第2話 異変の元凶

「いつまで寝ておる?」

「.......起きろ!」

遠くから声が聞こえる。


目を開けると、白銀の世界に俺はいた。

瞬時に頭が冴え、心臓の音が速くなる。


「ど、何処だよ....ここ!?」



「やっと起きたか。」

呆れた口調で話すそれに目を向ける。


猫だった。 俺が昨日助けた、全身白色の猫だ。


「猫が話してる.....。」


尾の先が二股に割れたそれを動かしながら話す、その存在が俺を混乱させる。


「神なのだから当然じゃ。」


「え!? 神様!?」


「そうじゃ。」


普段の俺なら絶対信じないが、今は何故か腑に落ちた。

「マジかよ.......。」



猫神は咳払いを一つして、話を切り出す。

「さて.....何処から話そうか?」

「?」


「お主、歴史が変わってると直感的に分かっておるか?」


唐突過ぎる質問だ。

白猫は冗談で言っている気は微塵もなさそうだ。

青色の眼が俺を刺してくる。


「.....はい。」

「最初は色々疑いました。 教科書が作られる過程で、間違いと言うか、ミス的なのが混入されてしまったかと。」


「でも.....」


「だが。」

俺の声に合わせて声を発した。


「周りの人の子はその事態に気付いておらぬ。」

「その事実が、歴史が、正史だと一分も疑わぬ。」



「っ!」


神は全てを知っているのだろうか、俺の言いたい事全てを代弁した。


鳥辺とべ  まなぶよ。」

「何故、俺の名前を.....。」


猫は淡々と続ける。

「この日本で違和感を感じている"人の子"はお前しかおらぬ。」


「そして、それが意味するは......。」


「現状を変える事が可能な人の子がお前しか居らぬ。」


「と、言う事じゃ。」


なんとか捻り出した声は、掠れて低く落ちる。

「現状を変える......。」


「何故、お前だけが歴史改変を肌で感じているのかは、神の知見知識を持ってしても謎じゃ。」


「しかし、やっと見つけた。」

「この最悪とも言える状況を打破できる可能性を秘めた人の子を見つけた。」


「お前は選ばれた。」


「な、何に....」


高天原たかあまはら葦原あしはらの中つ国にましま八百万やおよろずの神々に」


「事の発端を話すとしよう。 少し長くなる。」



そして、猫神は俺に話してくれた。

人間……いや、この日本列島が出来る前から続く怨嗟の話だ。 


男神である伊邪那岐神いざなぎのかみと女神の伊邪那美神いざなみのかみが国産み……日本列島を形成する所から始まった。


当初、女神のほうから男神を誘った。結果、不良児が次々と産まれた。

その子らは島に成ることが出来ず、淤能碁呂島おのごろじまへ流され、封印された。

逆に男神から女神を誘った時は上手く行き、今の日本列島が形成された。



問題は淤能碁呂島に流された神々だ。 自分達が神として人間に祭られず、神々からはタブーとして存在してきた不良児達は憎悪、怨念が集まり、一つの悪神となった。

その神が歴史を変えようとしているらしい。




「と、こんな所じゃ。 知恵の神、思金神おもいかねのかみが気づき、急遽お前の様に異変に気付いた者を探していたのじゃ。」


俺は疑問をぶつける。


「質問を一ついいですか?」


「なんだ?」


「上手く言えないんですけど、その神様はこの時代にいるのですか?」


「いや、いない。 何故だ?」


「えっと、ならこの世界は幾つもあるってことですか? 所謂平行世界が………」


「その通りじゃ。」


「 ………いや、違うとも言えるな。 全ての事象は単一の時間の中での出来事だ。 しかし、極稀に時間をそれて、独立した世界ができることもある。 その際はその問題のある地域の神達が修正していた。」


俺は頭を悩ませるが、猫は続ける。


「今回ばかりは、我ら八百万の神々を持ってしても駄目だった。しかし、ここで手を打たねば、天照大御神様あまてらすおおみかみさまがよしとしてきた歴史が根本から崩れる。」




猫は話終えると俺を青色の眼で見据え口を開く。






「人の子、鳥辺 学に告ぐ。 うつつより1500年前に遡り、神を討て。」

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