第5章 あかつき建設

第104話 【重大発表】みんなで盛り上がるにゃ【さくらアモーレ/虹】

 6月も中旬に入り、曇り空が続いている。

 今日も湿気が不愉快でたまらないのに、詩楽うたが僕の膝に座っている。

 本来なら、苦痛が増し増しになりそうだが。

 詩楽嬢の柔らかさが日本の梅雨に勝っていた。


「優勝です」

「ん。あたしも甘音あまねちゃんの膝で優勝決めた」


 イチャついていたら。


「柚たそたちを家に呼んでおいて、イチャつくなし」

「お邪魔でしたら、わたしたちは帰りますが……」


 知らないうちに結城さんと神崎さんが来ていたらしい。


「ごめんね、夜に呼んで」

「いえ、同じ階に住んでますので」

「甘さん、柚たそを夜這いするつもり?」


 変な発言は無視しよう。


「もう配信始まるし、このまま一緒に見ようか?」


 詩楽が僕の膝から降りると、後輩も席に着く。


 初配信が無事に終わり、4期生の活動も徐々に軌道に乗っていた。僕たちの家に来る頻度も減っている。

 だから、油断してしまった。言い訳だけど。


「わたし、緊張してきました」

「神崎さん大丈夫。今日は概要を発表するだけだから」


 2人を家に呼んだのは、美咲さん、いや、さくらアモーレさんの配信を一緒に見るため。

 僕はノーパソの画面をテレビに出力する。


「ん。始まった」

『みんな、ラブリーだよぉ❤❤❤ 虹の2期生で、本業は愛の伝道師、さくらアモーレでーす』


 あいかわらず、あざとさがハンパない。


『今日は重大発表がありんす。けどぉ、まだ20時じゃん。帰宅中の人もいると思うから、発表はもうちょっと待ってね』


 寸止めを食らった。


『ところで、最近、4期生がデビューしたでしょ。アモーレ的にはカップリングが気になるんだよぉぉっ』


:キララ×ゆっぴーしょ

:ゆっぴーのウケができるのはキララしかいない

:キララ×ゆっぴーが優勝!


 コメント欄を見ると、他の組み合わせはなかった。


「わたし、柚さんのパートナーなんですか?」

「みさん、アイドルは恋愛禁止なんだし、百合営業するんじゃないの?」


 青くなる神崎さんと、素直に受け入れる結城さん。


「柚さん、そういうこと言われて、恥ずかしくないんですか?」

「べつに。みさん、着痩せしてて、おっぱい大きいじゃん。柚たそ的には役得かな」

「なっ」


 結城さんによって、新たな情報がもたらされた。

(うちのVTuber、魂も巨乳が多いのはなんでかな?)


「ってわけで、みさん、マジで付き合っちゃう?」


 軽いノリの告白が来た。


 明らかな冗談なので、僕と詩楽もなにも言わない。

 ところが――。


「ふざけないでください!」


 神崎さんは叫んだ。唇をワナワナと震わせて。


「ちょ……冗談なんだけど」


 突然、怒られた結城さんはふてくされる。

 詩楽がすかさず結城さんをハグする。結城さんは詩楽の胸に頬をスリスリ。至福の表情を浮かべていた。


(こっちは大丈夫だな)


