第16話 神の剣技
国津神の左腕が抜かれる。
今まで感じたことのない痛みと、出血を伴い脳内に死の一文字が浮かぶ。
国津神は剣を両手で握り天に掲げる。
「この一撃で貴様の命を断つ。」
「ま、待て国津神...」
彼は嘲笑と共に言う
「今さら助命か?」
「我に剣を向け、敗れた。」
「貴様はその事実の下、土へと還る。」
「お前はよく頑張った。」
彼の優しげな声色に頭が真っ白になる。
痛みが無くなる。
「理不尽にもこの世に来たりて、神との鍛錬に血反吐の思いで励み死の瞬間まで来た。」
「もう苦しまなくて良い。」
「死は人の子にとって救いなのだ。自由への開放なのだ。」
国津神の神気の色が変わる。
彼の神気が身体の中に流れ込み、俺の中で映像が流れだす。
これは国津神の記憶だろうか、俺の幻覚や妄想の類なのか。
「まだ、死ねない....」
「あんたが俺の人生を語るな。」
「自分勝手に憂慮するんじゃねぇよ....!」
俺は拳を握り締め立ち上がる。
「らぁ!!」
今ある渾身の力で右ストレートを彼の胸に放つ。
「死が救いだと?」
「人は死が怖いから生きるんだ。死の恐怖を忘れる為に毎日を必死に生きている!」
「どんなに苦しくても明日は良い日になると希望を持って生きている。」
「俺達を侮辱するんじゃねぇよ!!」
「あんたの物差しで俺達を測んじゃねぇ!」
鳩尾を蹴られ後方へ吹き飛ばされる。
「ガッ!」
無感情で彼は言い放つ。
「死ねば全て楽になる。」
「一瞬の恐怖の後には何も感じない。残らない。」
血が吹き出る腹を抑え止血に努めるが、指の隙間から鮮血が止まらない。
少しでも筋肉を引き締め、神気を腹に集中させ、時間を稼ぎ体力の消耗を少なくする。
「....それが怖いんだよ。」
「楽しかった記憶、悲しかった記憶。生きた全ての時間。」
「命に制限時間が設けられている人間だからこそ、そんな記憶や感情が、言葉では言い表せない程愛おしいんだ。」
立ち上がる。何度でも立ち上がる。国津神の言っている事、考えている事全てを俺は否定してやる。
人間本意な考えかもしれない。
それこそ、天照大御神を含めた神々は国津神の思想と同じかも知れない。
人の子は神の前では圧倒的に無力なのだから。
それでも、俺は一人の人間として
建御雷神から伝授された構えを取る。
抜刀した状態で一番速く力強く刀を振り切る。
世の全てを一閃の前に斬り伏せる。
両足は地に根を張るように固定し、上半身を捻り刀に神気を灯す。
「地の
「綺麗事ばかり抜かせども世は変わらぬ!!」
「死と言う暗闇が人の子の心を曇らすのならば、我が取り除く!」
木面が激しく動き、今にも顔から取れそうになる。
面には三角や丸模様が縁を飾り、優しげな表情をしている。
俺は脳内を流れる映像でその面を見た。
たった一人の女の子と木面。
彼はそれだけで心が壊れてしまった事もわかった。
俺と国津神は互いに構えを取り沈黙が禿げ上がった山頂を包み込む。
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