淡路の神 編

第12話 海の姫

「天と地、人と神。」

「善と悪。」 


「対なるものなど必要ない。」

「我が...我らが彼の神の名の下に全てを消す。」


「理想郷を創る為、愚かな人の子よ。」

高天原たかあまはら葦原中国あしはらのなかつくにの神々。」

「それらを統べる天照大御神あまてらすおおみかみよ。」


徒花あだばなと散れ... 」


ーーーーーーーー

神気が視えるようになってから、五感が以前よりも鋭敏になった。


何となく、神気の持ち主の善悪も判る。

赤色や黒色なら敵対心をもっており、相対に青や白ならば友好的だと感じられる。


触れる事は出来ない。

手を伸ばせども、霞の様に漂うそれらは、掌を糸のように貫通する。


しかし、体内に吸収される。

実に不思議な物質だ。


珠に小動物からその気が発せられている事もある。

白玉様のように....。

彼女は特別に例外だが、普通の犬猫から放出されている場合はそれらの生物が眷属神と言う括りで、人間を見守っていると、白玉様は言う。


そう言えば、信楽さんも言っていた。

神社で動物に会えば、頭を下げ挨拶をしろ。と。



「学。建御雷神を倒したからと言って浮かれては行けぬぞ。」

不意に白玉様の声が聞こえ、振り向く。

「白玉様、お久しぶりですね。」

「はい。勿論鍛錬は続けていますよ。」

「白玉様、ここ2、3日いなかったから知らないでしょうけど!」


俺は建御雷神との鍛錬に励んでいる。

師、建御雷神は恐ろしい。

彼は俺に斬られて3分後には立ち上がり素振りを初めたと聞く。

神気全開放は全ての感覚器官の能力を最大限以上に引き伸ばすが、せいぜい10秒間しか身体が持たない。

代償に数日は身体が全く動かせなくなる。


思金神おもいかねのかみに会ってたのじゃ。」

「彼奴....猫の姿をみて腹を抱えて笑っていたのじゃ!!」

ふしゃー!と鳴きながら部屋の柱に爪とぎを始めた


咳払いを一つして話を切り出す。

「所で、白玉様」

「俺に何か用でしょうか?」

「普段、用がある時にしか現れないじゃないですか...」


「ああ。」

「今から淡路へと向うのじゃ。」

「名も無い国津神が悪神に同調したと報告が上がっておる。」


「国津神??」

彼女はため息をつき、冷ややかな目で見る。

「簡単に言うと土地神の事じゃ」

「なるほど。」



淡路島、日本列島が生まれる前に伊邪那岐と伊邪那美によって生み出された島だ。


「って!今からですか!?」

「今からじゃ!」

「ナウ!?」

「なう!!....??」

吹き出してしまう。

NOWの意味を良くわかってない彼女の表情が面白い。


剣を腰の帯に差す。

不安はある。

建御雷神にあれだけ苦戦したのに、戦闘方法も武器も知らぬ神々との戦いに身を投じる事だ。

「腹括るしかないよな。」



俺と彼女は淡路島に向けて歩きだした。






ーーーーーーーー

現在の大阪に出るには出られたのだが、淡路島に行く為の船がない。


遠方に見える淡路島には、厚く黒い雲が上空を覆っており、雷鳴が鳴り響いていた。


海の波も高く、まるで嵐が到来しているようだ。

この荒海の中船を出してくれる人など居ない。


どうするかと思案していた時、一人の女性が音も無く近づいてきた。


白と青色で構成されている天女のような服装をしており、長い髪の毛を髪を丸く纏め、残りを肩甲骨辺りまで垂らしている。


神気が身体から出ている。神様だ。

しかし、異様な程、神気の量が少ない。

「お初にお目にかかります学様。」

「淡路までの船を準備しておりました。」

深々と頭を下げる彼女の身体からは生気が感じられなかった。


「"名"を....私の"名"は...」

「"名"を瀬織津姫せおりつひめと申します。」

真っ白な瞳を持つ彼女は首を傾け、少し微笑んだ。

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