第106話 【#あかつき建設】会場を作ろう! 【萌黄あかつき/虹】

 僕が恥ずかしい思いをしてからも連日にわたり、配信外で会議を重ねた。

 3日後にようやくクラスの出し物が決まった。

 その翌日、あかつきチームはマインドクラフトに集まっていた。


『こんあかつき。こんばんは。バーチャル魔法少女萌黄あかつきです。今日からは文化祭の会場を作っていくよ』

「はにー、がんばる」

『はにー先輩、オネショネタまで晒して、あの企画になった件、どう思いますか?』


 あの企画がなんなのか、今はあえて言いません。 


「べ、べつに、みんなが決めたことだし……はにーは文句ないよ?」

『なぜ、疑問形?』

『こら、ゆっぴー。あたしのはにーちゃんをからかわないの』


 恒例となった詩楽と結城さんのやり取りだ。


『先輩たち、わたしはアイドルですので、建設もやります』

「ガチなアイドルは、農作業や離島暮らしもするもんね」

『はい、はにー先輩っ!』


 アイドル怖ろしい。


『ところで、我があかつき建設は、校舎の建設を請け負っている。校舎を建設していくぞ☆』


 校庭や講堂などの校舎以外の施設は他の人たちの担当だ。


『あかつき社長、仕事に当たって、お話はないんですか?』

『はあ、社長の挨拶なんてだりぃに決まってる。上司の話ほどムダな時間はないっての』

「ゆっぴーさん、まあまあ。はにーは社長にスピーチお願いしたいかな」


 あかつき建設はあかつきさんが社長で、僕が副社長である。


『ん。みんな安全第一。疲れたら休むこと。無理して心身を壊したら……ダメ、ゼッタイ』


 社長の気遣い助かる。


(詩楽、過去の無理を本当に反省しているからね)


『ただし、納期は絶対に間に合わせること』

「えっ?」


 いきなり社長が矛盾するようなことを言ってきた。


『納期と残業、どっちを優先した方がいいんですか?』


 真面目な神崎さんがストレートに聞くと。


『不可能と思ったら不可能になるんだ。残業しないで仕事を終わらせるんだ。やれ。やればできる』

『精神論なブラックじゃねぇかよぉぉぉっっっっっっっっ!』


 叫んだのはもちろん結城さん。


『ゆっぴー、文句言ってる時間があるなら、手を動かしなさい』


 動じないあかつきさん。メンタルがタフになったのはブラック経営者を演じてるから?


「副社長の僕がかみ砕いて言うね」


 詩楽と結城さんでは収拾がつかなくなるので、僕が割り込む。


「残業しないように工夫して作業をしてほしいんだけど、どうしても無理なのってあるじゃん。そういうときは、はにーに相談して。調整できるところは調整するから」

『そう、それそれ。それが言いたかったの。はにーちゃん、助かる』

『わざとらしい』

『マジで。はにーちゃんの指示に従えば、ホワイトになれる。はにーちゃんほど白い子はいない。パンツも白一択』


 あかつきさん、どこからパンツの話題に?


『はにー先輩。教室1個完成しました』


 僕たちがブラック企業ごっこをしている間にも、神崎さんは黙々と作業を進めていた。


「キララさん、ありがとう。じゃ、次はうちの教室だね。ゆっぴーさんに頼んでいいかな?」

『なんで、ゆっぴーが?』

『ひとりだけサボってるから』

『バレたか』


 あかつきさんも僕も建設をしながら、しゃべっていた。


「あかつき建設は社長も副社長も現場で作業するからね」

『やっぱブラックじゃん⁉』


 結城さんの発言を素直に受け取るなら、上の人が現場に出ている会社はすべてがブラック企業になってしまう。


(かなりマズいんじゃ……)


 一部の発言を切り取られて、炎上しかねない。

 なんとかしないと。

 僕が口を開きかけるが。


『ゆっぴー、それ、ガチでちがうよ。世の中にはね、会社の規模だったり、社長の考えだったりで、エラい人が現場の作業をしている会社もあるの。きちんと従業員のことを考えている会社であってもね』


 先にあかつきさんが注意した。

 遊びではなく、本気で。


『まさか、零細企業が全部ブラック企業とは言わないよね?』

『すいませんでした。遊びとはいえ、軽率な発言をしたこと、謝ります』


 あかつきさんの口調で事態の重さに気づいたらしい。結城さんも丁重に謝罪する。


 その裏で、僕は運営に一報を入れていた。

 アーカイブを残すかどうかなどは運営に判断してもらおう。

 すぐに謝罪したし、大事にならなければいいんだけど。


『というわけで、ゆっぴーには反省してもらうから、あたしたちの教室を建設して』

『ゆっぴーが全面的に悪いから、やるよ。でもさ――』

『ん?』

『教室どうする?』


 結城さん、ミスの直後にもかかわらず、冷静に対応している。やはり、大物だ。


『うちのクラス、メイド喫茶じゃん。内装はメイド喫茶でいいよね?』


 あえて触れてなかったけれど、文化祭の出し物はメイド喫茶になった

 企画会議の中でも最初に出た案なので、もっと早く決まってれば……。


『ゆっぴー、あたしたちは本物のメイド喫茶じゃなくて、文化祭のメイド喫茶なの。最初からメイド喫茶っぽく作ったら、文化祭じゃなくなっちゃう』


(文化祭のメイド喫茶は教室を飾り立ててするもんな)

 あかつきさんの意見ももっともだ。


『でも、最初からメイド喫茶にした方が、作業は楽。納期的にも、コスト的にもメリットはある』

『それはそうなんだけど……』


 今度は教室の内装を巡って、意見が割れた。

 結城さんが言うように作業の効率を優先するか、学校の文化祭を再現する方を重視するか。どちらかを決めないといけない。


「難しいねえ、はにー的にはあかつきさんに納得かなぁ。『メイド喫茶』じゃなくて、『文化祭のメイド喫茶』だからね。でも、残業もさせられないから、悩むなぁ」


 中間管理職は頭が痛い。


(大人はよくやってられるよな)


 結城さんのキャラを考えると、ダダを捏ねると思っていたのだが。


『しゃーない。今回は副社長の顔に免じて、いったん教室を作るね』

「ゆっぴーさん、ありがとう。まだ、時間もあるし、今日終わらなくてもいいよ」


 結城さんが折れてくれて、助かった。


『ゆっぴー、あたしからも礼を言わせて。大変だけど、文化祭を盛り上げたいから』


 あかつきさん、ブラック経営者のキャラを捨てて、地の詩楽が出た。


『ゆっぴーさん、わたしも手伝いますね。アイドルは内装もできませんと』


 なんだかんだ言って、会場の建設は順調に進んでいった。


 なお、数日後。運営からある発表がされた。


『みなさん、夏です、夏。レインボウコネクト所属VTuberの水着イラストを描くと、良いことがあるかもしれません。さあ、欲望のままに描くんだ。描け!』


 思いっきり煽っていたが、それには意味がある。

 あえて言わないけど。

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