女中の日記 1

初めて、あの方を見たのは推古様が開催なされた儀式の日でした。


日国ちゃん....いえ、巫女様も山から降りらる事が、許可されていました。


そんな時、彼はいました。


日本語が通じず、かと言って大陸のずい国や我らの友好国である伽耶かや国の言語も通じませんでした。


彼は巫女様と推古様の懇意により、牢屋に入れられましたが、一ヶ月後には、摂政せっしょう様が出牢を許可なされました。


そんな折に私は彼と対面しました。


彼は頭を下げ、部屋の掃除を夜通し行っていた私達に彼は謝意を表明しました。


日本語ではありませんでした。


彼は何処から来たのでしょうか。


そして、帰る場所はあるのか。 私には.... 何もわかりません。


私は彼の食事を持っていく時にしか彼と会えません。


元は罪人扱いだったのに、何故か今では外国とつくにから来た客人扱いです。


珠に虚空に向かって一人で話していました。


俄然興味が出るのは、当然でした。


朝餉あさげ夕餉ゆうげの時間で私は彼に日本の文化、言葉、歴史を教えました。


言葉についての授業は難航しました。


彼の元いた国でも紙と筆は有ったようです。

そして大陸の文字も有るようです。


パ行とつぁ行を彼はハ行、サ行と発音します。


歴史の時間では、目を丸くして私の話を聞きます。


ここ一ヶ月の間、彼は日に日に疲れを見せ始めています。


私が運ぶ飯にも手をつけなくなりました。


何故かと尋ねた所、彼は答えました。


「俺は、俺には....何も達成できない。」


何を意味するのかは、わかりません。


しかし、彼の運命がまるでその"何か"に握られているかのように感じました。



私は決まって、亡き母の言葉を彼に伝えます。



「どんなに苦しい時でも、悲しい時でも、心や想いの火を絶やしてはいけません。」

「前に進み続けるしかないのです。」




彼が進み続ける先がどんな運命なのかは神仏にしかわからないでしょう。


今日も彼は出かける。

私には、彼の帰りを待つことしか出来ません。

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