第143話 【緊急】重大発表【花蜜はにー/虹】
深夜、詩楽に相談した翌日。夜9時から僕は配信を始めた。
「みなさん、こんばんは。
いつもと違い、改まった口調で挨拶をする。
配信画面も真っ黒で、アバターも登場させていない。
:あれ、なんか変じゃない?
:まさか、活動休止じゃないよね?
「不安に思わせてしまい、申し訳ありません。引退とか、活動休止ではありませんので、ご安心ください」
:ふぅ、よかったぁ
:僕、はにーちゃんに会うのが楽しみで生きてるし、安心した
:はにーちゃんいなくなったら、俺、何でしこればいいの?
性欲むき出しのコメントが、僕を突き動かす。
「今日はみなさんに謝罪したいことがあって、枠をとらせていただきました。同じ時間に被ってる虹メンには時間もずらしてもらって、すいません」
七瀬キララ:はにー先輩は恩人ですし、わたしは味方です
さくらアモーレ:今度、肉を奢って
神崎さんと美咲さんからコメントが来た。
メンターの仕事に支障が出るかもしれないので、神崎さんにはあらかじめ内容を伝えてある。最近は神崎さんも順調なので、メンターの意味はあまりないのだが。
なお、詩楽は僕の隣で見守ってくれている。彼女と手を握っているから、心強い。
「謝罪というのは、今までみなさまには……ウソを吐いていました」
:ウソって、結婚してたとか?
:いや、リアル高校生だし、結婚じゃないだろ
:なら、プロの声優だった?
運営の許可をもらっているとはいえ、緊張する。
ゴクリと唾を飲み込んでしまった。
軽く深呼吸してから。
「実は、はにーは…………男だったんです」
僕は自分のウソを告白する。
:えっ?
:耳がバグった?
:マ?
:冗談たすからない
「冗談じゃなくて、僕は男なんです」
:ボイチェンって、そんなかわいい声出せるの⁉
:両声類にしても、すごすぎる
「実は、僕、声変わりしてないんです。変声障害というもので、病院でも見てもらったんですけど、声が高いままで」
:冗談にしては本気っぽい
:今調べたけど、変声障害ってホントにあるらしいな
:声変わりしないなら、男説も納得できる
:いや、声は説明ついても、男にしてはかわいすぎるやろ
:どちゃシコいもんな
「僕、いろいろ考えたんですよね。男が女子を演じて、男性リスナーさんに喜んでもらうにはどうすればいいかって。
その結果、男性が好きそうな女子になりきってみました」
:男だからこそ男のツボがわかる的な?
:かわいい女子は幻想だしな
:男の娘の方が女っぽいはテンプレ
「僕が女子だと思って、応援してくださっていたみなさま、ウソを吐いていて申し訳ありませんでした」
:なんで、謝るの?
:俺たちを喜ばせようとしただけじゃん
:はにーちゃん、前に自分の声で悩んでたって言ってたけど、男でその声なら納得だわ
:はにーちゃん、高校生なんでしょ、学校でいじめられてないか心配
「うぅぅっ」
みんなが優しすぎて、涙が出てきた。
横にいた詩楽がハンカチを取り出して、拭いてくれる。
「みんな、ホントにありがとう。大好きだよぉ」
:やっぱ、男とは思えねえわ
:魂の性別はどうでもいい
:かわいいが正義だしな
一方。
:うわっ、キモ
:性別を告白した後に、大好きはやめてほしい
:フェミニストなんだけどさ、男が女をやるの許せない
覚悟していたとはいえ、僕を批判する声もあった。
「やっぱ、キモいですよね」
:いや、俺はバ美肉もいいと思うけどな
:男が美少女になれるのがVTuberの世界だぜ
落ち込みかけていたけれど、みんなの声に励まされる。
:ってか、運営もグルだったんだよな
:リアルではにーちゃんと会った人たちも黙ってたってこと?
