人を幸せにする薬

@goburinnokoshiginchaku

異世界

 「すっっげぇぇぇ!!!これが異世界!」

 真っ黒なジャージを着こなす中肉猫背の男がだだっ広い草原を叫びながら走り抜けていた。彼の走った後にはクレーターが散見しその力強さをこれでもかと示していた。

 

 『勇者様』

 一通り走り疲れた後男は草むらに横になりながらその不思議な声に耳を貸していた。 

 男の前には手のひらサイズの可憐な少女がプカプカと浮いていた。

 「どうしたんだ?」

 『私は妖精です。あなた様の偉大なるお力で魔王を倒して欲しいのです』

 「任しとけ!!俺に不可能はない!!!」

 『ああ、ありがたきお言葉......!一生ついていきます!!』

 「よーし!そうと決まれば冒険だ!!!」

 彼は勢いよく立ち上がりながらメラメラと燃えたぎる太陽に向かってそう叫んだ。



 


 「ここが町か......!実に良い!!楽しそうだな!お前もそう思うだろう?」

 『はい、私もそう思います......まず手始めに武器を手に入れたらどうでしょうか?』

 「良いな!それ!採用!!!」

 男は勢いよく飛び上がり見知らぬ家の屋根に着地した。屋根を伝い空を駆ける。

 「む!あれだな!」

 『はい。あれです』

 男は屋根から飛び降り軽やかに着地した......つもりだったが失敗してしまった。

 「......!!!いてぇぇ!!」

 『大丈夫ですか!今ヒールをかけます!!大丈夫です!私が助けます!!』

 不思議な光が男を包んだ。苦悶の表情を浮かべていた男はだんだんと落ち着きを取り戻し、

 「......!!!完全、復活!!!!!」

 そう叫んだ。

 「ありがとな......よーし!早速......たのもーう!!」

 彼は真っ白なのれんをくぐり抜け彼女を見た。

 太陽のように真っ赤な瞳。赤々と煌めく美しい髪。その全てが彼を魅了してやまなかった。

 「俺は勇者だ。お前、着いてこい!」

 「......いいわよ、それじゃお近づきの印にこの勇者の剣をあげるわ」

 「よーし!それじゃ魔王城にいくぞ!!!」

 「「おおーー!!」」


 


 

 

 町の外へ出るとそこには大量のウサギがいた。明らかに敵意を持ってその目は男を滾らせるには十分だった。

 「......手を出すな!こいつは俺が倒す!」

 「「きゃー、かっこいいー!!」」

 「よし、いく............................」

 ウサギを殺そうと走り出した瞬間、男の意識が闇に飲まれた。



  




 


 「......ん?これはなんだ?」

 意識が浮上して男が始めに見た景色は既に事切れたたウサギだった。

 『蜍昴■縺セ縺励◆縺ュ』

 「ん?なにか言ったか?」

 「え?だから戻ったのですねと言ったんです。ほら鍛冶職人ちゃんもつんけんしてますけど心配してましたよ」

 「そうか!......まあいい、このまま森にいこう!」

 


 


 清涼な空気が満ちる森の中、男は剣の試し切りをしていた。

 「切れる!!切れるぞー!!ヒャハハハハ!!」

 狂気的な声をあげ、ウサギを細切れにする男。手始めに腕と足を切り落とし、動けなくなったところで目を貫き絶命させる。

 「あなたのような人に振ってもらえるなんて私の剣も幸せね」

 「だろ!!よし!村に行って休もう!!」

 「「おーー!!」」

 



 


 

 そこは辺鄙な村だった。小さい旅館が一つと家が二つ。男は旅館を訪れることを決めた。

 「たのもーう!!」

 彼のそんな声に現れたのは妙齢の女性であった。

 「あら、旅のお方、こんな辺鄙な村までどうしていらっしゃったのですか?」

 「休憩だ!!」

 「そうですかそうですか。どうぞごゆっくりなさってください」

 突然、ドアの開く音が聞こえた。

 「ママ~ただいま!......お客さん?」

 「あらお帰り、そうよ。あなたも失礼のないようにね」

 少女は元気な声ではーいと返事をした。

 「それでは部屋を案内し...........ま、す?」

 男は女の腕を切り落としていた。激痛に悶える女を睨み付けながら彼は剣に付着した血を払った。

 「痛い、いたいよぉぉ!!!」

 「ママ!ママ大丈夫!?」

 男は少女の頭をつかみ持ち上げた。もちろん少女も抵抗するが勇者である彼には敵わなかった。

 「お願いします!どうか娘だけは......!殺すなら私を......!お願いします!!」

 「ママ!痛いよ!!助けて!」

 男は人外の握力を持ってして......少女の頭を握りつぶした。ブシャッ!と血と脳汁が飛び散りそれは女の顔さえ彩った。

 男はかつて少女だったものを放り捨てると無抵抗の女の頭を少女と同じように握りつぶした。


 また意識が闇に飲まれた。

 

 

 

 次に目が覚めたのは、ベットだった。隣には体をさらけ出す鍛冶職人。

 「豌玲戟縺。繧医°縺」縺溘o」

 「......何をいってるんだ?」

 「縺?縺九i縲∵ー玲戟縺。繧医°縺」縺溘o縺」縺ヲ言ってんの!」



 彼は心なしか薄暗い回りを見渡しながら鍛冶職人に服を着せ、村から出た。

   




