闇を祓う光
※2話同時投稿の2話目です!
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『あの人何、こわーい』
『聖女様大丈夫?』
『何だか人間が戦ってるよ、面白いね』
『ガリム様天才!ガリム様最強!』
『私は眠くなってきたわ……』
妖精達の声がそこかしこに聞こえる。
あいつらが急に話し出したのではなく、スキル『言祝がれし聖者』の力で、俺の感度が上がったのだ。
「さあ、力の妖精達よ、もう一回力を貸してくれ!!」
スキルも手に入れた、これなら文句ねえだろ!!
『あれ?あのお兄さん、何だか雰囲気変わったね』
『うん、今はめちゃくちゃ格好いいよ』
お、そうだこれ、これだ!
……さっきよりパワーが溢れて出てくる。てめえら、最初の時は手抜いてやがったな、こんちくしょう。
「さあ、第二ラウンドだ!!」
奴に向かって、今度は全力で駆ける。欲しいのはスピード、あの靄の鎧が間に合わない速度の攻撃。
俺は防御を度外視して、最速の剣撃を奴に当てることだけに集中する。
ガリムとの距離が縮まっていく……十メートル、九メートル、八メートル。
奴も剣を構え、俺の攻撃に備え始めた。
五メートル、四メートル、三メートル……。
「甘い、隙だらけだ」
ガリムが予備動作なしで剣を動かす……!!
「『
「ここだ、光の妖精、頼む!!!」
『はーい!!』
奴が振るう剣を俺は、
「何!?」
「こっちもな、妖精に守ってもらってんだよ!喰らえ!」
「グハァ!!」
よし!
勢い俺は体勢を崩し、そのまま奴の背後へと滑り込んでしまうが、ようやく確かな手応えを感じる。
急いで立ち上がり振り向くと、奴は脇腹を押さえ、蹲っていた。
「はぁ、はぁ……見たか、この野郎」
「……闇の妖精よ、傷を癒せ」
『……しょうがないなあ、ガリム様』
はあ?回復まで込みのスキルなん?闇の妖精、万能過ぎじゃね?
「窮鼠猫を噛む、とはこのことだな。だが、最終的に鼠が猫に勝てるわけでもなし!」
「いやいやお前、何で自分を猫に例えてんの?そういうのは、鏡で自分の顔を確認してから言えよ」
「……口だけはよく回る鼠だ!」
いかん、つい煽っちまった。しかし今のでも倒せないとなると、こうなりゃヤケだな。
「火の妖精、フレイムバーン!水の妖精、オーシャンアロー!風の妖精、デュアルトルネード!」
スキルにより頭に流れてくる知識を元に、高威力のものを片っ端から叩き込む!
「ええい、鬱陶しい!
先も言ったろう、『聖女』ごときが、神には勝てん!」
「いいや、お前は確かに神に近いのかもしれんが、世界の理そのものから外れることはできないんだろう。それができるなら、今頃俺やセイラは瞬殺されているはずだからな!!」
「……だから何だというのだ、圧倒的な力の前に!!
『
またあの靄で捕まえる技か!!
「光の妖精、あの黒いのを光で包み込め!」
『アイアイサー!!』
光の妖精が包み込むことにより、靄がそのまま消滅する。
『やったね!!』
『もっかい、来い来い!!』
おいおいあいつら、楽しんでやがる。こっちはいつやられるかヒヤヒヤしてるって言うのに!!
だがそれでいい、そこに俺の勝機がある。
俺は『言祝がれし聖者』のスキルを全開にし、考え得る限りの攻撃を全力でガリムに叩き込んでいく。スキルを借りれる時間は十五分、もう半分以上が経過していた。
「無駄だと言ってるだろう!!」
案の定、奴の身体には傷一つついていない。ああ、俺の狙いはそこじゃないからな。
『ガリムさま、しんどいよ~』
『ガリムさまー、そろそろ帰りましょうよー』
『あの光の攻撃怖い~』
「うるさい、妖精共、働け!!」
『はーい』
『ガリム様がそう言うなら、仕方ないかあ』
闇の妖精とガリムの会話が聞こえる。
うんうん、良い感じに整ってきたな。
「闇の妖精さんよ!!!」
俺は叫ぶ。
「そろそろ疲れてきたんじゃねえの!?」
『疲れたよー』
『でもガリム様のお願いだから~』
『ガリム様、『闇を操りし者』だしね』
「おー、そうなのか。でもな、そいつはお前らのことなんざ、力を与える道具程度にしか思ってねえぞ。そのままだと使い潰されて、お前ら、死んじまうぞ」
『だから、お兄さんを倒すんじゃん』
『そうそう、どっか行ってよ~』
「俺がいなくなったところでな、お前らそのうち、そいつの都合で捨て駒にされるだけだよ。
なあ、そんなことより、こっち側につかねえか?」
『ええ~?』
『どういうこと?』
「俺は今、スキルを借りてる身だがよ!
