神と人、修行編

第1話 異変の始まり

「お前は、既に気付いているハズだ。」

「歴史の歪みが修正されていない事を。」


「しかし、歩みを止める事は許されない。」


「戦え!」


おのが歴史を守る剣となれ!」


---------------


夕焼けが照らす神社の境内、一人のボロボロになった青年を白銀の毛並みをした老猫が見つめていた。


その猫は場から立ち去ろうとした。所詮人間は弱い生き物だ。


しかし、だからこそ美しい。 永遠を生きる神々にとって、人の子などちっぽけな存在であった。もちろんその老猫にとっても………。








「痛ぇ………。あいつらやりすぎだろ……」


俺、鳥辺とべ まなぶは痛む腹を手で押さえる。たった一匹の白猫を不良達から守った代償がこの傷や痛みだ。


遠くから声が聞こえる。 俺の名を呼んでいるその声は彼の横で止まった。

「大丈夫?! 誰にやられたの!?」


彼女は長い髪が地面に届くまでしゃがみこみ俺に聞いた。

「あ、 茜さん。いつもの不良達ですよ。 大丈夫です。」

「大丈夫なわけないでしょ! 家まで来て!」


そう言われ俺は茜さんに着いていく。






神主である信楽しがらきさんの一人娘である茜さんは18の俺よりも二つ年上で、この神社の巫女である。

「痛っ! もう少し優しくお願いします信楽さん……」

消毒液を布に染み込ませ、傷口に当ててくる信楽さんに文句を言った。

「文句を言うな。 お前がこの家に来る時は毎回怪我を連れてくる。」


俺は言い返せず、黙る。

「お父さん。此処に絆創膏出しといたよ。」

茜さんは信楽さんに告げ、何処かに言ってしまった。


「それよりも学。 お前、白猫を境内でみたんだって? それ、物凄い縁起の良いことだぞ!? 」

「しかも、その猫を不良どもから守るなんて、今晩にも恩返しに来るんじゃないか?!」

信楽さんは早口になり俺に言う。 いつも、何かとオカルト信仰を持っており、今みたく話始める。

「神様も幽霊も、いないって。」


俺はいつも否定する。 しかし

「信じるものは救われる。だ。端から否定していても面白くないだろ?」


と、なら自分一人でやってくれ。他人を巻き込まないでくれと思う発言をする。

「しかし、お前は小さい頃から自分よりも矮小な命に対して必死に守るよな。」


絆創膏を俺の腕に張りながら呟く。

「………………」

「良いことだぞ。 誇りを持て。」

「自よりも他を大切にする心を忘れるな。決して。」






次の日、痛む傷跡を抑えながら歴史の授業に臨む。

俺は自他共に認める「歴史好き」だ。

教師の授業程、俺の知識欲を弊害するものはない。


誰かに暗記しろ、と教えられるのではなく、心の赴くまま好きな時代を勉強する事こそ歴史の醍醐味だ。


頭が禿げ上がった教師の言葉を耳に入れながら教科書を眺める。

俺は違和感を覚えた。

「........ん?」


関ヶ原の戦いに関しての記述が何やらおかしい。

「1603年!? 1600年だろ....」


教科書の制作会社のミスかと思った。

確認の為、時代を遡る。

「おかしい......。」


「俺の知っている歴史が、"正史"が飛鳥時代で途絶えている。」


視界がぐにゃりと歪み、猛烈な吐き気に襲われた。

まるで、この世界に俺の存在を否定されているかの様な。 

そんな形容し難い最低な気分だ。


脂汗をたらしながら、隣の席に座ってる子に質問する。

「織田 信長って、いつ死んだっけ?」


彼女は俺を笑う。

「あはは、歴史一筋の鳥辺君が何を言ってるのよ。」


「信長なら、1580年に当時流行った肺炎で死んだでしょ?」


彼女は「次のテストでは私が勝つのかなぁ」なんて言っていたが、俺には聞こえなかった。


何故? 歴史が........俺の知っている歴史が.......



それを最後に俺は倒れた。


意識が途絶える瞬間、視界に昨日助けた白猫が写った。

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