【小話あり】必死

文吾は、硯の墨を筆にたっぷり含ませると、「エイやッ!」と一声あげ、【必死】と書いた。自分でも、なぜ、【必死】と書いたのか、わからない。

無我の境地というものか、頭に突然、思い浮かんだ言葉。

それが【必死】だった。


・・・・


必死 必死 必死


わたしは 生きるのに必死です


ひしひしと

生命いのちの終わりを感じながらも


必死 必死 必死


必死に わたしは 生きるのです


ことば どおり

人は 必ず 死ぬとしても


わたしは 今

必死 必死

必死に生きているのです


・・・・


続けて、何枚も【必死】、【必死】、【必死】と書き続ける。

やがて、墨がなくなってしまった。


アハアハアハと、文吾は笑った。

心に溜まっていたもやが、薄らいだような気がした。


文吾は、床に散らばる【必死】を眺めながら、本来ならば、【必生】と書くのが、正しいのではないかと思った。

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