第11話 秘める想い

手応えはある。


まだ倒れるな、相手は人智を凌駕りょうがしている神様だ。


「負けるか...!!」

力の入らぬ膝に神気を集める。

「踏ん張れ....!」


刀身を地面に刺し、荒い息をあげる。


その時気づいた。

目の前に漂う神気が見れない。いや、神気じんぎその物を感じることができない。


「学が持っている神気が周囲のそれと呼応する事で人の子で在れども神の気を感じられる。」

「体内に温存していた神気を全て出せばそうなる。」


「白玉様!? 何処に!」

「目の前におるじゃろ。今のお前には見えんじゃろうが」

「三日もすれば戻る。」


何が戻るんだ....そう思案した瞬間だった。

大木の影に日国光巫女ひくにみのみこの姿を見た。


彼女は酷く驚いてた。

俺より前方を目視し、身体が震えていた。



何処かにあかねさんの面影がある。

長い黒髪、優しげな瞳。

「そう言えば、俺...茜さんに....」

気を抜いた瞬間だった。


木の葉が重力に逆らえぬように地面に倒れた。



淡い光が瞼の奥に差し込む。

神と知り合ってから気絶してばかりだ。

身体が限界を超えるたび気を失う。


目を閉じたまま、意識を全身に注力する。

手足は動かせる。内臓の損傷もなさそうだ。


「っ!」

目を開けると、神気が漂ってた。

非日常的な風景が俺にはもう日常となっている。。


神気が揺れる。

誰かが走ってくる。

「稲守様!!」

佐久夜郎女だ。

「...佐久夜さん....」


「もう、三日間も眠っていたのですよ!! 私心配で....」

「このお方が居なければどうなっていた事か....」


彼女はそう言いながら視線をある優男に移す。

「天香久山で気絶していた所を僕が助けたんだ。」


彼は両耳に半月の耳飾りをしており、色艶のよい黒髪をしている。

「ありがとうございます。」

「いやいや、僕は君の事を知っているから協力したいだけなんだよ。」


違和感を覚える。

俺を知っている?


「僕はこの後外せない用事があるから帰るね」

「この度はありがとうございました月邇様。」


月邇と呼ばれた男は立ち上がりながら呟く。

「奴に勝つなんて凄いなぁ。」


「これからを期待しているよ。」


「学くん」


「!!」

固まっている俺を他所よそに彼は踵を返し歩いていく。

「僕を含め、全ての.....がね。」



自ずと身体は剣を取った。

身体が忠告している。

あいつは何か危険だと。


彼が濃い神気の中に消えていく。



「.....!!」

「.....さま!!!」 


「稲守様!!」

佐久夜の声でハッとする。


柄を無意識に握っていた俺の手を握り、俺の名を叫んでいた。


「っ!!」

「す、すみません。」

彼女は怒った口調で言う。

「貴方は命の恩人に刃を向けるのですか??」


「いや、あの.....」


言葉が出ない。

どう弁明しても、きっと納得して貰えない。


沈黙が二人を包む。



沈黙を破ったのは彼女だった。

「私には、あの方が最後に話していた言葉、言語がわかりませんでした。」


「貴方はその言葉に反応しました。」

「同郷出身なのですか?」


「隋でも伽耶かやでも、百済や新羅、高句麗でもない。」

「まつろわぬ者達の言葉でもありません。」


「貴方は何処から来たのですか?」


「......教えて頂けませんか?」


「貴方の口から、ご自身の事を聞かなければ...」


「私は先に進むことができません。」


少しの間の後、胸に手を当てゆっくりと告げる。

「胸が熱くなる想いをことに乗せ、貴方と向き合うことが出来ません。」



一呼吸を置き、伝える。

「今は言えない。」

悲壮な表情になる彼女に告げる。

「でも、いつか必ず伝える。」


「いつか。必ず。」

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