神の降臨

 ※2話同時投稿の1話目です!

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 ガリムの金髪が灰色に染まっていく。

 どす黒いもやのような何かはガリムの身体にまとわりつき、顔面には血管が浮き出ている。

 ハンサムが台無しだ。


「何が起こった!?」


 ガリムが叫ぶ。

 いや、それはこっちが聞きたい。


「ちょっとガリム、どうしたの!?」

「そうだ、お前、おかしいぞ!?」


 お仲間の僧侶らしき女と、武道家らしき男がガリムに呼びかけるも、


「お前らか!?」


 ガリムは二人に向かって右腕を伸ばす。……おいおい、何だありゃ。


「きゃあ!?」

「ぐうっ!!」


 黒い靄が腕の先から伸びて、お仲間の二人を締め上げている。程なくして二人が気を失うと、靄はガリムの元に戻っていった。


「どいつもこいつも、俺に雑用ばかり押し付けやがって……」


 ガリムは何やらぶつくさ言いながら、今度はこちらに向かってくる。


「俺のシナリオを崩したのは誰だ!?お前らか!!」


 まずい、またあの黒い靄か!?

 アレに捕まると、さっきの二人のように身動きが取れなくなる。俺は咄嗟に逆方向に駆け出そうとするが、


「光の妖精たち、私たちを守って!!」


 ヘレン嬢の叫びと共に、黄色い光が集まって壁を作り、靄を跳ね返した。壁はそのままドーム状に形を変え、俺たち四人を包み込む。


『大丈夫?聖女様』

『闇の妖精だ、あいつらきらーい』

『でもちょっと強すぎるね。負けちゃうかも』


 妖精たちがざわざわと騒ぎ出す。煙のようだった靄では防御を貫けないと分かったのか、今度は靄が凝縮して槍のような形状となり、ガンガンと音を立てて攻撃を加えてくる。

 おいおい、妖精たちの言動から察するに、長くは持たないってことかよ。


「おい、セイラ、闇の妖精って何だ!?」

「ボクにもわからないけど、おそらく設定上悪になる存在だ!

 ヘレンちゃんの力が及ばないところから見ると、ストーリーのどこかで出す予定だったスキルで、強力な闇の力をもたらす妖精、ってところだと思う!」

「それがなぜ俺たちを襲ってくる!?」

「多分、バグを取り除こうとする、クリエイターの最後のあがき!!」


 そんな確認をしていると、靄は攻撃をやめる。

 代わりにガリムが空中に右手を構えると、黒い光が集中。今度は大きな剣が発生して、その柄をガリムは両手でしかと捉えた。


「おいおい、あいつ、大剣関係のスキルじゃなかったか!?」

「ガリムさんのスキルは『剛腕剣雷』!

 屈強な腕で、大剣を超スピードで操れるスキルです!」

「強いじゃねえか!?」


 アポロ君の言葉に驚愕する。

 つまり、あの黒い剣の一撃の方が攻撃力が高いかもしれないってことだ!


「嬢ちゃん、外に出してくれ!」

「あ、はい、大丈夫ですか!?」

「やってみるしかないだろ!」


 防御の裏側に穴を開けてもらうと、俺はガリムに向かって飛び込んでいく。

 俺のスキルは『王宮剣術中級』しかないが、身体能力は高いらしいから、そこに賭ける……!


 靄を避けて、右手に持った剣を正面横向きに構え、そのまま奴の右胴を狙う。スキルの効果か、自分でも驚くほど自然に動きがトレースできた。


「うらあ!」


 しかし俺の攻撃は大剣で容易く防がれる……大丈夫、それは想定のうち。

 武器同士の特性上、接近戦での小回りは俺に分があるはず。


 俺は打ち付けた反動で跳ねた剣の勢いをコントロール。

 今度は相手の左肩目掛け、袈裟懸けに振り下ろす。


 ……やはりこれも防がれるか、大層な名前のスキルは伊達じゃない。

 現状の最優先事項は、ガリムの意識を後ろの仲間達から逸らしておくこと。相手の動きを制限するよう、俺は力をそのままぐっと込め、剣をガリムの大剣に押し付けた。


「……お前は誰だ?」

「通りすがりの冒険者だよ」


 まずいな。俺は相手を倒し込む勢いで力を入れているのだが、あっちはびくともしない。


「ユーゴ君、君のパワーは確かに並以上だけど、あくまで常識の範疇内だよ!今は相手が悪い!」


 セイラが叫んでいる。ちっ、そうなのか、考えなしに飛び出ちまったな。


「そうか、お前らがバグの原因だな!?」

「ぐはあ!!」


 叫びと共に無造作に大剣を薙ぎ払うガリム。

 それだけの動きなのに、俺はそのまま吹っ飛ばされてしまう。


 やばいな、力に差がありすぎる……!


「部長も!課長も!同僚の奴らも!

