『クリエイター』達により創られた、無数の世界

 そうだ、セイラだ。子供の頃はいつも一緒だった、俺の幼馴染。


 いや、あいつは十歳の頃、病で死んだはず……。しかしそこに立つ女は、年齢こそ二十歳前後に見えるが、セイラの面影を多分に残している。



「セイラ……なのか?」


「ベースの身体と性格は、君の幼馴染を元に設定させてもらったよ」



 何を言っているんだ?



「ボクは、そうだな。女神、というのが一番わかりやすいかもしれない」


「女神だと?」


「うん。世界を創る存在。『クリエイター』と自称しているよ。

 とは言えこの世界とボクは、本来関係がないんだけどね。ボクは今、この世界に秘かに忍び込んでいる状態」


「……意味がわからないが、セイラは自分のことを『ボク』などとは言わない」


「あはは、あんまり似せちゃうと、君も気分が悪いかと思ってね。

 さて、ここで君に、世界の秘密を暴露しちゃおう」



 そういうと、セイラ、いや女神?、は含み笑いをしながら腕を組んだ。



「君たちが生きるのは、ボクたち『クリエイター』が創り上げた、幾星霜ある世界のうちの一つ。

 ボク以外にも『クリエイター』は無数にいて、様々な世界がそこかしこに乱立している」


「待て。お前が神のような存在だという主張は理解した。

 だが、そういうやつが無数にいる……?世界も複数ある、ってことか?」


「そ。理解が早くて助かるよ。

 君たちのいる創られた世界を下位世界、クリエイター達の世界を上位世界、とでも呼ぼうか。

 下位世界は、上位世界において無数に生産されている。下位世界同士で互いに感知することはまあ、不可能だね」



 俺は、どうコメントしたらいいか分からず、口を噤んだ。しかしセイラは構わず進める。



「下位世界の創造目的だけど、これもはっきり言っちゃえば、楽しみや趣味だね。

 あ、もちろん、創るからにはちゃんとやるよ?そうしないと崩壊しちゃうし。

 クリエイターたちは、自分の作った世界や、そこで生きる者たちを見守って、愛しているんだ」


「……お前もか?」


「うん、もちろん」


「こうして、上位世界の者が下位世界の者にコンタクトを取るということは、よくあるのか?」


「それが、君に声をかけた本題になってくる。

 正確に言えばボクも、アバターだよ。ええとつまり、上位世界にいるボクの意志やキャラクターみたいなものを、創った下位世界に反映している、って感じかな。

 で、そうしてクリエイターは、下位世界のストーリーに介入することがあるんだ。


 例えば、特定の人物を『主人公』として、不自然なほど彼に都合のいいイベントを配置する、とか。そういうのは『ご都合主義』って呼ばれてる。

 あるいは、『神』を装って、その世界基準で見て明らかに強力すぎる力を『主人公』に与えてみたり、とか。『主人公最強』『チート』なんて言われるね」


「……なぜそんなことを?」


「観察するのさ、そういった『主人公』達が織り成すストーリーを。

 ちなみに、他のクリエイターが創った世界を覗き見ることもできる。


 『クリエイター』は、下位世界で起こったストーリーが面白い場合、そこを切り取って、保存したりもできる。


 そういうストーリーが集まる場所もあるんだ。『ストーリーテラーになろう』とか『ツクルミル』とか。


 ちなみに、そういうサイトで人気が出たストーリーには、ポイントが蓄積される。そのポイントは、自分の世界をより良くしていくためのエネルギーになるんだよ」


 なるほど、仕組みは分かったが……あまり気持ちのいいものではないな。かと言って、それが本当だとしても、俺たちにどうこうできる問題ではなさそうだ。


「それで、その話と俺に何の関係が?」


「うん。

 ちょっと話を逸らすけど、君、自分の人生、どう思ってる?」


「……馬鹿なことをしたと、思ってるよ」


「例えば?」


「一番は、リントの奴を追放したことだな。

 今思えば、あいつのパーティーへの貢献度合いは明らかに大きかった。

 正直、なぜ気づけなかったのか、不思議なくらいだ」


「ふむふむ、なるほど」


 しかし改めて考えてみると、不自然な点は他にもたくさんある。

 例えばリントの追放に対して、反対したのはソアラくらいだったが、他の二人ももっと止めてもよかっただろうに。

 フレイムドラゴン退治に関しても明らかに無茶だし、何故無理に決行したのか。

 ダンジョンで、あいつらが引き返そうと提案してくれたのに、なぜ俺は一人で突っ走って自滅したのか。


 ……ん?

 これって、まさか……。


「気づいたみたいだね」


「『クリエイター』による干渉?」


「うん。この世界を創り上げたぬしが、そうなるように仕向けたんだ。

 その様子は、『ストーリーテラーになろう』で配信されている」


「何だって!?」


 俺は凡そを理解し、思考がフリーズする。


「ええと、クリエイターを代表して……ごめんね」


 セイラは手を合わせて謝るが、そんなことは何の慰めにもならない。



 こいつが。

 こいつらが原因なのか。

 人の人生を弄び、転落する様を愉快に眺め、あまつさえ他の奴らにも見せびらかして。

 神だのと名乗っているが、悪魔の間違いじゃないのか。


 俺は思わず、腰の剣に手を伸ばし、目の前の悪魔を一刀両断にした。

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