第14話 前略、道の上より-14

           *


 陽はすでに傾いていた。海の香りが強くなっていた。時折、民家の間から海が見えることもあった。しかし、湾岸線はアップダウンが激しく、体力の消耗が激しく、風景を追っている余裕はなかった。湾岸線までの四〇キロが嘘のように疲れが襲ってくる。横の直樹もきっとそうだろう、負けるもんか、とイチローは自らを鼓舞していたが、疲れは容赦なく積み重なってくる。

 風景は紅みを増している。夜も近い。もう、五〇キロは走ったろうか。まだまだ、続くエンドレス、男の意地のサドンデス。二人は走り続ける。


 「新しい情報が入ったよ」

中川の声にみんなの注目が集まった。

「旭学園の生徒が、直樹さんともうひとりの男子が一緒だったのを見たって」

「どこ?」

「宮磯公園の近くだって。二六号線沿い」

「じゃあ…」

「中川君、何時ごろかわかる?」

「二時過ぎか三時前くらいだって」

「さっきの泉津の目撃は三時半くらいだって言ってたわ」

「決まりだ!マラソンだ、二六号線沿いに」

「美崎遊園かな。行き先は」

「だいたい、そんなもんだろう」

「走ったら何キロくらいある?」

「七、八〇キロくらいじゃないか?」

「げ、そんなに走るの?」

「四〇キロ、三時間、くらいとすれば、今頃は湾岸線に入ったくらいかしら」

「まだまだじゃない」

「でも、いまから車で追いかけても一時間は掛かるわ。二六号線は混んでるから」

「先生、行くんですか?」

「どうしよう」

「え?行かないの?」

「マラソンなら、放っておいてもいいかなって、そう思ったのよ」

「でも……」

しのぶが心配そうに由起子を見つめていた。その顔を見て由起子は、にんまりと微笑んだ。

「行こうか?どうせ、帰れる体力も残ってないでしょうから」

「連れてって下さい!」

「俺も」

しのぶと中川が叫んだ。由起子は二人に頷いた。

「いいわ。行きましょう。えーっと、後は…」

「あたしが控えてます」

明智の応えに由起子は満足げだった。

「そう、じゃあ、お願いするわ。守衛さんには訳を話しておくから。遅くまで残っていてもいいように」

「はい」

「それから、いま捜してくれてるみんなに連絡して。ミキちゃん、いいわね」

「ハ~イ」

「じゃあ、行きましょう」

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