エピローグ

第77話 【オフコラボ】全員集合! お花見‼【レインボウコネクト】

 4月の初め。

 川沿いの公園に、レインボウコネクトの関係者が集まっていた。


 30人以上で周りから浮くと思いきや、花見客で賑わう公園なので景色に溶け込んでいた。


「ほらー、みんなも酒を飲もうよー」


 僕と詩楽の担任である佐藤先生は、日本酒の瓶を抱えて、顔を赤くしている。

既に完成していた。


「とりま、新人のマネちゃん。さっきから飲みが足りないけど、ふざけてるの?」


 佐藤先生の前には僕と詩楽のマネージャがいる。美咲さんからマネージャを引き継いだギャル風の人だ。ブラウスのボタンを上ふたつ外し、巨乳をアピールしていた。


「パイセン、アルハラっすよ」


 ギャルは上手に逃げる。

 佐藤先生はマネージャの隣にいた、女子2人組に目をつける。


「じゃあ、君ら。先生からの祝いの盃だよー」


 先生はコップを渡そうとする。


「佐藤っち。高校を卒業したけど、わてら未成年なんやで」

「先生が未成年にお酒を勧めて、問題になりませんかね」


 ふたりはレインボウコネクト1期生である。受験があって、あまり絡めなかった先輩たちだ。


「かわりに、わてらが酒をついでやる」

「先生、たまには昼間からダメ人間しましょう」


 先輩たちは若手教師兼運営マネージャを軽くあしらう。

 さすが、3年近くの活動歴で、レインボウコネクトを発展させてきた1期生。


「甘音ちゃん、飲んでる?」

「ジュースだけどね」


 僕は詩楽に焼き鳥のパックを渡す。


「ん、ありがと。肉は助かる」

「昨日はお疲れさま」

「ん。無事に終わった」


 昨日まで、詩楽はアニメ主題歌のレコーディングをしていた。

 もちろん、美咲さんと一緒に。


 美咲さんといえば、天岩戸作戦の後、どうなったかというと――。

 まずは、翌日、美咲さんは実家に行った。


『わたし、年収は数千万円だし、学費も自分で稼ぐ。だから、自分の未来は自分で決める。VTuberの活動もしたい。わたしの人生だから文句は言わせない』


 と、父親相手に意見をはっきり言う。

 父親と揉めたが、美咲さんは一歩も譲らなかった。

 家族会議は何時間にもわたり。


『あなた、うざい。娘を自分の言いなりにしようだなんて、甘いわ。他人に厳しく、自分に甘い人ですよね。あなた、世の中舐めてるの?』


 美咲さんの母親がぶち切れたという。


『いいかげん限界なの。仕事上のイメージとかどうでもいいから、離婚しましょうか?』


 脅しがきいたのか。


『……仕事が大事な時なんだ。離婚だけはやめてくれ』


 父親は折れた。


『じゃあ、わたしはやりたいことやるから』


 と、自分の要求を認めさせたらしい。

 やればできる子だった。


 無期限活動休止の発表から1週間後。さくらアモーレは配信をした。


『無期限活動休止を休止しました』


:休止を休止って、復帰ってこと?

:1週間って、普通に春休みじゃん!

:まさかのドッキリだった?


 案の定、リスナーさんから突っ込みが入りまくった。


 復帰した美咲さんは仕事を精力的にこなし、レコーディングも問題なく終わったというわけだ。


「甘音ちゃんもアフレコ、乙」

「まあ、僕の方もどうにかなったよ」


 僕の方のアフレコも数日前に予定どおり終わった。


 声優さんたち、声の演技が神がかっている。

 たとえば、こんな指示が音響監督から声優さんにあった。


『○○さん、あと1センチ、おっぱいを大きくしてみて』

『了解です』


 20代前半の普乳声優さんの顔つきが変わり。


『あっ、大翔ひろとくん。私と一緒に自由時間をすごそ』


 1センチ分だけ巨乳ぽい声で、セリフを言った。

 明らかに演技が良くなっていたので、意味がわからない。


 声優さんの演技や、音響監督さんの謎の指示に感動していたら、自分の出番がやってきた。

 音響監督のおじさんに話しかけられた。


『君、そのガタイで、あんなにかわいい声出るの?』

『ええ、まあ』

『俺、この仕事を30年やってるけど、初めてだわ。よろしく頼んだ』


 僕も音響監督の指示を必死にこなし、どうにかOKが出たというわけ。

 本職の声優さんに比べると、まだまだだと実感させられた。


(配信しながら、声の演技も磨いていこう!)


