ユーゴのもう一つの能力

 何だ?俺の隠された能力?


「君の隠されたもう一つの能力……それは!」

「それは?」

「それはー!」

「いや、はよ言えや」

「……そのセリフは、もう二、三回くらい『それはー』を連呼してからじゃない?」


 んなこと言われてもなあ。

 当のセイラはというと、「デュルルルルル……」と謎の奇声を発している。


「呪文か?」

「あ、ドラムロールが通じないのね……」


 今度は何だか凹みだした……おい、隠された能力とやらが気になるんですけど。


「もうすんなり行くね。君のもう一つの力、それは『相手のスキルを借り受ける力』だよ」

「借り受ける?それもスキルなのか?」

「ううん、これはこの世界のルールの外、ボクが秘かに設定した力。

 ……あんまり強い力はバランスブレイカーになって、この世界の主に感知されちゃうからね。と言っても、そこまで影響を及ぼすこともできないんだけど。ポイントがないから」

「それで、どういう力なのか、もう少し詳しく説明してくれないか?」

「ああ、ごめんごめん。

 下位世界の住人たちが持っている特殊能力は色々だけど、その持ち主が許可してくれた時、君はその能力を行使することができる。」

「そうなのか……思ったより強力な力だな」

「でしょ?でも力自体はその世界由来だから、バランスを崩す可能性も少ないし。思いついたときは、ボクって天才!?って感じだったね。エッヘン」


 エッヘンとか言いながら胸を張るセイラ。


「おー、すごいすごい。

 ってことはつまり、セイラの『妖精の友』も借りることが可能、と?」

「そういうこと。ただし、借りれる時間は十五分まで。早速使ってみる?」

「いいのか?」

「うん。練習しておいた方がいいでしょ?」

「それは確かにな。ええと、どうすればいいんだ?」

「特にどうということもないよ。必要なのは、君の『借りる』という意志と、相手側の『貸す』という意志。ボクは既に君にスキルを貸そうと思っているから、あとは君が『借りる』と念じるだけ」


 そうか。じゃあ、俺はセイラからスキルを借りる……。


 すると頭の中に、スキル『妖精の友』の概要が飛び込んでくる。

 なるほど、妖精に話しかけたときに、ある程度友好的に接してくれる、ってことか。

 おっ、ちょうど水色の光が通りすがったぞ。物は試し、声をかけてみよう。


「やあ、そこの妖精君」

『何、お兄さん?わたし、ちょっと急いでるんだけど!』

「あ、それは悪いことをした。

 できれば、この手に少し水をもらえると嬉しいんだけどな」


 俺は両手を合わせて水を汲む形にする。


『うーん、お兄さんちょっといい感じだし、まあいっか!はい!』

「うおっ!!」


 水色の妖精から確かに水が発生するが、量が多い!狙いも勢いも雑!!

 結果、


「くっ……」


 俺は見事に、股間に水鉄砲を喰らうことになった。


『あっ、ごめーん。

 じゃ、私はこれで!聖女様なんて滅多に見れないから、急がないと!』


 そう言い残して、瞬く間に去っていく青い妖精。


「うわー、どうすんだこれ……」


 ズボンの股下中心に染みができてしまい、パッと見お漏らしした子供だ……うう、道行く人の視線が痛い……。


「あはは、派手にやられたね。とりあえず、ハンカチ使う?」

「悪い」


 セイラから借りたハンカチで水気を吸い取るも、服の染みが取れるわけではない。


「どこかでズボン買うか……」

「お金ならあるから大丈夫だよ」

「さすが女神」


 俺たちは服屋を求めて大通りに入る。


「でもユーゴ君、『妖精の友』はちゃんと使えてたね」

「そうなのか?この仕打ちはどうなのかと思うが」

「いや、あれはユーゴ君が悪いよ。あの子、明らかに急いでたじゃない。それでも、立ち止まってお願いは聞いてくれたんだから」

「まあ、それもそうか。

 そう言えばあの妖精、最後に聖女様がどうのって言ってたな。聖女と言えば、あのヘレンって子のスキルが『言祝がれし聖者』だったか?それと関係しているのだろうか」

「十中八九、そうだと思うよ。明らかに『妖精の友』の上位互換スキルだろうし、妖精たちにとっては彼女の方が優先順位が高いんだろうね」


 そんな感じの話をしていると、服屋らしき看板を発見する。

 ……何だ、ここ。光りすぎじゃね?


「妖精が集まってるな」

「うん。噂をすれば、かもね」


 店内に入ると、そこは何の変哲もない服飾店。防具というよりも、街の人々や冒険者、旅人向けの、生活用衣類を色々扱っているようだ。

 セイラからお金を少々受け取り、俺はひとまず、男性用ズボンのコーナーを探す。セイラは適当に店内を物色するとのことだ。


『クスクス』

『クスクス』


 妖精共の笑い声が聞こえるが、原因は俺か?俺なのか?やだもう恥ずかしい、さっさと着替えたい。

 俺は適当なズボンと下着を見繕うと、売り場の方に向かう。


「すみません、これお願いします」


 売り子のおばちゃんの視線が、商品、股間、俺の顔、の順に動く。


「俺の名誉のために言っとくと、これは妖精にやられたんだ」

「ははは、そうかい。災難だったね。合わせて三リーリアと三十ビオだね」


 ビオはリーリアの一つ下の単位で、一リーリア=百ビオだ。おばちゃんに、一リーリアコイン三枚と、五十ビオコイン一枚を渡した。


「はい、おつり、二十ビオ。すぐ着替えるなら、あそこの試着室を使いな」

「助かるよ」


 着替えを終えると、少年と少女がちょうどカウンターで買い物をしていた。さっき見たアポロ君とヘレン嬢だ。男性用の肌着をまとめ買いしているようだな。あとはお嬢さんの方も、何着か服を持っている。


「ええと、全部で……十リーリアと五十ビオだよ」

「ターナさん、僕らのパーティー、今月ちょっと厳しくて……少しでもまけてくれると嬉しいなあ、なんて」

「そうかい。ま、お得意さんだからね、端数を差っ引いて、十リーリアでいいよ」

「ありがとうございます!」


 へえ、ここでも地味に小金を稼いでるのか。

 アポロ君とヘレン嬢が店を出るのを見計らって、おばちゃんに話しかけてみる。


「あの二人、よく来るのかい?」

「ヘレンちゃんはたまにだけど、アポロ君は常連さ。

 ああ見えて買い物上手でね、こっちの売りたいものをいいタイミングで買ってくれるから、ついつい融通を利かせちゃうんだよ」

「なるほどね」

「この商店街の店員なら、ほとんどが彼のことは知ってるんじゃないかねえ」


 へえ、そうなのか。

 そんなアポロ君に、これから受難が訪れる、と……。


 今後の振る舞いについては迷うところだが、まずは夜になるのを待つか。


「セイラ、帰ろう」

「うん、いいよ」



 ***********************


 夕食も終え、ガリムのパーティーの面々が各々部屋に戻った中、アポロ君は一人ロビーに残っている。うん、おあつらえ向きのタイミングだな。


「よう、少年」

「あ、どうも……」

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