第7話 前略、道の上より-7
*
練習を終えたイチローがグラウンドを出ると、ベンチの壁にもたれて直樹が待っていた。イチローは、一応先輩だからと会釈して通ろうとすると、直樹が声を掛けた。
「おい、イチロー」
その語調が強く、イチローの癇に触った。
「なんスか?」
不貞たようにイチローは応えた。しかし、直樹は、じっと冷たい目でイチローを睨んでいた。イチローは、そんな直樹の視線に尋常でないものを感じて、少し怯んだ。
「なんスか?」
今度は、少し様子を伺うように小さく言った。
「イチロー」直樹は低い声で威圧感を湛えて話し掛けてきた。「おまえ、しのぶちゃんに、随分ひどいこと言ったみたいだな」
イチローはしのぶの名前が出て、少し安心した。と同時に、あの野郎、と、しのぶに対する怒りが沸いてきた。告げ口しやがったのか、と思いながらも、今目の前で威圧している直樹に気づかって、小さく答えた。
「いゃ、別に」
「別に?おまえ、あんなこと言っておいて、それで別にってのかぁ?」
イチローはむかむかしながら、それでも直樹を刺激しないように、感情を抑えながら小さく答えた。
「まぁ…、ちょっと、はずみで…」
「はずみでも、言っていいことと悪いことがあるだろ!」
直樹の態度が居丈高に思えてますますむかむかしてきた。
「だけど、あのヤロウ、生意気で……」
「おまえが、生意気だなんて言う権利があるのか?」
「……」
イチローは何も言えなかった。言えば、罵詈雑言が飛び出しそうだった。堪えていると、直樹が追い打ちを掛けてきた。
「黙ってないで、なんとか言えよ。おまえが悪いんだろ?」
イチローは堪えていた。周りでは他の部員たちが取りまいて見つめていた。いつも世話になっている直樹相手だから、周りも随分心配しているようだった。それは、イチローにもはっきりとわかった。だけど、もう、堪えられそうにもなかった。
「どうした?反省してるのか?じゃあ、しのぶちゃんに謝りに行こう」
そう言って直樹が近づいてきてイチローの腕を掴んだ。と、イチローは直樹の手を振り払った。驚く直樹と、睨みつけるイチローの間に緊張が走った。
「嫌だ」
イチローは言い放った。
「なに?」
「嫌だ!」
「なんだと?」
「なんで、あんなヤツに謝らなきゃなんないんだ!オレは嫌だ、ぜったいに!」
「おまえ、自分のやったこと、反省してないのか?」
「どうして、オレが反省しなきゃならないんだ!あいつが、生意気だからいけないんじゃねえか!」
「相手は女の子だぞ」
「だから、どうだって言うんだ!あんな、乞食ヤロウ!」
「おい!イチロー!」
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