 桜と詩楽の銀髪を愛でながら、決意を新たにする。


「お兄ちゃん、飲んでるにゃ?」


 今度は後ろから声をかけられた。


「ジュースですけどね」

「ジュースで良かったにゃ」

「もちろん、お酒飲むわけないですよ」


 美咲さんのことだから、ふざけてお酒を飲ます可能性もゼロではない。

 そう警戒していたのに。


「ジャースなら、らぶちゃんのラブジュースを――」

「ぶはっ!」


 思わず、噴いてしまった。


(いきなり、何を言い出すのか⁉)


 幸い、詩楽は意味がわからないようだった。首をひねっている。


「飲みませんよ、そんな物騒なもの」

「物騒って……お兄ちゃんと愛しあった証のジュースにゃ」

「それ以上はマジで危険です。やめてください」

「本気になっちゃって、お兄ちゃんかわいいにゃ」


 小悪魔ムーブだ。相手にしないが一番。

 冗談なので安堵していたら、背中に柔らかいモノを感じた。


「なら、これならいいよね?」


 なんか、いつもと感触がちがう。

 よりダイレクトにブツと接しているというか。

 普段、ベッドで詩楽としているからわかる。

 背中に当たる双丘は――。


(ノーブラ⁉)


 僕が困っていたら、ロリな先輩は僕の耳元に口を近づけてきて。

 ASMRのようなささやき声で。


「本気になっちゃったかも。お兄ちゃん」


 無邪気に誘惑してくるのだった。


「美咲、聞こえてる」


 最悪な展開だった。


「てぇてぇは許すけど、浮気や本気はダメ」

「なら、ユメパイセンも入って、3人で楽しめばいいにゃ」

「エッチなのは、てぇてぇじゃない。認めないから」


 軽く修羅場と化す。

 頭を抱えていたときだった。


「みなさん、遅れて、ごめんなさいですわ」


 花見に似つかわしくない高貴な美女が現れた。西園寺理事長である。


「ふたりとも理事長の話を聞こう」


 利用させてもらった。


 理事長は僕たちを見渡すと、満面の笑みを浮かべる。

 しゃがみ込んで、ワイングラスを手に取った。

 上下に動いた結果、豊かな胸がダイナミックに揺れる。


「負けた」「あれには勝てないにゃ」


 さっきまで揉めていた詩楽と美咲さんの意見が一致した。

 僕たちの騒ぎなどお構いなしに理事長は話を始める。


「まもなく、後輩が入ってきますわ。1年生の人たちは先輩になりますので、フォローお願いしますですの」


 来週には僕たちは2年生になる。


 レインボウコネクトのVTuberは、虹の橋学園に通う生徒たちからデビューするのが恒例なわけで。


(僕にも後輩ができるのか?)


 気分的には、新人VTuberなのに。


「みなさんで力を合わせて、てぇてぇ文化をもっと発展させましょう!」


「はい」「ういっす」「オレさまに任せろ」などなど。タレント、スタッフ関係なく、やる気を見せる。


「わたくしたちは活動を通して、才能ある若者の自立を支援する。その理念は変わりませんわ。これからもよろしくお願いしますですの」


 理事長は頭を下げる。

 日が傾くまで、花見は続いた。


 やべぇ奴も多いけれど、楽しいイベントだった。

 VTuberになって、みんなと遊んで、本当に良かった。


 いまの日常が続くことを、満開の桜に願う。


「みんな、カラオケ行くぞ!」


 スイレン先輩が2次会をやろうとする。


「お兄ちゃん、もちろん行くよね?」

「美咲、てぇてぇは守って」

「もちのろんにゃ」

「みんなで仲良く遊ぼうな」


 夜遅くまで、みんなで遊びまくった。


 ~第2部完~

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