 僕は神崎さんに専念しよう。


「神崎さん、どうしたの?」

「いいえ、たいしたことじゃありませんから」


 たいしたことないと言われても、説得力に欠ける。

 しかし、感情的になっている子に指摘しても、余計に事態が悪化するだけだ。


「わかったけど、僕たち神崎さんを心配してるんだ」


 神崎さんの発言を受け入れつつ、僕も気持ちを伝える。


「すいません。ムキになってしまって」

「みさん、柚たそが地雷踏んだんだったら、謝る」

「悪いのはわたしです。柚さんには怒ってません」


 互いに謝り合う。

 神崎さんから結城さんに手を差し出した。結城さんがその手を握る。

 わだかまりがなさそうで良かった。


 もう大丈夫そうだけれど、もう少しフォローしておこう。


「神崎さん、なにかつらいことがあったら言ってね」

「お気遣いありがとうございます。ちょっと嫌なことを思い出してしまって、取り乱してしまいました」


 さっきはなにも話してくれなかったが、やはり過去のトラウマが地雷になっているようだ。


「言いたくなったら、話ぐらい聞くから遠慮しないでね」


 僕が言うと、神崎さんは視線を泳がせる。

 気になったが、他の人もいる。この場で聞くのはやめておこう。


「みんな、そろそろ重大発表が始まる」


 詩楽の発言をきっかけに僕たちの目がテレビに集まる。


『4期生も入って、レインボウコネクトも14人。

 それだけ人が集まれば、なんかイベントできるよねぇぇ。

 野球やサッカーは無理だけど、なんかしたくてさぁ。

 アモーレは考えました』


:なにをする気?

:アモーレのことだから、恋愛リアリティショーとか?

:ガチな戦いになったらどうすんだよ?

:レインボウコネクトのてぇてぇ崩壊の危機か⁉


 うまい具合にミスリードできた。


『お兄ちゃんたち、残念だよぉぉ。正解は――』


 画面にレインボウコネクトのタレント集合絵が表示され。


『文化祭を開催しまーす』


:文化祭だと?

:まさかのリアルイベント?


『またまた残念。マインドクラフトマイクラに会場を作って、文化祭をやろうって企画。文化祭の模様を配信するの。あっ、リアルイベントについては運営にも言っておくねぇ』


:文化祭も運動会も修学旅行もマイクラでする時代やな

:さす、マイクラ


『リアルの高校文化祭みたいに出し物をするよ。バンドの演奏や演劇、ミスコンなんかしちゃおうかなぁとか、みんなと相談中。運営さんにマイクラの神がいるから、どこまでできるか調整しながらやるね』


:ドット絵のミスコンとかカオス

:ドット絵の水着審査は草生えるw

:ミスコンを豪華にする代を置いとく ¥10000


『あとは~グループを作って、グループ単位でイベントするよぉ。メイド喫茶やお化け屋敷みたいな文化祭定番ネタを建設してもOK。各グループに任せて』


 配信画面にグループ分けが表示された。

 僕と詩楽、神崎さん、結城さんが同じグループだ。

 結局、いつものグループで作為的なものがあるのかな?


『文化祭は1ヶ月後ね。それまで、各グループ内でメイキング文化祭をリアルタイムで配信するよぉ。誰のチャンネルで、いつ配信するかはグループに任せるから。あとはよろ』


:オレ、学生時代は文化祭苦痛だったから、楽しみだなぁ

:文化祭なんてリア充のためのイベントだし

:虹の文化祭ならきつくない


 コメント欄に共感しかない元不登校な僕。

 詩楽も、「文化祭なにそれ、おいしいの?」とつぶやいている。

 全体的にリスナーさんの反応は良かった。


「コラボも解禁されてないのに、初の大型イベント。大変だろうけど、一緒にがんばろう」

「柚、あなたの建設能力に期待してる」


 僕と詩楽が4期生にエールを送ると。


「勉強させていただきます」

「柚たそを評価するなら、ボーナスを弾んでくれ」


 あいかわらず真面目な神崎さんと、ふざけた結城さん。


「あかつき建設はね。労働基準法なんて守ってたら、会社潰れちゃうの」


 詩楽がブラック企業の定番ゼリフを吐いた。

 なお、あかつき建設は萌黄あかつきさんが作った架空の会社だ。


「まあまあ、文化祭前には期末テストもあるし、無理しない範囲でホワイトに働こうね」

「甘音ちゃんはあかつき建設の良心」

「甘さん、惚れた」

「柚、寝取りは禁止」

「わたし、猪熊さんの手腕を学びたいです」


 ワイワイガヤガヤしているうちに、アモーレさんの配信が終わった。

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