 地味で面倒なことは全部俺任せだ。俺がいなかったら奴ら、何もできない癖して、俺の成果は絶対認めないか、横取りするんだ!」


 相変わらずよくわからないことを叫んでいるが、それはそれとして、ガチで俺にターゲットを定めたな。狙い通りではあるが、果たして何秒持つか。


「セイラ、ここで負けたらどうなる!?」

「『クリエイター』の力で、この世界から強制的に追い出されると共に、もう戻って来れない!」

「そしたらアポロ君たちは!?」

「ボクにも分からない、それは『クリエイター』次第!」


 今のガリムの姿を見る限り、アポロ君やヘレン嬢が無事でいられるとは思えない。


「やはりお前ら二人、外から入り込んだんだな!?排除してやる、俺こそこの世界の神だ!」


 今の会話で完全にバレたか。

 大剣を構えたガリムがこちらに襲い掛かる。


「うおっ!!」


 間一髪、俺は横っ飛びでそれを躱す。受け身を取って、何とか体勢だけは保つが、


「危ねえ!」


 それだけで精一杯だ。


「ちょこまかと……『雷鳴刃破らいめいじんは』!」

「ぐああ!!!」


 雷を帯びた斬撃を何とか剣で受けるが、電撃は剣を伝い、俺の身体を駆け抜けた。



 痛え!


 しかし身体は何とか動く。

 俺は後ろによろめきながらも、剣を両手で構え直した。


「……これを喰らって動けるなんて、やっぱり何か細工があるね」


 知らん、何かしたとすればセイラの方だ。


「もう一度、『雷鳴刃破らいめいじんは』!」

「力の妖精達よ、彼を守って!」

「ボクからもお願い!」


『あのお兄さんだね、りょうかーい』

『聖女様とお姉さんの頼みなら、仕方ないね』


 ん、急に身体が軽くなったぞ?


 ガリムの必殺の太刀を紙一重で避けると共に、胸目掛けて全力で斬りつける。


「甘い!」


 しかし例の靄がガリムを囲み、斬撃はそのまま受け止められてしまう。

 だがやはり、さっきより身体が動く!


 俺はガリムの背後を取るよう、フェイントを混ぜながらも素早く動き、奴の隙を探す。


「ここだ!!」


 大剣の持ち手とは反対側の太腿、ここなら防御も間に合わんだろ!!

 しかしまたも黒い靄が奴の脚を覆い、俺の剣はいとも容易く弾かれてしまう。


 そこからは、攻撃と防御のいたちごっこだ。

 俺は妖精の力で大幅に上昇した身体能力をベースに、奴の攻撃を何とか避け、隙を伺いながら剣を振るう。

 大剣の防御を掻い潜ることは何度かできるものの、黒い靄の鎧を切り崩すことができない。

 しかし10分もすると、今度は俺の方に問題が生じ始める。


『あーあ、疲れてきちゃった。もういいよね?』

『聖女様のお願いだから聞いたけど、このお兄さんを助ける義理はないし?』


 お、おい!?

 今妖精の力を失ったら俺、死ぬし、結果聖女様もヤバいと思うんですけど!


 って、急に力が抜けてきた、まずいんじゃね!?


「そろそろ終わりだ!」


 ガリムの大剣が眼前に迫る……これは避けきれん!



 俺はいよいよ死を覚悟したが、



「火の妖精たちよ、『フレイムアタック』!」



 左側から火炎の塊が飛んできて、ガリムに命中。



 俺は間一髪回避、一旦セイラたちの元へと帰る。

 火炎は勢いを増し、黒煙が派手に上がっていて、中のガリムがどうなったのか確認できない。



「やったか!?」

「ユーゴ君、それ、口にしちゃダメな奴!」


 セイラの相変わらず意味不明な発言はさておき様子を伺っていると、


「さすがに『言祝がれし聖者』は強力……少々驚いた。しかし、聖女のスキルが神に及ぶとでも思ったか!」


 あの一撃でもダメなのかよ。


「おいおい、あんな奴、倒せるのか?」

「『クリエイター』が乗り移ってるからね。多分、この世界の外側の存在、つまりユーゴ君にしか無理。とにかく、どうにかして弱らせてくれたら、ボクにもできることがあるから!!」


 んなこと言われても、妖精たちによるブーストがなけりゃ、真面に戦うことすらままならない。しかもあいつら、俺が直接のスキル持ちじゃないからって、途中で手を抜くし……ん、待てよ?


「嬢ちゃんのスキル、俺に貸してくれないか?」

「え?どういうことですか?」

「自分のスキルを俺に『貸す』って念じてくれるだけでいいから!」

「わ、分かりました!」


 ……来た、来たぞ!

 そこかしこに点在する妖精達の気配を感じる。


 だが多分、これだけではダメだ。

 ガリムに勝つには、あと一つ。




「アポロ君、君の『交渉術』も貸してくれ!』

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