『ざまぁ』される俺たちにも救済を!

@ikut

ケース0/冒険者ユーゴ・アクツエルの場合

あいつを追放したせいで、俺は死に至る



 これは、俺、そして俺たちの物語――世界よ、思い知れ。




***********************


「ギャウオー―――――!!!!」



 雄叫びと共に、フレイムドラゴンが超密度の大火球を吐き出す。



(あ、これはダメな奴……)



 眼前に迫るそれを前に、俺は自身の、二十年という人生の終わりを予感した。



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「ユーゴ・アクツエルよ。そちに勇者の神託がくだった」


■□■□■□■□

 

 何かが見える……五年前の王宮での出来事?


 ああ、これが俗にいう「走馬灯」って奴か。


 この頃はよかったな。勇者の神託のおかげで、周りも俺をちやほやして。何より俺も、魔王討伐の使命感に燃えてたっけ。



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「ソアラ、ギガント、シーナ、それにリント。俺たち五人で、パーティー結成だ!

 パーティー名は……『無限の虹』!」


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 ああ、これは神託から半年後……パーティー結成の時。


 女魔法使いのソアラ、屈強な重戦士のギガント、女盗賊のシーナ、そして魔術師兼事務担当のさえない男・リント。

 不思議と馬が合った俺たちは、瞬く間に気鋭の新人冒険者パーティーとして、ギルドに名を馳せ始めたんだ。



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「ユーゴ、金遣いが荒いぞ!パーティーの運営に支障が出る」


「うるせえ、リント!パーティーのリーダーは俺だ、俺に指図すんじゃねえ!」


「それに女遊びもほどほどにしとけ」


「はっ、てめえには関係ねえだろ」


「いや、悪評が立ち始めていて、依頼者の印象が悪くなってる」


「それをどうにかするのが、雑用のてめえの仕事だろうが!」


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 これは結成から四年後……この頃からだ、リントの野郎がうざくなり始めたのは。


 初級魔法しか使えねえ雑魚の癖に、何かと出しゃばってきやがって。ソアラが庇うから、俺もある程度は黙認してやってたが――



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「リント。今日でてめえは用無しだ。『無限の虹』から出てけ」


「なっ、正気か、ユーゴ!?補助魔法担当はどうする!?ソアラは攻撃特化型の魔法使いだぞ!?」


「はっ、心配はいらねえ。優秀な賢者様が、これから仲間入りだ」


「初めまして、そしてさようならかな、リント君?

 僕はキーシュ。これでも、上級魔法五十種を修めた賢者だよ」


「上級五十種……」


「そ、初級しか使えねえお前とは格が違うのよ。さ、目障りだ。とっとと出てけ!!」


「くっ……」


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 そう、結局半年前、パーティーの更なる飛躍のために、リントをクビにしてキーシュに加入してもらったんだ。だが――



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「魔物だ!!」


「キーシュ、全員に全ステータスバフを!」


「なっ……!?そんなこと、できませんよ!」


「何!?でもリントの奴は五秒でやってたぞ」


「ありえない!!

 ステータスバフは多岐に渡り、全てを修めている者などいません。しかも一人ずつにしかかけられないのですよ、だから五秒で全員になど不可能です!」


「何だって、聞いてねえぞ!?」


「だから言ったじゃない、リント君がいないと、このパーティーは終わりよって!!」


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 リントは確かに初級魔法しか使えない。ただし、全種類・・・の初級魔法を使えたらしい。


 戦闘時は、初級であるものの、ステータスバフ魔法全てを発動。

 更に魔法の中には、発動時間を短縮したり、効果を増幅させたりできるものもある。


 初級魔法故、それぞれの効果は微々たるものだが、それらを多重発動させ、上級以上の効果を生み出していた――らしい。


 ソアラから聞いて、初めて知ったことだ。



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「ごめんね、ユーゴ。私、やっぱりリント君が心配。彼の後を追うわ。だからあなた達とは、ここまでね」


「なっ、ソアラ、俺は認めねえぞ!」


「さよなら」


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 すぐに、ソアラが離脱した。


 風の噂で、リントの奴は名だたる冒険者たちを引き連れ、新たにパーティーを結成したこと、ソアラもそれに加入したこと、そのパーティーの評判が鰻登りに上がっていることを知る。


 俺たちはと言うと、キーシュの伝手で新たな魔法使い・デイビッドに加入してもらい、起死回生をかけて、このダンジョン「無限火山」にフレイムドラゴン退治に来たが――



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「ダメだ、モンスターたちの猛攻を防ぎきれない!」


「リントの補助があった頃のパフォーマンスを維持できていないわ、やっぱりこのダンジョンは私たちには早すぎたのよ」


「うるせえ、ギガント、シーナ。泣き言を言うな!

 キーシュ、デイビッド、どうにかできるか!?」


「……勇者だからと期待していましたが、自分たちの力量も分からない愚か者だったとは」


「ああ。正直、こんな奴がリーダーのパーティーではやっていけない。

 俺たちは抜けさせてもらうぜ」


「なっ、キーシュ、デイビッド!!」


「……ユーゴ、私たちもここで引き返しましょう」


「ああ、俺も同意だ」


「シーナ、ギガントまで!」


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 ダンジョン内で、パーティーは崩壊。俺は仲間の制止を振り切って、単身、奥へと進むことにしたが……結果はこのザマだ。

 

 つーかこう見ると俺、最低野郎だな。何でリントの奴を追放なんてしたんだ。


 ソアラから、あいつの特性は聞いていたはずなのに。

 いや、ソアラがあいつの肩を持つから、素直に聞き入れられなかったのか……。


 ソアラ……あの長い金髪と整った顔立ちは、どことなくセイラに似ていたな。明確に違うのは瞳の色……ソアラはヘーゼル色だが、セイラはトルマリンだ。



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「……セイラ、死ぬな、セイラ!!」


「ユーゴ……くん……今まで、ありがとね。

 私、もう、ダメみたい……私の分まで……頑張って生きて……」


「セイラーーーー!!!!!」


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 ……ちっ、これは十年前、十歳の頃の記憶か。

 最後に、嫌なことを思い出させやがる……。




 魔力を帯びた緑色の炎に、全身が焼かれていく。熱いと感じる暇もない。

 巡る走馬灯に意識を委ねているうちに、俺の身体は跡形もなく蒸発した。


***********************



「うーん……ここは?」


 目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。地面すらも暗闇で、自分がどんな体勢なのかすら把握できない。


 いや、俺は確か、死んだはずじゃ……。



「お、気が付いたね、ユーゴ君」


 高く澄んだ声に振り向くと、そこには金髪の美しい女が手を振っている。



「ソアラ……いや、セイラ、セイラか!?」

「やっほー」


 彼女は、その碧眼を強調するようにウィンクした。

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