第145話 【#親子対談】リアルママを召喚するっ⁉ 【萌黄あかつき/虹】

「みなさん、どうも、こんあかつき。レインボウコネクト3期生、バーチャル魔法少女萌黄あかつきでーす」


 隣にいる詩楽の挨拶が終わると、僕はマイクに向かって口を開く。


「こんばんは。レインボウコネクト・アークの花蜜はにーです」


:夫婦でコラボ乙

:オレらにイチャラブを見せつける気?

:エロいことして、BANされないことを祈る


 コメントのノリが軽いのと真逆に、詩楽は真顔だった。

 僕は彼女の手を握る。ぷるぷると震えていた。


「さて、今日の配信なんですけど、趣向を変えてお送りします」


 こほんと詩楽は咳払いする。


「大変恐縮ですが、先日の彼氏事件に続き、極めて個人的な内容になります」


:タイトルどおり、ガチでリアルママを呼ぶの?

:ってか、リアルママにカミングアウト系の企画じゃないの?


 他社のVTuberの話なんだが、配信中に自分の仕事をリアルママに打ち明けた人がいる。


「実はですね、1ヶ月近く前に親にバレてるんですよ」


 詩楽が苦笑を浮かべる。


:むしろ、未成年なのに親バレしてなかったんかw

:働くのに親の同意っていらないの?

:ワイチューブの収益も未成年はダメじゃね?

:ワイチューブは会社垢と聞いた気がする

:みんな、あかつきには複雑な家庭の事情があるんだよ


「知らない人もいるかもしれませんが、あたしの家は教育的によろしくない環境なんです。幼稚園の頃なんですけど、あたしの目の前で母親が知らない男と交尾してましたし」


:さすがに、ネタやろ

:そりゃ、やべぇw

:お父さんがかわいそすぎる

:お父さん、NTR属性の持ち主かもしれんぞ


「あっ、あたしの母は結婚してないんで」


 詩楽はあっけらかんと言う。


「あたしの父、お金持ちなんですけど、浮気相手を妊娠させまくったらしく、50人ぐらい子どもがいるとかいないとか。母も浮気相手のひとり。あたし、父とは赤ちゃんのときにしか会ってないんです」


:すげぇの来たぁぁぁっ

:明治や昭和の大経営者じゃないんだからw

:金持ちはスケールがデカい


 衝撃的な話題を、詩楽は笑顔で語っている。

 おかげで、雰囲気を暗くせずに済んでいた。


(おかしいな、僕が知ったときはシリアスだったのに)


 去年のクリスマス。詩楽が過労で倒れて、病院で理事長に聞かされたのが遠い過去のように思えてくる。


「で、あたしのお母さん。あたしの存在を認めてないんです。ガチで、育児放棄ネグレクトされてたんですよ」


:さらに重い話が

:複雑な家庭の役満かよ


「今日の配信は、娘を否定するリアルママを召喚します。はにーちゃんを仲裁役に対談する予定ですが、喧嘩になってしまったらごめんなさい」


:親子喧嘩配信とは斬新すぎる

:体当たりする子だと知ってはいたけど、ここまでとは……

:親子喧嘩の勝利を祈って ¥1085


「はにーもあかつきさんのリアルママに会ってるんですけど、マジであかん人です。なので、はにーが間に入ります」


:親子に挟まれる彼氏

:親子喧嘩からの親子丼フラグ?


 完全に空気がネタになってしまった。

 正直、大丈夫なのかと思うけれど、企画を提案したのは僕だ。

 ノリ的にもVTuberらしいといえばらしいので、このままでいいか。


 と思っていたら。


「真面目な話。相手は子どもをネグレクトする親です。そういう親とあたしが話すことで……親とのつらい経験を思い出しちゃって、しんどくなる人がいるかもしれません。そういう人は無理せず、ミュートにしたり、配信を切ったりしてもいいですからね」


 詩楽は雰囲気に流されず、大事な注意事項を説明する。


「この企画について、本当にやるべきか迷いました。でも、あたしが配信を中止しても、ネグレクトする親や被害者の子どもが減るわけではありません」


 詩楽が真面目モードになると、ふざけていたコメントも減っていく。


「あたしが以前、命を粗末に扱おうとしたのも、家庭の問題が大きかったと考えています。そんななか、この企画をやろうと決意したのは理由があります」


 詩楽は呼吸を2、3回してから。


「こういう親子もあると現実を知ってもらうことで、親や子どもたちの支援につながればいいなと思っています」


 僕が企画を提案したときの理由だ。


「この配信の収益は全額NPOに寄付したいと思います。自殺未遂防止キャンペーンでお世話になったところで、苦しむ子どもの支援に使っていただく予定です」


 運営を通して、先方の許可も得ている。


:あかつきちゃんにしかできない支援やな

:マジで魔法少女ばりに世のために動くとは


「もうひとつの理由なんですが、かなり自分勝手です。みんなの前に親子喧嘩に勝ったら、お母さんも手が出せないかなって思って……。みんなを証人にする話なので、めちゃくちゃワガママですよね。不快に思われる人もいるでしょうが、すいません」

「はにーも謝ります」


 数秒の間を置いてから、僕は言う。


「あかつきさん、珍しく闘志を燃やしてるね?」

「うーん、あたしとしても無駄に喧嘩したくはないんだけど、相手が相手なんで……」

「ということは、お母さんの態度次第で仲直りもありってこと?」

「そうね。はにーちゃんに誓う」


 先日、海の家で議論したときは平行線に終わった。

 あれから一切話題にせず、詩楽の意思にゆだねてきたけれど、僕としてはうれしい。

 できれば、将来の義母との不仲は避けたい。


「あかつきさん、がんばって」

「まあ、企画自体を考えついたのは、はにーちゃんですけどね」

「でも、あかつきさんが自分の意思で選んだんだよ。なかなかできることじゃないし」

「そうかな?」

「あかつきさん、豆腐メンタルとか自虐するけど、タフな人じゃないとできないよ」

「えへっ、えへへ」


:見せつけてきたw

:俺は男女にてぇてぇは成り立つ派だから許す


「前置きが長くなりましたけど、お母さんを呼びますね」


 詩楽がスマホを操作し、小百合さんに電話をかける。


『もしもし、彼氏さんとテレフォンセックスさせて』


 とんでもない詩楽ママの第一声に。


:俺の耳バグった?

:さす、VTuberのリアルママ

:マジでやべぇ奴しかいねえ


「あの、放送禁止用語はやめてください」

『息子ちゃん、声が女役で、息子は竿役なのね。無双すぎるから、はめてくれない?』

「意味がわかりません」

『ぼかしてるからセーフ』


 ただでさえ関わるとカオスの人に配信が加わった。


(収拾がつかなくなったら、どうすんだ?)


 自分から提案しておいて、頭が痛くなるのだった。

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