第14話 懺悔

放心状態の瀬織津姫せおりつひめを抱え、淡路島へ泳いで渡った。


幸いにも白玉様が神気を流してくれていたので、神気の道に沿って泳げば体力の消費を抑えられた。



浜辺につき、木陰に二人を降ろす。

軽く腹部の手当てを施した。


数分の後、女神に対する尋問が始まった。

「瀬織津姫。」

白玉様の声に彼女の肩が上がる。

「何故、悪神についた?」

「戦う力を持っておらぬ貴様が何故?」


小さく口を開き言う。

「......だからです。」

「聴こえぬ。」

「認めて....欲しかったからです。」


言葉を一つ一つ喉から捻り出す彼女をみて心が痛む。

「わ、私は、産まれた時から、誰にも知られず、ひっそりと、父様と過ごして来ました。」

「父様は、私に....存在が知られなくても、海原の様な心で人の子を見つめよ。と何度も仰っていました。」


「し、しかし、人の子を見つめていても私の心は満たされなかった。」


「この世に生を受け、成長し、契りを交わし、老いて死ぬ。」

「人の子の世の螺旋の中で、"瀬織津姫"の存在は極々一部の者にしか知られていませんでした。」


「高天原の神々からも次第に私の事は忘れられて行きました。」

白玉様は激高する。

「だからといって、悪神に加担して良い道理はない!!」


眼を閉じ、膝を抱え震えている瀬織津姫を牙を向き責める白玉様をみて、俺は止めに入る。


「白玉様、落ち着きましょう。」

白い猫の姿の神を抱っこし、彼女から遠くに引き離す。


彼女に歩み寄り、優しい声色で切り出す。

瀬織津姫せおりつひめ。少しいいか。」

「さっきの話を聞いて思った事がある。」


腰に差していた刀を地面に置き、敵意や殺意が無いことを伝える。


俺は頬を掻き、頭を下げる。

「瀬織津姫の心が荒れてしまったのは俺達人間に一因がある。」

「ごめんなさい。」

「え?」


「今も、これからも、これまでも、瀬織津姫と対話するのは俺ぐらいだろうし、全人類を代表して謝らせてくれ。」

彼女は慌てふためく。

「あ、頭を上げて下さい!」

「わ、私は貴方を殺そうとしました!」

「そんな愚神に対して頭を下げるなんて....」


頭を上げ、言う。

「瀬織津姫はすげぇよ。」

「認知されない事を知っていて、人を愛していたなんて。」

愛と憎しみは紙一重だ。

「普通の人や神じゃ中々出来ないよ。」


「今からでも遅くはない。」

俺は彼女に手を伸ばす。

「戻ってこい。瀬織津姫。」

「他の神があんたに何を言おうと、俺は瀬織津姫を守る。」


「この時代に来るときに誓ったんだ。」

「歴史、人、神....俺に守れる物は全てこの手で救うって。」


「戻ってこい。」


彼女は大粒の涙を流しながら手を伸ばす。

「ごめんなさい! 私は間違っていました....!」

「愛するべき大切な人の子の一人である学様を葬ろうとするなど...!!」


手が触れ合った瞬間だった。

白玉様が此方に全力で走ってくる。

「離れろ! 瀬織津姫から離れるのじゃ!!!」


刹那、猛スピードで俺と瀬織津姫の間を横切る何かがいた。


「え?」

過ぎ去った方向をみると、一人の仮面を被った男神が佇んでいた。


血の様な、海水のような何かが俺の右頬に辺り、首をその方へ戻す。


瀬織津姫の首が地面に落ちていた。

「!!」


「哀れや...瀬織津姫よ。」

「彼の神に誓ったではないか。」

「全てを滅ぼすと。だのに何故、寝返る?」


男神の声は彼女に聞こえていない。

生首となった彼女は虚ろな目で呟く。

「い、嫌だ、....消えたくない」

「父様、助けて、助けて....」


彼は高々と飛び上がり、ある山の方へ消えて行った。



俺は一瞬で理解した。

奴が淡路の国津神。

俺が倒すべき神だ。



静かな怒りを殺し、語気を強め駆け寄る白玉様に言う。

「白玉様、瀬織津姫を頼みます。」

「絶対に見捨てないで下さい。」



国津神の後を追って俺は走り出した。

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