:キララが漏らしちゃった事件でも、秘密は守られてたのか
:っつか、なんだかんだ言って、運営も金がほしいだけじゃねえかw
案の定、運営に矛先が向く。
「運営さんと僕が合意のうえで進めたことです。運営さんから強要されるようなことは一切ありませんので」
あらかじめマネージャと相談して決めた文言を話す。
「ポポン!」
ディスコーダーの通知音が鳴った。
美咲さんだった。通話を求めている。
さっきコメントがあったので、この配信を見ているはず。
なにか意図があるにちがいない。
美咲さんとの通話を開始する。
『どうも、さくらアモーレです。運営の件について、補足したくて、突然お邪魔しました』
まさか。
『はにーちゃんがデビュー当時のマネージャ、実は、アモーレだったんです。てへっ』
:なっ、マネージャ兼VTuberだったとは
:あいかわらず、体力お化けだなぁ
『当時のお兄ちゃん、男なのに甲高いアニメ声に悩んでてさ、コンプレックスを克服するためにも逆転の発想で女子をやってみればって思ってたんだよねぇ』
「アモーレ先輩」
『なのに、はにーちゃんったら、みんなを騙すことを気にしていたんだよぉぉつ。だから、アモーレは心配するなって説得したの』
気にしなくていいと言われた記憶はあるが、説得まではされてないはず。
『実際、デビューしてみたら、大当たりよ。おかげで、お兄ちゃんも自信がついてくるし、運営的にも人気が出て助かるし。みんなも、はにーちゃんの声をありがたがってたじゃん。誰にも被害は出てないよね?』
:実際に、はにー、メチャクチャかわいかったもんな
:歌劇団で女子がイケメンを演じるのと同じじゃね?
:フェミニスト的にはありえないわ
「アモーレさん、でも、僕はウソを吐いてました」
『けどさ、はにーちゃんのおかげで、夢を見られた男子もいたはず。誰も傷つけない、優しいウソだよ』
:誰も傷ついてないなんて、それこそ嘘やろ
:ただでさえ、VTuberなんてキモいのに、男が女子になるなんて
:女子を穢してるよね
:フェミニストとして断固抗議するわ
『エセフェミニストは黙れ』
「アモーレさん?」
『あんたらは女の敵じゃん。女子のためとか言いつつ、自分の思想に固執してるだけ。そもそも、人類の半分は女子なのよ。すべての女子を一括りにされてたまるかっての』
「アモーレさん、大丈夫?」
『ごめん、熱くなっちゃった。けど、これだけは言わせて』
「……」
『VTuberの活動を通して、自立できた女子もいるの。あかつきちゃんとかね』
詩楽がピクリと震える。
「はにーちゃんがウソを吐いていたことは、あたしも謝るわ。はにーちゃんをレインボウコネクトに誘ったのは、あたしだし」
黙っていられなくなったのか、詩楽も参戦してきた。
「でも、性別を理由に意味不明なことを喚く人は見すごせない」
:あかつきもガチで怒ってる
:あかつき、はにー大好きだもんな
:あっ、はにーが男なのに、これまでのアピールって……
詩楽はうなずくと、僕に目で訴えかけてきた。
(ま、まさか……)
僕はまだダメージが少ないが、正真正銘の女性VTuberである詩楽にとっては致命傷になりかねない。
反対の言葉を口にしようとして、途中で口が止まってしまった。
詩楽の琥珀色の瞳があまりにもまっすぐで。
たとえ、すべてを失っても、応援したい。
僕が最後まで推せばいい。
「あたし、萌黄あかつきは、はにーちゃんと、結婚を前提にお付き合いしております」
「この件についても、ウソを吐いていて、申し訳ありませんでした。でも、僕たち本気なので」
:マジかよぉぉぉぉっっ!
:あかつき、男とやってたのかよ⁉︎
「あっ、僕たち、そういうことまだです」
「もう、ウソを吐くの嫌なんで、本当です。キスしたり、同じベッドで寝たりはしますけど、それ以上はしてませんから」
:キス⁉︎
:同じベッド⁉︎
大荒れになる一方。
:いや、むしろ、結婚まで行くなら、応援したくなる
といった意見も見られた。
『ほら、行くとこまで行けば、応援してもらえるんだって、お兄ちゃん』
予想外の波乱はあったが、これですべて話せた。
今後どうなるかはわからない。
でも、僕も詩楽もやりきった。
スッキリしていたら。
さゆたん:あんたなんか幸せにさせない
詩楽の母親が呪詛の言葉を吐いた。
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