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第78話 【3月4日】【凸待ち】コミュ障ですが、誕生日を祝ってくれますか?【萌黄あかつき/虹】


夢乃ゆめの詩楽うた視点】


「みなさん、こんあかつき。こんばんは。バーチャル魔法少女萌黄あかつきです。今日は、3月4日。あたしの誕生日でーす」


:おめでとう ¥3400

:ひな祭りから1日ずれてんやな


 みんな、ウソついて、ごめんなさい。

 本当は昨日でした。

 リアルと同じ誕生日にしたくなくて、1日だけずらしました。


「今日は誕生日を記念して、凸待ち配信をしたいと思います。凸待ちは2回目なんですけど、緊張して、心臓が飛び出そう」


 胸に手を当てる。自分の体なのに、柔らかい。


(甘音ちゃん、揉んでくれないかなぁ)


 配信中なのに、変な想像してしまった。

 恋人に触られたい衝動と、みんながいる前で妄想する背徳感。

 特別な趣味はなくても、鼓動が速まった。


「魔法少女は緊張すると、メンタルのバランスを取ろうとして、魔力を消費するの。

 でも、魔力を使いすぎたら、心臓が飛び出る。魔法少女という存在が、ないなった……になるから危険が危ないの」


:まさかの新設定きたぁ!

:あかつきちゃん、存在が消えちゃうの⁉


「みんな、心配かけてごめんね。みんなの応援が魔力に変換されて、あたしに注がれるの。だから、みんなー、あたしに声を届けて~!」


 ヒーローショーのノリで言ってみた。


:俺氏、金の力で応援する ¥10000

:なら、オレはもっと出す ¥20000


 ウルチャをくれるのはうれしいけど、あたしがけしかけたみたい。エゴサして叩かれる未来しか見えない。


「みんな、ウルチャは計画的にね。そういうつもりで言ったんじゃないから」


:安心して。だいたいの人はわかってるから


(コメントをくれる人は好意的なんだけどねぇ)

 話題を変えよう


「コミュ障ですが、あたしの誕生日を祝ってくれる人を待ちたいと思います」


 さっそく、ディスコーダーの着信音が鳴った。


「最初はプリムラ先輩です」

『ういっす。あかつきちゃん、最近、エッチしてる?』

「いきなり、セクハラしないでくださいよ」

『セクハラしなかったら、オレのアイデンティティがなくなってしまうんだぜ!』

「自慢しないで」

『あかつき、前回よりもかわすの上手くなったよな』


 去年の夏を思い出す。アモーレ先輩に推しパンツを聞かれて、煽られた挙げ句に正直に答えてしまった。

 あのときの未熟な自分が恥ずかしい。


「最初の人には、トークデッキを考えてもらおうと思ってましたけど、どうせセクハラなんですよね?」

『とりま、おま。「マインドクラフトの好きな体位」は定番だろ?』

「……収益剥奪されたら、生活の面倒を見てくださいね」

『おうよ。ところで、剥奪はくだつ白濁はくだくって似てるよな。オレと同棲したから、ホンモノの白濁液の味を教えてやるよ。濃厚で、甘いジュースをよぉ』

「遠慮しておきます」


 適当にスルーしていたら、プリムラ先輩は帰っていった。


「トークデッキは諦めた。コミュ障なのに、自分から難易度を上げていくよ」


 すぐに、次の人から着信があった。

 アイコンが目に入ったとたん、胸が高鳴る。


『あかつきちゃん、誕生日おめでとう。はにーだよ』

「はにーちゃん、2日続けて祝ってくれて、ありがとう」


:2日続けて?

:デートしたんじゃね?


「そうなの。昨日、時間があったから、はにーちゃんと個別で誕生日会をしたの」

『あかつきちゃんにはお世話になってるからね』

「はにーちゃん、イタリアンを予約してくれて、ありがとう。料理がホントに美味しかったし、ケーキのメッセージプレートもうれしかった。優勝した気分だったし」


:メッセージプレート?

