第22話 終への序章

地の剣 月弧は、刀で目の前半月を描く様に空間を薙ぎ前方からの攻撃を無効化する剣技である。

「ウズメさん! 立てますか!?」

「は、はい!」

「離れて下さい! どこか遠くに!!」

巫女の姿をした伊邪那美の分身は次々に矢を放つ。

「くっ!」

天宇受売命が後方へ離れた事を確認し、俺は息を吸う。

神気が身体中に流れ、力が漲る。

「神気開放! 地の剣、閃雷!!」

矢が自身に命中する極僅かな時間を利用し脚に神気を溜め、上半身を撚る。



「がぁっ!!」

突然、天宇受売命の悲鳴が聞こえ、注目する。

「な、何故.....」

「此処に....」

何者かが、彼女の胸に鉾を突き刺している。

血が止めどなく溢れ、目から生気が失われていく。


「ぐっ!」

5本の矢が俺に命中する。

天宇受売命あめのうずめのみことに注意を引かれすぎた...。


「ウズメさん!!」

矢を引き抜く。

「だ、誰に!!」

ふと脳裏にある言葉が過る。

「僕は中立だよ?」

中立、謂わば味方にも敵にも成りうる1番厄介な立場だ。

月読命が敵側に付いたのか...。

しかし、天宇受売命を貫いている鉾の持ち主は月読命ではなかった。

それは....全身に悪寒が走る。死が脳内を支配する。

「あ、悪神....!」

「何故ここに!?」

俺が現実の理解に苦している瞬間にも矢は飛んでくる。

「地の剣 月弧!」

くそ、伊邪那美に近づけない。

天宇受売命を助けることも叶わない。

どうすれば.....。


聞き慣れた声が後方から届く。

「俺が忌神の注意を引く! その間に母...、伊邪那美を黄泉の国へ戻してくれ!」

「月読命!!」

彼は悪神の元へ瞬間移動し、月の模様が施された直剣で応戦する。

「あー、でも速く倒せよ? 俺もそこまで戦闘力はないからね。」

「でも、お前、なんで....」

「んでも、学クンよりは強いけどね〜。」

激しく刀と鉾の刀身同士がぶつかる。

「そんなこと言ってる余裕あるのかよ!?」


彼の口調が険しいものに変わる。

「学、敵に集中しろ!」

「そうじゃ、月読命の言う通りじゃ」

「白玉様、居たのですね...。」

息を吸い込み、神気を体内に取り入れる。

「わかってます!」


神気開放、一瞬で距離を詰め決定打を与える。

「地の剣 閃雷!!」

彼女を目と鼻の先に捉えた時、伊邪那美の腐食された身体から神気が発せられた。

濃密な霧のように可視化されたそれは、撹乱の為だろうか。

神気の濃霧に突入した瞬間、吐血した。

「ぐはぁ!!」

咳き込む、これは....毒か。

後方へ引き、様子を見る。

「あの霧...厄介じゃな。」

「しかも、正体は神気じゃ。お前と相性最悪じゃな。」

俺は声が出せない。白玉様は持論を展開する。

「お前は恒常的に神気を吸収し、その体内に溜めている。」

「あの神は、お前が気付かぬ程度の毒を含ませた神気を微量じゃが放出していたようじゃ。」

「よもや、神々ですら察知できぬ程度にな。」


何とか呼吸しなければ、酸欠で目の前が暗くなる。

後方では、何者かと月読命が熾烈を極める戦闘を行っている。

剣と鉾が中る度、地は揺れ、空が割れる。

身体に流れ込んだ毒を打ち消す術はない。

「ならば!」

「神気全....!!」

駄目だ。今神気を全開放すれば俺の身体は....月読命を助ける術がない。


そんな俺が選択したのは

「毒なんてまやかし...朧げな幻覚、幻影...。動け俺の身体、動け!!」

自己暗示だった。

「ふぅ...!!」

立ち上がり、1点を見つめる。

伊邪那美に突進し、毒の神気を掻い潜りつつ一撃を持って葬る。

「神気開放!」

前方の空に飛び上がり、伊邪那美の攻撃を空へと集中させる。

霧が剣先に届いた瞬間、神気を真上に放出し地表へ急降下する。

着地と同時に、剣を握る両手を右肩の位置まで引き、突きの構えを取り、踏み込む。

「地の剣! 渦鉾かほこ神攻じんぐう

彼女は自身の左手を前に出す。

しかし、渦鉾・神功は突きに特化した神技だ。


鎧無くして防ぎきれるはずがない。

「うおぉぉ!!!」

左手から肩まで一直線に突き刺した。



「.....人の子に吾ら神を....討伐など....」

「....愚かなり」

天照あまてらす.....!!!」

彼女は口の形状すら視認出来ない、口の辺りを歪ませる。

「.....逝ね.....愚人よ」

剣が抜けない。

いや、違う。剣先が彼女に吸収されて行っている。

拳まで彼女の肉腫が侵食してくる。

「....!!!」

信じられない速度と量の神気が彼女の身体から放出される。

「ぐっ!!!」



深い毒霧の中に俺の身体は沈む。

意識を失う寸前、俺の瞳は捉えた。

彼女の背後で戦う2柱の姿を。




怨火産霊えんほむす...終黄泉原おわりのよみがはら!!」

「神の剣 月鳴げつめい!!」

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