 魔王城へと続く道の途中、見たこともない動植物が蔓延る神秘的な空間で男は顔が無造作にくっ付けられた化け物と対面していた。

 『あれは魔王軍の幹部です』

 「......今ならまだ戻れる。手をとってくれ......!」の

 「黙れ!死ね!」

 男は剣を振り上げ化け物向かって振り下ろすが難なく回避される。

 「信じてくれ!頼む!お前を救いたいんだ!」

 「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」

 男は我武者羅に剣を振り化け物との距離を詰めた。

 「なんで信じてくれない!!私たちはあなたに幸せに......」

 「ッ黙れ~~!!!」

 男の凶刃が化け物の体を切り裂いた。身体中から苦悶の叫び声が聞こえるが男はそれを無視してさらに刺した。

 

 返り血で体が真っ赤になった頃には、化け物も死んでいた。




 意識が暗転する。






 場面は飛んで、魔王城前の村。

 『縺昴m縺昴m縺ァ縺吶?』

 「鬆大シオ繧薙↑縺輔>繧」

 男の目に写る景色はどこもかしこも溶けていた。建物は紫に染まり、見知らぬ人々は赤になって目玉はとれ、体の各部位はめちゃくちゃに貼り付けられていた。

 そんな世界でも彼女たちだけはその姿を変えていなかった。

 「......よーし!魔王城に向かうか!!」

 「「縺翫??」」

 

 



 


 

 魔王城入り口。そこに黒い鎧を身に纏った騎士が鎮座していた。

 「......来たか」

 「ぶっ殺してやんよ!」

 男は剣を構え愚直に突き進んだ。騎士はおもむろに鞘から剣を取り出すと苦もなく受け流した。

 「ッッ!!死ね死ね死ね死ね死ねよ!!!!」

 しかし、男はそんなこと知らんと言わんばかりに発狂しながら連続で切りつける。

 「......手遅れか。言っただろうに、お前は生きてはならないと」

 騎士は難なく受け流す。

 「......ッ!!ぶっ殺してや......」

 

 世界が黒く染まった。











 次に男が見たのは騎士の心臓を貫く自らの腕だった。

 騎士の表情は甲冑で覆われており分からないが男はなぜか笑っているように感じた。

 男は勢いよく腕を引き抜いた。引き抜いたところから血が吹き出すがそれも気にせず剣で執拗に執拗に騎士を切り刻んだ。


 

 






 騎士が人形の原型を保てなくなったとき男はふと気づいた。  

 「......妖精?鍛冶職人?どこにいるんだ?」  

 辺りを見渡すが影も形もない。

 「おい......おい!どこにいんだ!どこにいんだよ!!頼むから出てきてくれよ!!」

 彼が叫び声はやがて魔王城にかき消された。男は耐えきれなくなったのかしゃがみこんでしまった。





 「......プッ、ヒャハ、ヒャヒャハハハアハァハハハハハハハ!!?!!!!」

 突然男が笑い始めた。その笑い声はまさに醜悪で人間というものを表しているかのようにも見えた。

 「お前も俺を見捨てるのか!!??クソッタレドモガ死んでしま......」

 


 男の意識が失くなった。







 「よく来たな勇者よ。歓迎しよう。私か魔王だ。」

 場面が切り替わるとそこは......男にとってなんともおぞましい場所であった。

 辺り一面に広がるピンク色の肉。所々に変な液体が付着しており男の嫌悪感をいやがうえにも掻き立てた。  

 何よりもおぞましかったのが目の前の魔王だった。魔王の風貌は平凡と言うのが一番適切だろう。日本なら探せばどこにでもいるような顔つきだ。

 「む?震えているな勇者よ。武者震いと言うやつかね?」

 男は魔王の言葉で始めて自身が震えていることに気づいた。

 




 「......助けて......」

 男の口からあまりにもか細い望みが放たれた。魔王が優しく問いかける。

 「ふむ?何から助けて欲しいのだ?」

 「......分からねぇ......頼むから助けてくれよ!!!」

 男は剣を投げ捨てて魔王のもとに走った。

 「いいぞ、助けてやる。この魔王に抱きつくがよい」

 男は涙を流しながら魔王の懐に抱きついた。


 「ごめんなさい弱くてごめんなさい...........女に生まれてごめんなさい......!がんばれなくでごめんなさい......!当たり前ができなくてごめんなさい......!」


 魔王はその無限の愛で泣きじゃくる男をあやした。

 「大丈夫だ。お前は愛されている。これからも幸せに生きていけるさ」

 「......本当?」

 「ああ、魔王である私が断言しよう」

 「私生きていいの......?殴られなくてもいいの?」

 「生きるのに許可などいるものか」

 男......否、女にとってその言葉はまさに福音であった。

 「魔王さん..................................................................................................................あり..............................」

 

 









 世界が闇に染まった。




 



 女の前にあったのは鬲皮視縺ョ豁サ菴であった。それは心臓から血を噴水のように吹き出していた。



 女は少し呆然とした後魔王だったものに噛みついた。

 魔王の肉を何度も租借しなから飲み込む。  

 「アハ......、アハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

 空虚な王室に女の狂った笑い声だけが響いた。それはどれだけの月日が経とうと鳴り止むことをしなかった。













 『それでは次のニュースです。○日、未明○○市在住の女性が執拗に刺され殺害された事件が発生しました。

 目撃者の証言によりますと、

 心臓を中心に大量のナイフが突き刺さっており、さらには噛み後が散見されました。その場には被害者の娘さんが呆然と立ちすくんでいたそうです。

 警察の調べによるとナイフからは娘さんのDNAが検出されさらに調査を進めた結果、娘さんは重度の薬物依存だったことが明らかになりました。

 警察は今後も事件の背景や事実確認を進めていく模様です。

 また、詳しい情報が入りましたら随時報道いたします』

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