第6章 バーチャルで文化祭がないと誰が言った?

第107話 【#マイクラ文化祭】開会式つまらなかったら即終了【さくらアモーレ/虹】

 期末試験も無事に終わり、7月も中旬に入った。

 昨日まで梅雨末期の豪雨だったけれど、文化祭当日の今日は運良く晴れてくれた。

 マインドクラフトマイクラでの文化祭なので、気分の問題なんだが。


 マイクラ内に建設した学校の校庭にて。

 総勢14名のキャラが集まっていた。みんな普段の配信で用いる2Dの肉体ではなく、マイクラのドット絵だ。


 みんながざわつくなか、ひとりがお立ち台にジャンプして上がる。


『本日はお日柄もよく……』


 テンプレ的な挨拶を決めたのは、文化祭実行委員長のさくらアモーレ先輩。


『アモーレ。来賓の挨拶なんかつまんねえぞ。つまらなかったら、開会式は即終了だかんな』


 突っ込みを入れたのは、実行委員の花咲はなさきプリムラ先輩。


『ぶぅ、プリムラちゃん。手厳しいなぁ。みんなが立派な学校を作ってくれたおかげで、ここまで文化祭が再現できたんだよぉ。つまらない挨拶までリアルにしないと』

『リアルを追求するのはいいが、誰得なんだって話だぜ』


 リアルっぽく見せるのはいいけれど、リアルを追求し出すとつまらなくなる。悲しい現実だ。


『みんなに言っておくねぇ。この開会式、つまらなかったら即終了だから。アモーレみたいにしちゃダメだぞぉ』


 アモーレ先輩もわざとだったらしい。

「つまらなかった」という条件が主観的すぎる。誰が、どういう基準で判断するのかな。エロ絵に難癖つけるのに似ている気がする。


『気を取り直して、挨拶をするよぉ。今日のコマンドは「いのちをだいじに」です。死なないで、愛し合おう!』

『文化祭でハードコアってか⁉』

『人生いつでもハードモードだよぉ。だからこそ、困難を乗り越えた愛は光り輝くのさ。「ロミオとジュリエット」のように』

『文化祭だから、「ロミオとジュリエット」を出したのか?』

『いぇーす。どこかの誰かが「ロミオとジュリエット」をやろうとして企画通らなかったって聞いたんだもん。仇を討ってみただけ』

『委員長。うちのはにーちゃんをバカにしないでくれるかしら』

『魔法少女あかつき、またしてもアモーレの邪魔をするのか。やはり、魔法少女は悪の存在。文化祭の会場もろとも吹き飛ばしてくれようぞ』

『アモーレ先輩。愛の伝道師から魔王に闇落ちしたのね。こうなったら、もはや助からない。あたしが楽にしてあげるから覚悟しなさい』

『おいふたりとも、これ挨拶なんだが――』


 プリムラ先輩がため息を吐くと。


『挨拶が長すぎ問題。会長と呼ぼうか?』

『『それだけは勘弁!』』


 結城さんのクレームに対し、あかつきさんとアモーレ先輩の声がハモった。


『アモーレ、やる気がないなら帰れ』


 プリムラ先輩の煽りに。


『わかった。アモーレ帰る』


 アモーレ先輩が壇を降りていく。委員長の挨拶はどうなった?


 なお、結城さんも一緒に列から離れていく。

 すかさず、あかつきさんが気づいて、結城さんの首根っこを押さえた。


『帰れと言われて、帰る奴がいるかっ!』

『プリムラおまえが帰れと言ったじゃん』


 年配の上司と若手社員の争いみたいになった。

 一方、列のすみっこでは。


『ゆっぴー、文化祭はサボるためにある』

『ゆっぴー。ここはリアルの学校じゃないの。みんなで盛り上げようよ』

『えー、だりぃなぁ』


 いつものように詩楽と結城さんが親子喧嘩をしている。


『開会式ないなった』


 と、3期生のおーぶさんが困惑していた。


『ぐぅぅ~』


 2期生のスイレン先輩は寝ているし。


『武士たる者、どんな時でも修行でござる』


 舞華さんは剣の素振りをしていた。


 みんなのパワーがすごい。

 最近、後輩に振り回されてばかりだった僕としては新鮮であるけれど。


「カオスだ」


 多彩な才能がぶつかり合って、収拾がついていない。

 1期生の先輩が僕を見て。


『はにーちゃん、期待してまっせ』


 と言われてしまった。

 今春高校を卒業した1期生の先輩たちは、さすがに堂々としている。

 この状況に手を出さないこと、先ほどの発言からして、僕たち後輩に任せる気らしい。


:しまらない開会式が草

:つまらない以前の問題なんじゃね

:戦国時代なんだけど

:誰が天下トーイツすんの?


『はにー先輩。わたしたちでどうにかしましょう』


 神崎さんが話しかけてくる。僕への期待値がハンパない。

 真面目な彼女に頼られて、立ち上がらないのは情けない。


 詩楽が結城さんを相手にしている以上は、ふたりで動くしかなく。


『みんなぁ、はにーがルールの説明をするよ☆』


 僕は壇に上がると、大きめの声を出す。


『はにーちゃん、すいませぬ。あたし魔法少女失格。赤ちゃんからやり直してきます』


 久々に詩楽が超自己否定に入った。


「あかつきさん、大丈夫だから、はにーと一緒に説明しよ」

『うん☆ はにーちゃん、だーいちゅき❤』


 あかつきさんのキャラがスキップして、壇上の僕に飛びついてきた。


『愛はすべてに勝る。アモーレも完敗だにぇ。あとは任せた、はにーちゃん』

『委員長が仕事を放棄したなら、オレもお役御免だな』


 委員長が引退するや、静かになった。


:あかはにが天下を取った

:実行委員とはいったい


「じゃあ、はにーから説明をするね」


 ようやく、開会式がまともに始まった。


「このあと、13時30分からは、あかつきチームのメイド喫茶を配信します。あかつきチーム以外の虹メンは遊びに来るもよし、休むもよし、自分の準備をするもよし」

『じゃあ、ゆっぴーは帰宅部だな』

『ゆっぴー、あなたはメイドだから』

『あかつき先輩。メイドの労働は冥土めいどの入り口だぞ』

『っていうか、はにーちゃんのターンなの。邪魔するなら、消しゴムにするから』

『ゆっぴー、消されたいけど、黙っておく』


 黙るやいなや、僕は各グループの配信時間と枠を読み上げる。


「グループごとの時間が終わったら、クライマックス。なんと――」


 僕は溜めを作ってから。


「ミスコンがあります!」


:ミスコン助かる

:リアルのミスコンはコンプラあるもんな

:マイクラのミスコンって水着審査は?


「うーん、ミスコンで水着審査あるかなんですけど、いまは秘密だよ☆ 夕方をお楽しみにね」


:楽しみにしてる

:はにー、いきなりの指揮で乙


「ミスコンの後は後夜祭。キャンプファイヤーだよ☆ 文化祭あるあるな伝説があるとか、ないとか」


『一緒に踊ると永遠の愛で結ばれる系の?』

『占い師として、おーぶがプロデュースした伝説だよ~お楽しみに~』

『おーぶちゃんなら信用できる。はにーちゃん、あたしと一緒に踊って』


:マジでマイクラで文化祭を再現するんやな

:伝説は気になる


「というわけで、もう時間ですね。次は、あかつきさんの枠でメイド喫茶だから、みんな見てね」


 カオスだった開会式もどうにか終わった。

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