第3話 過去への転移
目を覚ますと、自室だった。
「っ!」
頭痛がする。
「....明日、春日の
脳内に響くのは猫神の声のみだ。
「学! 大丈夫!?」
母が俺を心配して、声をかけ、肩を揺する。
17年間、見てきた母の顔に違和感を感じる。
直感でわかる。
この女性は俺の母親ではない。
きっと父親も友達、
全員何かが違う。
母には、倒れた経緯を軽く話した。
歴史が変わると、世界が変わる。
考えてみれば至極真っ当な事実にまだ心がついていかない。
猫神の言う通りに俺は過去に行くべきなのか。自問自答を繰り返す。
夕食を済ませ、自室へと戻り、満点の星空を眺めながら考える。
明日になれば、元の生活が戻ってくるのか。
それとも、違和感のあるこの世界、営みを繰り返さなければならないのか。
歴史改変。正直、スケールが大き過ぎて想像の域を超えている。
だが......
「変えることが出来るのなら、戻す事だって出来るハズだ。」
方法などわからない。
地道に探しくしかない。
俺は少し笑う。
歴史と同じ。人類の今までと同じじゃないか。
一歩ずつ手探りで進む。
俺の覚悟は決まった。
翌朝、俺は玄関に立ち母に告げる。
「行ってくるよ母さん。」
そして、母の言葉を待たずに扉を開き秋空の中、駅に向かう。
学校には行かない。
昨夜の内に部屋を片付けた。
持ち物は、あるだけの金に携帯、それに歴史の参考書だ。
歴史が変わるなら、本の内容も変化すると考えたからだ。
奈良に着く頃には太陽が頭上で輝いていた。
春日神社にて猫神は俺の目の前に現れた。
「待っていたぞ。」
「着いてくりゃれ。」
猫神に着いていくこと20分。
深い山の中に入って行った。
鳥の声が痛い程耳に入る。
ある空間に出た時、周りの音はピタリと止み己の鼓動音しか聞こえなくなっていた。
猫は立ち止まり、此方に身体を正対する。
「さて、覚悟の程を確かめるとしよう。」
「学。お前は人の為、神の為、歴史の為に命を賭けられるか?」
俺は言葉に詰まる。
「命? 何故...」
「歴史を改変している神々と闘うのじゃ。」
「大なり小なり怪我をする。」
「四肢を欠損するやも知れぬ。最悪....」
「命さえも落す。」
頭が真っ白になる。 そんな俺を尻目に神は続ける。
「"今"を全て捨て、命を賭して責務を完遂する。」
「過去に行くとはそう云う事じゃ。」
蒼眼を向け、俺の眼に言い放つ。
「お前はまだ、本当の覚悟が出来ていない。」
「闘う....。」
「神様と.....。」
俺は地面を見て激昂する
「何故俺なんですか!? 俺はただ、異変に気付いただけで! 何も能力を持っていない!」
「ただ! 歴史が好きなだけなのに!!」
その場に膝を着き項垂れる。
「人を殴った事さえない俺が.....」
「戦えるわけ.....」
「ある。」
「神々の採択に狂いはない。」
俺は猫に問う。
「じゃあ! 何故俺が!!!」
「 答えるなら…」
答えに困っているのか、明後日の方向を見る。
「仮に天照大御神様からのご勅命と言えども、お前は納得せなんじゃろう。」
「まぁ、神のきまぐれ。」
前脚で顔の手入れをする猫を見て呆れた。
「き、気まぐれ......」
「そうじゃ。」
「しかし、お前にか出来ん。」
「代わりがいないのじゃ。」
「学、貴様は.....」
もう、気まぐれでも何でも良い覚悟を決めた昨日の自分に嘘は付きたくない。
元より、"今"を捨てる覚悟で来たんだ。
「判りました。」
「俺がやります。」
自身の言葉を遮られた神は顔をしかめるが、俺の答えを聞き、頬を緩める。
「学。感謝するぞ。」
静かに息を吸い、声を放つ。
「人の子。 鳥辺 学よ。
その声を聞いた途端に視界がぐにゃりと歪む。
白猫は何か言っていたが、何も聞き取れ無かった。 左腕に巻いていた腕時計を見ると、反時計回りに全ての針が回っている。
吐き気がしてその場に膝を付く。
頭の中で、何かが切れた音がしたと思った瞬間、俺の意識は暗い闇に消えて行った。
顔に冷水をかけられて目が覚める。
頭を押さえられ、手足も縛られている様で動けない。
聞いたことのない語彙が俺に襲いかかる。
思いっきり頭を上げて、辺りを見回す。
「どこだよ………ここ…………?」
隣にいる人間は激怒している様子で俺に言い寄る。
髪の毛を鷲掴みにされ、頭を下げさせられる。 額から血が滲む。
冴えない脳内で、考える。 あれから何日経った? ここは何処だ?
教科書でしか見たことのない衣類を来ている人間がいる。
もしかして、俺は………
俺は………本当に来てしまったのか、1500年前の日本に………
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