第21話 黄泉大神

「.....これが清酒か...」

「旨いな」

月読命の歓迎を受け、神々の宴会に参加している。


「なんで、こんな場所で宴会なんか開いてんだよ?」

「こんなご時世だからね。んと? ストレス?ってのが溜まるのさ。」

「よくその言葉知ってるな。」

「君の頭の中を覗けば1発さ。」

若干引きぎみで口にする。

「お前、そんな事できるのかよ...」


心地よい酔いが全身を包む。

寝転び空を仰ぐ。

「はぁ。今頃親父と酒呑んでたのかな。」

「悪神がいなければ。」

月読命は俺の心の叫びを肴に呑む。

「何でもかんでも神のにしないでくれ。」

月読つくよみてめぇ、俺達か悪神達、どっちの味方なんだよ。」

「言ったろ? 僕は中立だって。」

「それよりも彼女の舞が始まるよ。」

「あれは、懐かしい。姉神ねぇさん天之岩戸あめのいわとから引きずり出した時の舞だ。」



妖艶な神気を放つ彼女の名は天宇受売命あめのうずめのみことだと白玉様がそっぽ向いた状態で教えてくれた。

「白玉様.....身体が....」

「彼女の舞には森羅万象を魅力する能力がある。1度目を合わせれば最後、舞が終わるまで金縛り状態になる。」

焦点が彼女に固定されている。

指先の感覚がない。

天宇受売命が俺を見て微笑む。

「っ! なんで彼女脱いで....!!」

視界の外にいる月読命が笑いながら言う。

「彼女のへきと言うか……、巫女神としてのさがと言うか……、注目を集める程熱くなるんだろうね。身も心も。」

「自分の能力で!?」

俺と月読命の話しを他所に宴会に参加している神々は布1枚となった彼女に向け歓声をあげる。

「うおおおお!!」

「いいぞぉー!!!!」


「うるせぇよ! エロ神どもぉ!!」




宴から2日経った。

何故か天宇受売命が着いてきている。

月読の言動を監視する為だとは言っているが....

俺たち一行は見慣れた暗闇の中、富士山が一望出来る野原に出た。

「神気が濃い....」

「此度の異変の元凶がいるようじゃな。」

俺は頬を叩き、痛みを思い起こす。

惚けるな。敵が居るんだ。この平原に。

でも何処に??


「どうしてか暗い顔をされていますね。」

そう声をかけてきたのは天宇受売命あめのうずめのみことだった。

彼女は舞の旅の途中だそうで、何故か俺達に着いてきたのだ。

「ウズメさん。此処は危険ですから下がって....」

俺と月読命、白玉様の視線が前方50メートルの位置に集中する。


「誰だ....?」

月読命が掠れた声を発する。

「………母上……だ。 母上がいる……」


彼の声色は、怯えているような、信じられないといった様子だった。


彼が揺れる瞳を向ける先を見る。




そこには確かに女性らしき何者かがいた。 "らしき"ものだ。

「なんだよ………アレ……神なのか……」

全身の皮膚がただれれ、髪は焼け落ち、顔がある部分には黒い肉腫が所狭しと張り付いている。

そして、指の先からは骨が見え隠れしている様は神とは形容し難いモノだった。



伊邪那美いざなみ様じゃ。」

俺は地面に座っている白玉様を見る。

「嘘でしょ? アレは、そんな、」

言葉が出ない。 今にも吐きそうだ。 口元を押さえる。


「嘘ではない。 黄泉よみの国から出てきたのじゃろう。」

「黄泉の国……?」

「女神は最愛の子供の出産の際、局部に火傷を負い、死んだ。」

「そして、黄泉の国の神となった。」

「黄泉の国から連れ出す事が出来るのは……奴しかいない!」

「瀬織津姫が言っていた事は真実だったのか!?!?」

俺は彼女に叫ぶ。 足が震える。声を張らないと恐怖心に押し潰されそうになる。

「彼女が一体何を!?」

「淤能碁呂島の封印は解かれた。」

月読命の声が聞こえた。 

「そんな……。」

天宇受賣命と俺は息のような声を出した。



「母上!? 何故そこに居られるのです!!」

月読命が大声で叫ぶ。

返答は少しの間の後帰ってきた。

「....その名で呼ぶな.....」

「....我がの息子よ....」

「忌々しい...嗚呼忌々しきかな。.....みそぎで産まれた月神よ.....我から決別した背の...背のぉ.....」

今までに無い負の神気が彼女の身体から吹き出る。


彼女は俺を見て憎悪を込め言う。

「そこに居るは人の子.....何故死滅しておらぬ....そうか、背の言葉通り増えているのだな....害虫が。」

白玉様が解説に入る。

「彼女は毎日1000人の人間を殺すと伊邪那岐いざなぎ様に誓われた、しかし、かの神様は毎日1500人の人の子を生み出すと約束された.....」

伊邪那美は白玉様の言葉に被せ、言う。

「.....ならば....10万、100万と殺す事にしよう。」

「"あの子"の為に」


天宇受売命が彼女に問う

「あの子....悪神のことですか?」

「...悪神...慎め....口を慎め!!」

「!」

「か、かの悪神は、人の子...いや高天原たかあまはら葦原中国あしはらのなかつくにを滅ぼすのですよ!」

「....母として....子を守る....不憫ふびんなあの子を...」


伊邪那美は自身の体から眷属神を5柱生成し、弓を引かす。

飛ぶ矢は嫌な金切り音を伴い空を裂く。

天宇受売命に向かって放たれたようだ。

「ウズメさん!!」

「神気開放!!」

足に力を込め、前方にいる天宇受売命の前に出る。

顔を手で覆い、恐怖で強張る彼女に矢は尚速度を増し接近する。


「地の剣 月弧げっこ!」


かくして戦いの火蓋は開かれた。

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