転生悪魔は大逆転する！ ～転生したら上級悪魔、人生に絶望しているので魔王軍幹部になって人類滅亡させます～

第12話 出発

　校舎裏に女子達の笑い声が響く――――

　耳奥に反響する甲高い雑音が、まるで脳を揺らすように眩暈（めまい）がした――――

　佐々木透矢が教室に入り席に着くと、机の中に可愛い色の封筒が入っているのを見つけた。

　一瞬、目を疑ったが、確かに宛名が『佐々木透矢さま』となっているのを確認する。

　透矢は、誰にも気付かれないように封筒を制服に隠すと、急いでトイレの個室まで走った。

　まっ、まさか……ラブレターか？

　いや、イタズラに決まっている。

　俺のようなイジメを受けていて学校に居場所のないヤツの所に、ラブレターを渡す奇特な人間などいるはずがない。

　封を開けて手紙を読む――――

『この手紙を出す事に凄く迷いましたが、私の気持ちを伝えるために手紙を書く事に決めました。一年の時に同じクラスの佐々木君に親切にされて、それからずっと佐々木君の事を思っていました。私の気持ちを伝えたいので、放課後に校舎裏まで来てください。待っています』

　最後に、差出人の名前が『高坂直（こうさかなお）』となっていた。

　高坂直……

　一年の時に隣の席だった地味なメガネをかけた女子だ。

　あまり友達の居ないような感じで、いつも一人で居る女子だった。

　一度、ゴミ捨てを押し付けられたのか、重そうなゴミ袋を何個も抱えていたので手伝った事があった。

　彼女が……？

　彼女は人を騙すようなイタズラをするタイプには見えない……

　行くだけ行ってみよう……

　もし、彼女と仲良くなれたのなら、この最悪な学校生活も少しはマシになるのかもしれない……

　放課後、校舎裏で待っていると、クラスのカースト上位で目立っている派手な女子数人が現れた。

「ぎゃははっ、ホントに来やがったよ！」

「マジうけるんですけど！」

「ちょっと、やだ！　キモすぎ！」

「えっ、あの……」

「ホントに直（なお）が来ると思ってんの？」

「アンタみたいな陰キャに、カノジョできると本気で思ってんの？」

「ぎゃはははっ、もうダメ、ヤバい！」

「そんな…………」

「「「ぎゃははははっ、あっはっはははっ！」」」

　やめろ！

　やめてくれ！

　頭の中に甲高い笑い声が響く――――

　俺がバカだった……

　あんな手紙を信じたせいで……

　最初から期待なんかしなければ良かったんだ！

　くそっ！

　くそがぁぁぁああっ！

「はあっ、はあっ、はあっ……」

　見慣れた天井が見える。

　王都デスザガートのアスモデウス伯爵家の寝室だ。

　どうして……あんな昔の事を……

　もう、忘れたと思っていたのに……

　そうだ、あれから俺は女子が苦手になったんだ。

　元から人付き合いは苦手だったが、あの事件から女の気持ちが本心なのか信じられなくなって、ずっと女性と付き合う事を避けてきたんだ。

　大学生や社会人になって同期の女性と知り合っても、どうしても相手の気持ちが信じられなくて、また騙され傷つけられるのではないかと疑って、俺は女性に心を開く事が出来なくなってしまった。

　アベルが横を向くと、ローラが静かな寝息をたてて横になっている。

　そうだ、ローラが添い寝して御奉仕するとか言い出して……

　そのまま……

　最後まで……

　あまりにも淫らで絶技だったので、流されるようにそのまま情事を……

　でも、これで良かったのかもしれない。

　いつまでも苦手意識のまま女性を避けている訳にもいかないしな。

　もう前世のゴミのような存在ではない、俺は転生して上級悪魔になり強い存在になったのだから。

　あんな惨めな過去など忘れて克服しなくては。

　そういえば、高坂直……

　あの時も来ていなかったな……

　その後も学校で見掛ける事は無かった……

　いや、待てよ！

　確か、高坂も女子からイジメを受けていたような気がする……

　まさか……あのラブレターは本物で、イジメていた女子達に見つかって利用されたとか……

　今更考えても仕方がないか。

　もう、会って確かめる事も出来ないのだから……

　忘れよう……

　俺は任地で武勲を立て成り上がらないといけないのだ。

　――――――――

「アベル様、朝ですよ。おはようございます」

　目を開けると、いつもの淫らなメイドが、いつにも増して淫らな笑顔で俺を起こしに来る。

　いや違うな、いつもの清楚に見えるのに淫らな感じとは違う。

　何かもう口元が緩み切ってニヤついているぞ。

「夢じゃ無かったのか……」

「はい、それはもう。アベル様は大きくて逞しくて素敵でした」

「ぶふぉ！　おいローラ、何を言っているんだ！」

「うふふっ、アベル様ったら、あんなに激しく私を求めて来て、ふふっ、そんなに溜まっていらっしゃったのですね」

「ローラ、もういいから出発の準備をしてくれ」

「はい、畏まりました」

　ダメだ……

　淫らなメイドが更にパワーアップしてしまった……

　もう、手が付けられないぞ……

　出発の時が来た――――

　執事に後の事を申し付けて、ローラと一緒にに馬車に乗り込んだ。

　ここから駅まで馬車で行き、最近やっと開通した汽車に乗り国境の街ギリウスへと向かう。

　この世界の文化レベルは、日本の明治時代くらいに見える。

　やっと鉄道が開通か……

　人族の方は自動車が走っているとの情報もあるから、魔族と人族の戦力の差は歴然だな。

　これまで魔族が強い肉体と魔力を持っているが故に、技術革新を怠ってきたツケが回っているようだ。

　だが、俺が候補生時代に発案した航空機が開発されれば、戦争の仕方がガラリと変わるぞ。

　メフィストフェレス技術将校が開発を進め、試作機の飛行実験も順調に進んでいるそうだ。

　俺が、この世界の軍事技術を40年は進めてやる。

「アベル様、何だか楽しそうですね」

「ローラ、そりゃ楽しいさ。ここから俺の物語が始まるのだからな」

　そうだ、やっと始まるのだ。

　遂に戦場に身を投じ、兵を動かし鉄と銃弾と硝煙の中で、人族を蹴散らし武勲を立て名声を得て成り上がるのだ！

　もう俺は、前世のような失敗はしない！

　ここからが俺の反撃だ！

　アベルとローラは駅で汽車に乗り換え、ガタゴトと列車に揺られ国境の街へと向かう。

　期待と希望に満ちた出発だったが、この先まさか魔王軍が予想だにしない事態に直面する事になるとは、アベルだけでなく魔族の誰もが知る由もなかった。