第6話 神の気
夜明け前には、板蓋宮へと戻った。
無断で牢屋を出、帰ってきた俺を待っていたのは、女中であろう方達だった。
俺に何かを告げ、着いてくるよう促される。
彼女たちは、ある部屋の前で歩みを止めると一斉に振り向き、「そこに入れ」と俺に指示する。
彼女らは清掃道具を持っていた。
「もしかして、夜通し掃除をしてくれていたのか!?」
白玉様が彼女らを見て言う。
「そうみたいじゃな。」
俺はお辞儀をし、礼を言う。
「ありがとうございます!」
彼女達は、聞き慣れない言葉に困惑するも、お辞儀をし返してくれた。
昼過ぎ、俺は都から少し離れた野原にいる。
どうやら、俺は罪人として牢屋に入れられる事態はなく、むしろ待遇がよくなって来ている。
白玉様にもその事を聞いてみたが、知らぬ存ぜぬを貫いている。
突然、白玉様は立ち止まる。
「学。お前の目の前に何が、見える?」
彼女の問いに、眼前の風景をそのまま答える。
「野原....としか....」
「それが正常じゃ。」
「しかし、それでは神とは戦えぬ。」
彼女は空中を一瞥し、話し始める。
「この世には、"
「幾多の人の子の眼に映らず、神でしかそれを察知出来ぬ。」
「しかし、それは神の気。神が、神である限り無限に漂う気の調べ。」
「その気を人の子が察知し....若しくは、取り込める様になれば....」
俺をみて広角を上げる。
「どうなるじゃろうな?」
「ど、どうと言われても....」
「神々としてもこの問いに対する明確な答えは出ておらん。」
「じゃが、試してみる価値はある。」
彼女はそう言うと、俺の顔面に張り付く。
両目に猛烈痛みを感じた。
「動くな!」
数分後、目を開けろと言われ、恐る恐る視界を広げる。
「っ!!!」
俺の目の前には、形容し難い何かが大量に漂っていた。
「それが
「その気を全身の筋肉の繊維一本一本、細胞の一つ一つに至るまで身体に取り入れ染み込ませるのじゃ。」
俺はこの日以来、世界が変わった。
歴史改変の元凶である神を倒す為の試練に本格的に身を投じた。
一ヶ月とは早い物で、俺は白玉様に体力錬成を指導して貰っているが、今だに目の前に見えるモノを自身に取り込めない。
跳躍力も全く変わらず、1メートルを飛ぶ事さえ出来ていない。
荒い息を上げながら、問う。
衣服は所々裂け、靴に関しては底が無くなり足裏が露呈している。
「白玉様、何時になれば俺は神気を....木を跳ぶことが出来るのですか?」
足裏から流れる俺の血を見ながら彼女は答える。
「やるしかないじゃろうな。」
「己に課せられた責務を....それこそ、命を削る想いで達成するしか。」
「それしか方法はない。」
彼女は一息つき諭す口調で言い放つ。
「この一ヶ月間、貴様にとっては血反吐を吐く程厳しかっただろう。」
「先の見えぬ目標に向かって地道に努力をするのには、相当な精神力と胆力が必要じゃ。」
「学。お前は運動能力が秀でてはおらん。可もなく不可もなく。と言った所じゃ。」
「しかし、努力ができる。 力の錬成に努める事がな。」
秋風が俺達を包み、神の弥栄の調べが鳴り響く。
「そんなお前に贈呈品じゃ。」
空から降ってきたのは、靴と服だった。
「
「大切に使え」
彼女はそう言い残し、姿を消した。
己の非力と不甲斐なさに地面を殴る。
汗か涙か、地面をぬらした。
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