:ケーキで告白したの?

:ケーキだけに甘い ¥5000


「『これからも推します』って書いてあっての。はにーちゃん、デビュー前はあたしを推してくれてたから、すっごいうれしかったんだよぉ」


 思い出すだけで頬がとろけそうになる。


:はにー、オシャレな店知ってんやな

:はにー、女子力たけぇ!


「水族館も楽しかったね」

「チンアナゴかわいかったね」


 言えない。

 チンアナゴはエッチな生き物と考えてました、なんて。


 プリムラ:チンアナゴは、実質セッ○スだろ ¥8400


 さすがに、この人には負けるけど。


「夕陽の見える公園で、アクアマリンのネックレスをもらったとき、泣きそうだったんだよ」

『はにー、いけないことしちゃった?』

「ううん、うれしくて。はにーちゃんの想いは届いたわ」

『はにー、あかつきちゃんの幸せを願ってるからね』


 アクアマリンが象徴しているものは、幸福、夢の実現、健康、歓喜。

 あたしがそれらを掴めるように、彼は願ってくれた。


 最近、メンタルが少しはマシになった。けれど、ちょっとでも事件があったら、またダメになりそうな気がする。

 実際、帰り道に美咲が揉めてるのを見て、つらくなっちゃったし。


『だから、あかつきちゃん。これからも友だちだよ』

「はにーちゃん、ちゅき❤❤❤」


:あかはにてぇてぇ

:ノロケ、たすかる ¥10000

:いっそ結婚しちまえ


 しばらくして、はにーちゃんとの通話を終える。


 それから、数人と話した。

 みんな、あたしみたいな人間のために時間を割いてくれて。

 自己肯定感が最底辺なので、信じられなくて。

 リスナーさんもあたしの誕生日を祝ってくれて。


「あたし、去年までは誕生日を呪ってたの」


 気づけば、いきなり重い話をしてしまった。


「あたし、ボッチだし、誕生日会とか友だちとしたことないし。周りの子がうらやましくて……悲しくなるから誕生日なんていらないって思ってた」


:あかつきちゃん、よく耐えたな

:これからは、俺たちがいる

:一生、みんながいてるからな


 リスナーさんのコメントも温かくて。

 配信中なのに、涙が出てくる。

 鼻をすすってしまい、うまく話せない。


:ゆっくりでいいからな

:ずっと待つよ


(仕事なんだし、続けなきゃダメ)


 そう思っていても、体は動かない。

 焦っていたら、頬に温もりを感じた。


 振り返る。甘音ちゃんが後ろから指で涙をぬぐっていた。

 彼は空いた手で、あたしの肩を抱く。


 頼りがいがあって、落ち着いて、不安も消えていく。

 彼がついているだけで、冷静さを取り戻せた。


「ごめんなさい。みなさんの気持ちがうれしくて、泣いちゃいました」


:泣かして、すまん


「こんなに多くの人に誕生を祝ってもらえて、あたしは幸せです」


 胸のうちから無限の多幸感が湧き上がる。


「最近、自分が少しは幸せになれたから、思ってることがあって」


 配信を聞いてくれているリスナーさんだけでなく、世界中の人に呼びかけるぐらいのつもりでマイクに向かう。


「みんなに幸せのお裾分けをもらったから、今度は誰かのために動きたい。悩んでいる人がいたら、一緒に悩みをわかちあったり、励ましたり。あたしでもできることはあると思うから」


:幸せのために戦う魔法少女なんやな

:ホントに良い子だ ¥5000


「だから、不完全な魔法少女ですが、今後ともよろしくね」


 幸せな気分のまま、配信を終えた。


 泣いちゃったりして、反省点も多かった配信である。

 メンタルが回復してきた頃に、エゴサをしてみた。一部を除き、好意的な反応がほとんどで、また泣いてしまった。

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