第8話 前略、道の上より-8
「何回だって言ってやる!あいつは、乞食だ!ルンペンだ!フーテンだ!」
「イチロー!おまえだって、あの子が、事情があって家出してたことくらい知ってるだろう!」
「だから、なんだって言うんだ。自分だけが、悲劇の主人公面しやがってよ!虫が好かねえったらありゃしない!」
「イチロー!俺も許せないぞ、おまえを」
「許せなきゃ、どうする?ヤルか?かかってこいよ!」
ファイティング・ポーズを取るイチローに直樹は数歩近づいた。
異常な緊迫感が当たりに漂った。周りの誰も止められそうになかった。
しかし、直樹は数歩近づいたところで立ち止まった。まだ、イチローを睨みつけていたが、闘気はなかった。
「なんだよ、コラぁ、ヤルのか?オマエなんか、怖くねえぞ。なにが、スーパースターだ。いい気になるな!偉そうにしてもな、オレはオマエなんか、ヘとも思っちゃあいないんだ!」
イチローの罵声にも直樹は冷静に見えた。
「なんだよ。怖じ気づいたのか?え?天下のスーパースターも、オレ様の前では、降参か?」
「イチロー」直樹はゆっくりと静かに語り掛けた。「おまえをぶっ飛ばすのは簡単なんだが、それじゃあ、面白くない」
「え?」
イチローは気勢をそがれてファイティング・ポーズをやめた。
「おまえくらいのガキ、叩きのめすのは簡単すぎて面白くない」
「なんだ、偉そうに!」
「おまえに、思い知らせてやりたい。おまえが、どれだけ、ちっぽけなヤツか」
「な…に……」
「いいか、決闘だ」
「なん…なんなんだ、結局、ヤルんじゃねえか」
「勘違いするな。おまえの思ってるような、チャチいケンカなんかじゃない」
「え……」
「あとで連絡する。いいな、逃げるな」
「あぁ。オレは、逃げも隠れもしねえよ」
「いい度胸だ。ただし、おまえが負けたら、しのぶちゃんに頭を下げて謝ってもらうからな」
「いいぜ。そんなことくらい。でも、オレが勝ったら、アンタはオレの家来だ。いいな」
「つまらん男だ……」
「なに?」
「あぁ、いいよ、それで」
「いいな!いいんだな!男に二言はないな」
「くどい」
「よーし。決まりだ。ケンカで、オレは負けたことがないんだ。何でもいいぜ。なんだったら、野球で勝負してやろうか?」
「いや、もっと、面白いことでやろう」
「え…」
「楽しみにしてろってことさ」
「あ…あぁ」
「じゃあな」
直樹はくるりと背を向け、去って行った。その後ろ姿を見ながら、イチローは少し後悔していた。じっと直樹の後ろ姿を見つめているイチローにジローが近づいた。
「兄さん、大丈夫?あんなこと言って」
「あ…あぁ、大丈夫だ」
「まずいよ、直樹さん怒らせちゃあ」
「いいんだよ、あんなヤツ」
イチローは精一杯の虚勢を張って、更衣室に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます