第10話 刹那の決戦

 絶望に打ちのめされ、自身の限界に気づいた時、人は歩みを止める。


しかし、歩み続けねばならない者がいる。



ーーーーーーー


勝負は一瞬。

油断、慢心そんな物は捨てろ。


俺はせいぜい一撃入れるのがやっとだ。

建御雷神たけみかづちのかみの雷が宿る刃が牙を向く。


白玉様が白銀の毛を一本宙に漂わせる。


それが俺と建御雷神の間に入った瞬間に始まった。


神気を全身に巡らせ、一瞬で距離を詰める。

「!!」

抜刀して斬りつけるが、躱される。


身体に集中させている神気を両腕に纏わせ、間髪入れずに二撃目を放つ。


速度に破壊力それに斬撃力と、人智を超えた力が加わる。



「見事!」

だが、俺の剣は神には届かない。

寸での所で鍔迫り合いになる。


もっともっと神気を染み込ませろ。

身体の表面から奥底にまで。


「うおぉ!!」

両手で柄が軋む程握り、押し返す。


建御雷神は薄ら笑いを浮かべ飛び上がる。

俺も追従する。

15メートルを超えた辺りで漂っている神気の雰囲気が変わった。

 

彼の頭を抑えた。

身を反転させ、渾身の袈裟けさ斬りを繰り出すが、手応えは無い。

蜃気楼しんきろうの如く、彼の身体は夜の闇に消えた。


「ふん!」

神速の振り下ろしが俺の額目掛けて一直線に落ちてくる。


「!?」

咄嗟に月に頭を向け、刀で受ける。

上空から烈火の如く雷が降り注ぐ。


雷鳴に包まれながら全身が地に落ちていく。


感じたことの無い強力な重力に空中で身動きがとれず、木の葉散り乱れる地面に激突する。


息ができない...。

全身が、己の死を回避しようと危険信号を出し続けている。



剣を離すな...。

柄を握る右手を緩めるな。


理性でそれらを抑え込む。

今、離してしまうと今までの努力や苦難が水泡にすと直感で感じる。



「やはり、今の貴様では神に勝てない。」

非情な言葉が耳を刺す。


こんな所で、止まる訳には行かない。


「刀を置き、降参するのだ。」


痛み、悲鳴を上げる身体を起こす。


「何故、立ち上がる?」


白黒かつ極端に狭くなった視界を睨む。

「!」

彼を中心に渦巻く神気じんぎの中に突っ込む。

あわよくば、それらを吸収出来るかもしれない。


俺の意図を読まれるな!

真っ直ぐ。ただひたすら前に進め!


あらん限りの声を上げる。


「俺は諦めない!」


「神気開放!!」


俺の想いと決意により放出される神気に炎が灯る。


「はぁぁ!!」

神気を出しながら建御雷神に猛突進する。


間合いは瞬きをする間に詰まった。


渦巻く神気が俺の神気とぶつかる。



目をカッと見開き、建御雷神を視る。


この渦を巻き取れ!


油断すれば、隙を見せればこの神気に命を吸い取られる!


「死ねない! まだ死ぬわけには行かない!!」


""!!!!」


俺の身体に残る全ての神気を開放させる。

その衝撃は空間を爆発させ、連鎖的に建御雷神に纏っていた神気が消え失せる。


両手から剣に向け、神気を集中させる。


「何!? 刀身に神気が宿っただと...!?」


咄嗟に刀を握り直し防御するが.....



この一撃で建御雷神たけみかづちのかみの雷を宿した刀ごとねじ伏せる。


薙ぎ払え! 


空間を!

神気の壁を! 

建御雷神を!!


「うおおおお!!!」


時間にすれば刹那。


胴に向け斬り上げた剣閃は確実に建御雷神を切り裂いた。


彼の刀は月夜に照らされながら二つに折れた。

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