第99話 【#初配信】わたしはアイドル #七瀬キララ #虹4期生

 20時。いよいよ神崎さんが演じる七瀬ななせキララの初配信が始まった。

 僕とギャルマネもスタジオ内に待機している。


 レインボウコネクト4期生デビューのプロモーションビデオPVの後――。


 ステージにアイドルが登場した。

 アウトロが終わると、イントロが流れてくる。


 アイドルアニメ発のグループが歌う曲。王道系のアイドルソングだ。

 

 プロでも通用する歌唱力、人を惹きつける魅力、アイドルらしい前向きな歌詞に込める感情、機敏に動く2Dモデル。


 アイドルアニメのライブシーンばりの超絶クオリティ。

 とても、新人の初配信で披露するレベルではなかった。


 本番のテンションも相まって、度肝を抜かされた。

 練習には付き合ったけど、ここまですごくなかったから。

 

 やがて、曲が終わる。神崎さんは右手を天に突き上げて言う。


「みんなぁ、盛り上がってるぅぅ?」


:うぃーす

:歌声キレイやな

:歌、マジで最高だった!

 

「みなさん、初めまして。レインボウコネクト4期生。7色に輝く虹の七瀬キララです」


 神崎さんがキラキラな笑顔を決める。カメラが彼女の表情をキャプチャーし、2Dモデルへと反映させる。


 笑顔の表現力が予想以上に進化していて、最新技術のすごさを実感させられた。

(僕たちの2Dモデルもバージョンアップしてほしいなぁ)

 後輩がうらやましい。


「わたしは。別の世界でアイドルをしていたのですが、このたび日本でバーチャルアイドルを始めました」


 リアルの神崎さんと同じく黒髪のキャラは、正統派アイドルとしてのきらめきを放っていた。

 

:アイドルを強調しておる

:マジでガチなアイドルじゃん!

:正統派でこれだけの破壊力とは⁉


 挨拶だけで盛り上がっている。


 それだけでなく――。

 同時接続数は30万人に届こうとしていて、チャンネル登録者数も20万人を超えている。初配信開始5分未満での偉業達成だ。


「本日の初配信ですが、インタビュー形式でお送りしたいと思います。わたしへの質問をミルフィーユに書き込んでください。URLはこちらです。トリッターにもURLを送りますので、お願いしますね」


 インタビュー企画の件、神崎さんから話を聞いていた。

「パンツの色を聞いてくるかも」と僕は答え、運営に相談するよう伝えた。その後、運営の許可が出て、今日に至る。


「他の4期生には事前に質問をいただいてます。みなさんの質問が集まるまでは、4期生からの質問に答えていきますね」


 と言って、配信画面にテロップが出る。


『Q:パンツの色を教えてください』


 スタジオ内にいるのに噴きそうになった。口を押さえて、我慢する。


(まさか身内に刺客がいたとは⁉)


 セクハラしそうな子はいないと思っていたのに。


「わたし、アイドルなので、パンツしません」


:しませんだと⁉

:わたし、ノーパン宣言


 大量のコメントに神崎さんが真っ青になる。


「いまの間違いです。アイドルなので、パンツの質問はNGなんです」


:なーんだ、ボケたのか

:正当派アイドルが10分で終わりにならなくて、安心した


「次の質問にいきますね」

『どんなアイドルになりたいっすか?』


 今度は普通の質問だった。言葉遣いからして野崎さんと思われる。


「わたし、普通の女の子だけど、夢をおいかけて。何度挫折しても立ち上がって。歌をみんなに届けたい。そして、みんなを元気にしたいんですっ!」


 普段の優等生からは想像もつかないほど、テンションが高い。


「だから、3Dの体をいただけたら、ライブをしたいです」


 この調子なら、すぐに3D化できそう。


「もちろん、ファンのみなさんとの距離感も大事にしたいので、歌枠、ゲーム配信、雑談などにもチャレンジしていきたいです」


『Q:踏むのと踏まれるの、どっちが好きですか?』

「えーと、質問の意味がわからないのですが」


 大丈夫。僕もわからないから。

 犯人は阿久津さんだ。普通にしているとおとなしいのに、ドMで困る。


:また、強烈な奴が4期生におるな

:パンツの色は鉄板ネタだけど、こっちはガチでヤバい


 4期生からの質問は検閲が入っているのに。


「わたしのお仲間はこういう人たちですが、よろしくお願いします」


 神崎さんは笑顔を振りまいた。笑顔で変態を相殺する気らしい。


「では、そろそろ、ミルフィーユの質問に入りますね。ランダムに読みますので、ご容赦ください」


 AIで危険な発言は弾くと運営からは聞いている。

 セクハラは除外されるはず。むしろ4期生より安心できる。


『Q:初めての経験はいつですか?』


(えっ?)


 言葉を失った。


「えーと、初めては中3です。緊張して、体が硬くなって、大変だったんです」


 しかも、神崎さんは平然と答えていた。


:うぉぉぉっ

:清楚はやはりエロかった

:まあ、安定の虹クオリティ(いい意味で)


「とても痛かったですが、最後の方は気持ちよくて……生まれてきてよかったと思ったんですよ」


 ギャルマネは必死に合図を送っているが、神崎さんは笑顔で応じるばかり。


「では、次の質問です」

『Q:経験人数は?』

「うーん、100人ぐらいでしょうか。わたし、まだまだ未熟ですので、少ないんですよ」


:まさかの100人斬り⁉

:アイドルってより、女優やろ

:つか、質問も回答も18禁

:AVはアイドルビデオの略だったとは草生える


 当然といえば当然のコメントが流れ――。


「えっ?」


 事態に気づいたのか、神崎さんが固まった。泣きそうな顔でギャルマネと僕を見ている。手がブルブルと震え、顔も青ざめていた。


 無言。

 コメント欄もざわついている。


 ギャルマネがカンペになにかを書き始めた。

 マネージャから指示が出るまでの間、僕がどうにかしないと。


 僕は後ろから神崎さんの間近に寄ると。


「⁉」


 彼女の黒髪を撫でる。

 配信直前にリクエストされて、できなかったことをしてみた。


 冗談だと本人も言っていたけれど、本気で甘えたいようにも感じられたから。

 ちょっとしたことが心のよりどころになるなら、後で責任を取るつもりだ。


 神崎さんの震えが収まっていく。

 と同時に、マネージャがカンペを見せてきた。

 神崎さんは深呼吸すると。


「初体験って初ライブの話ですよ。あと、経験人数はライブの観客数です。わたし、異世界では駆け出しのアイドルだったんです」


 苦笑まじりに釈明する。

 ギャルマネ、神崎さんがなにをどう勘違いしたのか見抜いていたらしい。


:ガチなエロだったら、運営が止めてるだろうし、勘違いだよなぁ

:なーんだ、安心した

:みんな、アイドルビデオの見すぎなんだよ、オレのことなんだけどさ


「すいません、わたしのせいで変な勘違いをさせちゃって」


 神崎さんはペコリと舌を出す。

 ゲームをしたときも思ったけど、けっこうドジっ子らしい。


「わたしはアイドルですから、へこたれませんよ。アイドルですから」


 を強調する。

 その後は特に問題もなく、30分の持ち時間を使い切った。

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