巫女の手記1
燃え盛る炎に焼かれる両親を私は忘れない。
眼前に広がった血生臭い光景を決して忘れない。
謀反を企てた罪人の身内として、私達家族は平穏な日々を奪われた。
皇族の娘として生を受け、
両親と話している時、いつも他の"何者"かの声が聞こえた。
「あの娘は大層美しい。」
「年頃になろう頃には、高位なる神の側室として迎えられるであろうな。」
「しかし...人の子と神が交わるなど...」
「前例の数...数多なり。」
決まって私は耳を塞いだ。
母様と父様だけの声を聴きたい。
私と家族の時間を邪魔されたくなかった。
幼子だった私に神々は乗り移り、真偽の混じった神託を言わせた。
神が宿る仮の肉体。
そんな自分が大嫌いだ。
いつしか元来の能力を恨み、口を閉じた。
人々からは気味悪がられ、誰も相手にしてくれなかった。
ただ、同じ年頃の一人の少女は、私に優しく接してくれた。
空を焦がす日輪を受け、鱗を煌めかせる龍を見ている時、彼女は話しかけて来た。
「あなた、何を見ているの?」
「......」
少女は話し出しす。
「私、
「
「あなた、神様のお声が聞けるのでしょう?」
「......」
「凄いですわ!」
私は顔をハッと上げた。
天真爛漫で、瞳を西方から渡来したガラスの様に輝かせる彼女に驚く。
「お名前は?」
この時だけは声を出せると思えた。
いつも喉元で止まる声が。
「ひ、.....く、.....に」
「"ひくにちゃん"ですわね!」
「これはお友達になった証ですわ!」
彼女は勾玉を一つくれた。
緑色で、神の言霊を受ける社で嫌ほど見てきたそれだ。
しかし、この時ばかりは胸が熱くなった。
それから暫くして、蘇我馬子殿が私達の家に押し入って来た。
「恐れながらも帝の親戚に当たる貴殿らに謀反の疑いが持たれました。」
彼は不気味な笑みを浮かべた後、父を見て告げる。
「貴殿が企てたる計画は、かの武烈の帝様が犯した残虐かつ卑劣な行為と同等であり、我らの政権に楯突く"賊"として、処罰する。」
父は潔白だ。
昨日も一昨日も同じ床で寝ていた。
母も私と顔を合わせながら寝ていた。
両親は私を抱きしめながら弁明していたが、屋敷に火が放たれた。
燃え盛る炎の中、父と母は斬られ命を落とした。
私も殺される直前、大和の大巫女様がやって来て、私を庇った。
もう、何も聴きたく無かった。
私は再度声と耳を塞いだ。
気がつくと、
何も話さない私に大巫女様は様々な事を教えてくれた。
此処で生きていく事。
一生、神の言葉を伝える者として生きるので有れば、命だけは助けて貰える事。
巫女としての修行はとても苦しかった。
何度も死のうと思った。
しかし、私が死ねば、父と母の遺産物が一切無くなってしまう。
あの日、屋敷は全焼し、二人が生きた証が私だけになってしまった。
男と交わり子を作れない私は孤独な生涯を全うするしかない。
感情は無くなり、私の心には優しい両親と佐久夜と名乗る少女の思い出のみが残った。
喜怒哀楽の感情を消した私は、巫女として稀代の逸材に成れた。
人には映らない
そんな折、一つの神託を受けた。
「悪神を討つ者が現れる。」
身体中を違和感が走る様になった。
この先、
胸騒ぎが大きくなる。
人は死に絶え、山々は枯れ、大地が割れる。
そんな光景が脳裏に張り付く。
ある夜、神気が激しく流動しており、不審に思った。
それが織りなす道を歩いていくと、"彼"がいた。
人の能力を越えた跳躍で、大木を飛び越える彼の様を見て、高揚した。
胸が高鳴り、言いようのない感情がこみ上げてきた。
この感情は一体.....。
足は自然と倒れ込む彼の元に動き、
彼が起きた。
我らの運命は彼の両肩に重く伸し掛かっている。
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