あっちの本物の『聖女』様は多分、闇の妖精でも大切にしてくれるぞ!」
ヘレン嬢の方を見ると、彼女はコクコクと首を縦に振っている。
「ほら見ろ!」
『そうなの?』
『それは確かに良いかも~』
妖精は本来気まぐれな存在だ。気分に左右されやすく、意見も揺れやすい。
さあ、仕上げだ。
「こっちに来いよ、そんな奴に力を貸してないでさ!!」
『そうだね~』
『そうする~』
「な、何を馬鹿なことを!?おい、戻れ、闇の妖精達!!」
ガリムが慌てているが、もう遅い。
奴を包んでいる黒い靄がどんどん薄くなっていき、持っていた大剣も消え去る。
「な、何故だ!?どうして『闇を操りし者』のスキルが発動しない!!」
「それより上位のスキルを使ったからだよ。お前が設定した、な」
「主人公スキル……『交渉術』!!」
「正解」
正直、妖精に対し使えるのかは賭けだったが、上手くいってよかったぜ。
「……いつもこうだ。俺の成果は、こうして口先三寸で奪われていく。
どうしてだ。どうしていつも上手くいかないんだ……どうして誰も、俺のことを認めないんだ」
敗北を悟ったのか、ガリム、いや『クリエイター』は、膝から崩れ落ち、涙を流していた。こう見ると、何だか哀れにも思えてきたな。
「あのよ。
お前は、自分が周りから認められないって言うけどさ。自分を認めさせる努力は、してきたのか?
アポロ君はしたぞ。
本当にお前に価値があるなら、それは誰かには届いているはずだ。
誰一人お前を認めないって言うなら、それが
「……お、お前に、何が分かる……」
「ま、確かに、実際どうなのかは知らねえけどさ。お前の言う通り、周りが悪いのかもしれん。
でもさ、これだけは分かるぞ。
こんなところで神の真似っこをしたところで、お前の抱える問題は解決しないだろ。
それよりも、
「うう……」
そこへセイラがそっと近づいてきた。
「ユーゴ君、お疲れ様。よくやってくれた。あとはボクが」
セイラは何やら小瓶を取り出すと、ガリムの傍に近づける。
すると例の黒い靄がガリムの中からまた出てきて、小瓶の中に納まった。
小瓶をポーチにしまい込むセイラ。
「ZPの残滓、回収完了!」
ようやく、ガリムの顔色が元に戻ってくる。
「……ここは?俺は、何をしていたんだ?」
「ガリムさん!!」
アポロ君とヘレン嬢も駆け寄ってきた。
「よかった、元に戻ったんですね?」
「アポロ?わりい、何だか記憶がぼんやりとしてて、最近のことが思い出せねえ」
お、何だか様子がまたおかしな感じだ。
俺はその違和感をセイラに伝える。
「どういうことだ?」
「『クリエイター』の支配から逃れたんだ……ユーゴ君と同じだよ」
「ああ」
なるほど、合点がいった。頭の中の霧が晴れて、何だか妙にすっきりしたような、あの感じ。
「よう、ガリムさん。俺はユーゴって冒険者だ」
「ユーゴさん?」
「ああ。つかぬことを聞くが、アポロ君を、うちのパーティーにスカウトしてもいいかい?」
「アポロを?……とんでもない!!
こいつには裏方を一手に任せていて、こう見えて結構すげえ人脈を築いてるんだ。おいそれとは渡せねえ!!」
思わずセイラの顔を見る。
「うひひ」
にへらと整った顔を崩し、胸元で小さくVサイン。
「……そいつは残念だ。だとよ、アポロ君」
「……ガリムさん!!」
「うわっ、アポロ、何だ、抱きつくな!うぜえ!!俺は男に纏わりつかれる趣味はねえぞ!!」
辺りを覆っていた靄が晴れ、上空の雲が流れていくと、青白い月が顔を出す。
月光を受けて、大気中では色とりどりの光が反射する。
それら全てを吸収して輝く滴が、聖女の名を冠する少女の瞳から零れ落ちた。
【ケース1「冒険者ガリムと、冒険者アポロの場合」完】
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これにてケース1終了です。
区切りもいいところですし、もし少しでも「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけたなら、フォローや、レビューの★づけなど、してみませんか?
それだけで作者のモチベーションは爆上がりするので、何卒!!
そして次章予告!
ケース2「ヒロイン・ミリアと、悪役令嬢エリザ(どちらも転生者)の場合」
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