながら空間をこだまする。
「自己満足? 正義心? 自分勝手な義務感? 良い人だと思われたいの?」
お前は誰だ。お前は茜さんじゃない。
「守る? 人の子を? 歴史を? その結果、お前が妄信ずる正義とやらで傷つき、命の灯火を絶たれる者が何と多いことか。」
うるさい。
「だって、僕は弱いから。出来る事なんてこれぐらいしかないんだよ。」
「クククッ」
「そうだ。お前は弱い。」
「精神力、体力、知力、技力、何もかも神に勝てやしない。」
ちがう。 勝ち負けなんかじゃない。
「我々、神に仇なす害虫め。」
神様の何が偉いってんだ。
「完璧な存在と不完全な存在。どちらが優位か自明の理であろう。」
....神様がどうしようもならないほどの馬鹿ばっかだって俺は知ってる。
境内の時間が止まる。
俺は握り拳を強くし、茜さんの姿をした何かに告げる。
「は?」
皆人間臭いんだ。
料理を食べると、弥栄の笑みで応える豊作の神。
一度は殺そうとした癖に、事あるごとに修行を付けてくれる師匠。
遠くから自分の子の成長を愛でる親馬鹿の神。
愛する人の子達の死で自暴自棄になった山の神。
自己肯定感を欠如してしまった哀れな
どんな時でも同じ苦しみ、痛みを共有してくれる猫の皮を被った神。
「そんな神々と人間は対等じゃねぇのか!?」
「人と神、何処が違うって言うんだ!?」
「時に間違い、時に迷い葛藤する。完璧な存在が、んなことするわけねぇだろ!!」
「俺達人間と神々は同じなんだ!!」
俺は諦めない。人と神が共生する歴史を取り戻すため戦う。
悪神の企てを何としても阻止する。
意識は急激に現実へと戻る。
伊邪那美、お前を倒す。
目の前の敵に集中しろ。今すべきことは....。
「がぁああああ!!!!」
血を吐きながら、剣を引き抜き後方へ下がる。
一撃で葬る。 その為に手段は問わない。
「神気全開放ォ!!」
全力の跳躍で彼女の頭上を抑える。
「...小賢しい....!!!」
伊邪那美は真上にいる俺に対して濃霧を今までに無い速度で噴出させ、迎撃する。
「はぁ!!」
身体から勢いよく神気が噴出され、霧の勢いと相殺しながら体に蓄積されていた毒素も大気中に溶けていく。
「この一撃で終わらせる!」
柄を握る力を強くする。
地上30mから繰り出す大技
神気を剣に集中させる。
彼女は自身の肉腫から巫女を創ると、弓を引かせる。
無数の風切り音が耳を
落下のエネルギーをそのまま刃に乗せる。
全力の唐竹割り....。
「天の剣
渾身の力を持ってして伊邪那美の身体を縦に斬る。
"天の剣"を冠する技は、文字通り空中から放つ剣技だ。
足場の自由が無く、踏ん張りの効かぬ宙空を舞った状態から繰り出す大技。
日輪照地は単純な唐竹割りだ。
しかし、その威力は落下する速度、位置の如何で増大する。
その破壊力は地を裂き、空を割る。
闇雲が晴れ、陽光が雲の裂け目から地面に差し込む。
約半年ぶりに顔を見せた日輪が、天照大御神が地面を照らす。
それは、伊邪那美によって凶行された此度の異変の終焉を告げる
「....人の子....如きに....吾が..黄泉大神の吾がァア」
徐々に崩れゆく女神に問う。
「あんたは、何故悪神に従うんだ?」
「...子の為....不憫な子達の為....吾が捨てた...憐れな子たち....」
「我が背に復讐を....愛しき我が背に....
「嗚呼...懐かしや...共に混沌の海原から子供たちを産み出し...」
伊邪那美の身体に変化が現れた。
ドロドロに腐った肉腫が陽光に焼け、爛れ地面に落ちる。
彼女本来の姿が顕となる。
「共に人の子を愛すると誓った。」
彼女は絶え絶えの息の中、声を振り絞る。
「だのに、だのに、吾の迷い、嫉妬が...」
「私を狂わせた....。」
「柱を回り、夫婦となった我が背、伊邪那岐の雄々しく凛々しい姿。兄妹ではなく夫婦として、私を愛してくれた背に、嫉妬した。」
「そして、あの子を立て、
「不完全な子を
「なんだって!?」
「子を産んだ私に負が、業が、罪があると信じ離したかった。」
「人の子を殺すと背に誓った際もそうだ。殺すと約束すれば、伊邪那岐は私の事を忘れないだろうと...醜悪な姿となった私を意識すると....」
「それじゃあ!!」
「そうだ。全ては私の自尊心、引いては幼稚な嫉妬心....。」
「あんたのエゴで....あんたが全ての元凶だったのか!!」
どんどん地面に吸われゆく伊邪那美に声を荒げる。
「伊邪那美、返事をしろ!!」
「人、神、全ての森羅万象に謝れ!!!」
「もう、無駄じゃ。彼女は黄泉の世界へ帰った。」
白玉様が嗄れた声で俺を諭す。
「過去は過去、仕方のない事じゃ。」
「お前がいた時代でも、彼女は.....」
後方で大きな音が鳴り響く。
「!」
月読命はまだ戦っているんだ。助けに行かなければ。
「くそ、急に力が....」
「神気全開放を使ったのじゃ、仕方あるまい。」
「でも、今やらなきゃ ...
安麻呂と月夜女の顔が脳裏を過る。
「地の剣!!」
「閃雷!!!!」
時間にしてあと10秒も残っていない。
この動ける10秒間で月読命を助ける。
雷の轟音と共に月読命が対峙する神に急接近し、刃を振り下ろす。
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