第6話 前略、道の上より-6
しのぶは驚いて何も言えなかった。未来は大げさに話を進めた。
「イチロー君がね、何だかよくわからないけど、やたらめったら、しのぶちゃんに突っかかるのよ。因縁つけたり、悪口言ったり。ね、しのぶちゃん」
「あ、そ、そんなこと、ないけど」
「なに言ってるのよ。さっきまで、あんなに怒ってたのに」
「あ、でも、そんなに、ひどくないから」
「言っちゃえ言っちゃえ。あんなやつ、直樹さんにしばかれたらいいのよ」
「いいぜ、しばいてやるよ」
直樹は、これまた大げさなポーズで胸を叩くまねをした。
「あ、でも…、本当にいいんです。あ…、たいしたことないから」
「なによ、さっきまでと、全然違うじゃない。あたしが代わりに言って上げようか。あのねー」
そうして未来はしのぶが止めるのも聞かず告げ口した。直樹は、頷きながら聞いていたが、未来のひと言で顔色が変わった。
「おい、本当に、あいつそんなこと言ったのか?」
強い語調にしのぶは気押されて、直樹の顔を見入ったまま、頷いてしまった。
「あのヤロウ」
低く、怒りを押し殺したような声で直樹は呟いた。
「よし、わかった。そんなやつは、俺が許さん。俺がしばいてやる」
止めようとするしのぶとは裏腹に未来は喜んでいた。
直樹が去っていくのを見送りながら、しのぶはとんでもないことになったと思った。振り返って未来の顔を見ると、未来は全く悪びる様子もなく、屈託のない表情でしのぶを見ていた。
「どうしたの?」
その言葉にしのぶは呆気に取られて一瞬何も言えなかった。
「これで、イチローに天誅が下るわ」
「そ、そんな」
「いいじゃない。お調子もんのイチローにはいい薬よ」
「そんなことしてほしいなんて、あたし思ってない」
「まぁ、いいじゃない。面白いことになったわ」
悪戯っ子のように微笑む未来に戸惑いながら、しのぶは直樹の去った方向を見やっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます