アポロ君の危機

 先ほど依頼人との交渉にあたっていた、アポロという少年。

 セイラが言うには、彼に待ち受けているのは、パーティーから追放される未来らしい。


「追放か。ちなみに追放する側は?」

「あのガリムって男だよ」


 ううむ。どこかで聞いた話だな。


「どこかで聞いた話じゃない?」

「……俺からは何も言えん」


 ヒソヒソと話していると、何やらあちらサイドにも動きが見られる。


「では僕は、また外回りに行ってきます」

「おう」

「私も行くわ」

「ヘレン……何度も言うけど、あんまり楽しいものじゃないよ?」

「いいのよ、私が興味あるんだから」

「ま、いいけどさ」


 どうやら、アポロという奴が出かけ、パーティーの一員のお嬢さんも同行するようだ。

 ヘレンと呼ばれてたか。なかなか、いや、かなりの美人だ。町を歩いていたら、男のみならず女でさえも足を止めてしまうんじゃないか。どことなく清楚で神々しい雰囲気を兼ね備えていて、下手したらセイラよりも女神らしいかもな。


「最後の一言は余計じゃないかい?」

「……ずっと思ってたが、お前、心が読めるの?」

「君のはね。だってボク、君にとっては女神だから」

「マジか……だが、思うのはどうにも止められん!」

「あはは、開き直ったね」


 そんな話をしていると、


「行ったか。

 全く、戦闘じゃてんで役に立たないんだから、他で働くのは当たり前だっつーの」


 ガリムって奴が溜息をつきながら吐いた。


「ホントにな。しかし、パーティーの人数枠の一つをあいつで埋めとくのも、そろそろきつくなってきたな……」


 仲間の武道家らしき男が相槌を打つ。


「そうなのよ。でも、ヘレンのお嬢ちゃんがあの子にご執心だからね……」


 こちらはもう一人の仲間、僧侶らしき女。


「ああ、ヘレンに抜けられるのは困る。『言祝ことほがれし聖者』のスキルは強力すぎる」


 何やらきな臭い会話だな。ちょっくら様子を伺ってみるか。


「あー、立ち聞きしちまって悪いが、『言祝ことほがれし聖者』って何だ?

 俺は流れの冒険者のユーゴという。こっちは相棒のセイラ。

 ああ、言いたくないことだったらいいぞ」


 見ず知らずの相手にどこまで情報を開示してもらえるか微妙だが、話してみんことにはそれも分からんしな。


「さっき出てった女の子のスキルだよ。

 あいつは妖精に愛されている。魔法使いは普通、妖精に依頼して力を貸してもらうだろう?

 だがあいつには、妖精の方が勝手に祝福して力を与えるんだ」


 ガリムって奴が答える。意外とすんなり行けたか。ま、聞いた感じだと隠すような情報でもないみたいだし。しかし、確かに強力なスキルだな。


「ほう、そいつはすげえや。お仲間にとっちゃ、手放したくない存在だろうな」

「その通りだ……ちょっかい出すんじゃねえぞ?」


 凄みを利かせるガリム。


「おー、こわ。安心しろよ、こちとらずっとコンビでやってきてるんだ。今更、新しい仲間を入れるつもりはねえ。

 となると、一緒に出てったあの頼りなさげな少年も、実はすげえスキル持ちとか?」


 俺がそう言うと、ガリムたちは一瞬キョトンとした顔をした後、一斉に大笑いを始めた。


「はっはっはっ。そいつがホントなら、どれだけよかったことか。

 あいつのスキルは『交渉術』って言ってな、交渉のときには多少役立つが、戦闘や探索には一切使えねえ、クズスキルさ」

「あらら、そうなの。でも仲間に入れてるんなら、それなりに役には立ってくれてるんじゃないの?」

「まさか。あいつの価値は、ヘレンの幼馴染ってだけだ。ヘレンがどうしてもって言うから、仲間に入れてやったんだけどよ。正直、ヘレンのことがなければ、いつでも首にしてるさ」

「おーおー、ひどい言われようだな。だがそうだとしても、雑用専門に回して、他に新しい仲間を入れたらどうだ?」

「いや、パーティーメンバーの上限は五人まで、それがこの酒場のルールでな。見ての通り、席は既に埋まっちまってる」

「別の場所に拠点を移したら?」

「おいおい、あんたも知ってるだろ、『緑魔銀グリーンミスリルの洞窟』。あのダンジョン以上に稼げるところは、他にねえよ」


 ……緑魔銀グリーンミスリルの洞窟とやらは知らんが、とりあえず貴重な素材やらが手に入る、ってことだろう。適当に話を合わせとくか。


「やっぱそうか。

 ……ま、俺たちは部外者だ。これ以上、人様の事情に首を突っ込むのはやめとくよ。

 ダンジョンで会ったら、よろしくな」

「おう、またな」


 俺はひとまず酒場を出ることにした。セイラもついてきてくれる。

 外の街並みも俺が住んでいた世界に似ていて、大きく戸惑うようなことはない……ところどころに、小さな光の玉が浮いていること以外は。色も様々だが、おそらく光の一つ一つが妖精なのだろう。


「ふふ、良い感じに情報を集めてたね」

「ああ、思ったより上手くいったな」

「それで、どこに行くんだい?」

「それが、流れで出てきちまっただけで、目的地が特にないんだよな。あのアポロ君の方も見ておきたいが、どこにいるか分からんし」

「それならボクが、妖精に訊いてみるよ」


 手頃な光に手を伸ばし、セイラが言う。


「妖精君、妖精君。アポロって男の子を見かけなかったかい?」

『誰それ?知らなーい』


 そう簡単には行かないか。あ、でも、ちょっと待てよ。


「あっちのヘレンって子の方は?」

「そっか。じゃあ妖精君、ヘレンっていう女の子は?」

『あ、聖女様のこと?それならあっちー』


 『言祝がれし聖者』は伊達じゃないみたいだな。

 妖精の導きに従って歩く。


「しかし、その『妖精の友』ってスキルは、結構便利だな。俺の剣術スキルもまあ、それなりに有用なんだとは思うけど」

「じゃあ、使ってみる?」

「いやいや、それはお前のスキルだろ?」

「ふふふ」


 何やらもったいぶった表情のセイラ。

 

「ではここで、君の隠された能力を教えてしんぜよう」

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