第承話

 触れたら触れるほど軽くなる。

 あれから何人が私を無視したのだろうか。あれから私は何人に触れてきたのだろうか。

 分からないほど無視されたし触った。

 重りは軽くなっていき私はついに歩けるようになった。


 強烈な気だるさのような重さが付きまとうが歩けるだけでも嬉しかった。

 駅の外へと出る。

 空は雪色に染まっていた。数軒のみイルミネーションがつけられている。よく見るとそれの数はポツポツと置かれている。片付けの途中なのだろうか。それにしてはほとんどの家が中途半端に出しっぱなしだ。


 雪の上の人間。

 私は不思議な力に目覚めていた。

 それに連動して瞳も不思議な力に覆われている。まさに開眼だ。

 その男の小指に赤い糸が絡まっている。その糸が繋がる先を見に行くとそこには女がいた。彼女もまた小指に赤い糸が絡まっていた。

 カップル同士を繋げる赤い糸。

 私はそれが見えるようになっていた。


 通行人を装い近づき、ただたまたま当たってしまったかのように振舞ってその男に触れた。

 重い体が少しだけ軽くなった。

 一方で、触れられた男は立て膝をついた。

 なるほど。触れると重さを少しだけ擦り付けることができるようだ。



 気だるさも少しは晴れてきてはいる。触れると一時的に重しが取れる。そして、触れられた人間に重しがのっかる。

 赤い糸のない人間に触れると全く重みがつかないようだ。一方で、赤い糸が幾つもある人間──つまり、不倫人間──は相当な重しがのっかかる。


「ねぇ、お姉さんは、帰らないの?」

「うーん、一人暮らしだからさ。帰っても誰もいないし」


 その日、駅から家に行くまでにある公園で幸薄そうな女の子と話した。

 彼女は親に捨てられ、叔母に引き取られた後、散々な目にあったよく漫画とかで見る幸薄な子だった。学校でもイジめにあい、居場所がない彼女はここで1日を終えようとしていた。

 そんな子に触れた。

 彼女には重りはのっからなかった。


 それからも触れていくと重りの法則が分かっていった。

 愛されている人程重りが重くなる。逆に、愛されない人は全く重みはない。

 特に印象的だったのが、沢山の人と不倫して赤い糸を繋げていた女、愛の重い女の彼氏だ。触れた瞬間、重みに耐えきれず地面に横たわり地面を舐めていた。

 私に宿った特殊能力。愛されている人間に触れるとその愛の重さだけ重みをかけることができら能力。さらに、それに付随してカップルや夫婦の間に繋がる赤い糸が分かってしまう能力。安直だけど【愛の石】という能力名にしよう。

 私はその能力を使えば使うほど体が軽くなった気がした。この能力を手に入れた瞬間は動けなくなって大変だったが、今となっては不自由はない。


 ははっ。


 なんか楽しいな♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る