第74話 【作戦2日目】マダミス2【レインボウコネクト】
「じゃあ、ここからは10分で、現場検証などで情報を集めていきます。いいですか。10分ですよ。10分経ったら、解答編に入りますから」
僕はスマホのタイマーを設定する。
今回のシナリオは初心者向け。10分はかなり短い。
(足りるかな?)
「おーぶさんが作ったドリンクの検証が終わったようね」
時間もないので、都合良く動く。
僕はAIの調査結果を読み上げた。
『この薬の成分ですが、たしかにセクハラ治療に有効です。ただし、他の作用もあります』
「なっ」
おーぶさんが真っ青になり。
「なあ、おーぶよ。里のおっかさんが泣いてるぞ。自首して、罪を軽くするんだな」
虎徹さんは刑事さんの演技を続けていた。
「ほんとにおーぶじゃないんです!」
おーぶさんも普段のまったり系とは別人のような焦り方だ。
僕は素知らぬフリをして。
『セクハラ防止にくわえ、他人の恋バナに興味がなくなる効果があるようです』
虎徹さんはずっこけ、おーぶさんは豊かな胸をなで下ろしていた。
「拙者は現場検証をするゆえ、ふたりは待たれよ」
「待って。舞華さんは犯人の場合、証拠隠滅のおそれがあるよ。3人は一緒にいないと」
「くっ、拙者が未熟者ゆえ信じてもらえぬのか」
(未熟者ってより、容疑者のひとりだし)
「すでにロボットが調査してるよ。現場の風呂と、キッチン、寝室を調べてるから」
「拙者にできることはないでござらぬか?」
運営上の都合により、ここでロボットの調査が終わる。
「結局、証拠はないってさ」
僕が結論だけを告げると、ふたりは渋い顔をした。
「じゃあ、おーぶが占うから、そこを調べよう………………アイさん、人知れず悩みを抱えたみたい」
「悩み。拙者から見て、アイ殿は悩むタイプに見えなかったが」
「はにーも。でも、陽キャでも悩みの一つぐらいあるでしょ?」
「おーぶ殿、悩みの内容はわからぬのか?」
「うーん。詳しい事情はわからないけど、家庭の事情みたい」
「さようでござるか。……ガイシャに悩みがあったとしても、事件には関係ござらぬな」
「ううん、犯人にゆすられてたとかあるかもしれないよ。スマホとか調べよっか?」
ふたりから反論はない。
「うーん、アイさん。父親がかなり厳しい人みたいだね」
「噂に聞きし昭和の親父でござるぞ」
「けど、事件とは関係なさそうだね」
そう僕が言ったところで。
――チリリン!
時間が切れた。
「じゃあ、1分したら、解答編に行くから。みんな、シナリオを確認しといて」
進行役として余裕な態度を取るも、内心では焦っていた。
(ヒント少なすぎて、誰が犯人かわかんねえ!)
死亡推定時刻すらわからないし、アリバイも聞いていない。
ミステリーだったら失格である。
(どうしよう?)
シナリオがあるから、未解決事件にはならないだろうけど。
(ん、待てよ?)
ひとりだけウソをついている。
犯人だという証拠はなくても、ウソは追及できる。
きっちり1分後。
「犯人はわかったよ」
僕は探偵になりきった。
「舞華さん、あなたですね」
「なっ、どうして、拙者だと⁉」
舞華さんは後ずさる。
C級ミステリーだし、宇宙船でも崖あってもおかしくない。
「違和感があったのは、侍ならば毒殺のように卑怯な殺しはしないと言ったこと」
「なぜ、それが?」
「侍が正々堂々としているって、実はイメージだし。侍は命を賭けて戦うけど、死にたくない。死なないためなら、なんでもするのが、実際の侍だったみたい。卑怯なことも普通にしてたし。とくに、戦国時代は毒殺も多かった」
「……」
「はにーですら知ってるのに、侍の舞華さんが毒殺を邪道だなんて言うのはおかしいの」
「くっ」
舞華さんは歯を噛みしめる。
「仕方なかったんだ」
犯人のターンが始まった。
「アイ殿は父上のことで悩んでいた。父に支配されるのが、嫌で嫌でたまらなかったらしい。拙者はひそかにアイ殿に相談されていたのだ。『死にたい』とな」
「「……」」
「侍は命の価値を知っている。だから、何度も生きるように説得した。だが、アイ殿は笑顔の裏で世界に絶望していた。彼女の闇に触れているうちに、拙者は死こそがアイ殿を救う唯一の手段だと思うようになったのだ」
「だから、殺したの?」
「……結果から言おう。アイ殿の自死である。拙者が毒物を用意し、アイ殿が自分の意思で飲んだ」
舞華さんは涙を拭く。見事な演技力だ。
このシナリオには隠された意味がある。
アイさんにはモデルがいる。引きこもった陽キャの先輩だ。
僕は隣の部屋に目を向けると。
「なぜ、はにーたちにアイさんのことを話さなかったの⁉」
美咲さんに聞かせるつもりで叫んだ。
「アイさんと、舞華さんだけではどうにもならなかったかもしれないけど……2人よりは3人、3人よりは4人だったら、なんとかなったかもじゃん!」
僕は悲痛な声で訴える。
「はにーたち、そんなに頼りにならないの?」
「そうではござらぬが……」
「だったら、言ってよ!」
僕は泣きじゃくる。
「言葉にしないとわからないこともあるんだから」
「だが、アイ殿は自分の悩みなんかつまんないと――」
「つまんなくてもいいもん!」
音割れしないよう声量は絞りながらも、感情を全開にする。
「友だちが真剣に悩んでるのに、話がつまんないとか、そんなのないから。むしろ、アイさんをもっと知りたかったのに」
数秒の間を置いたのち。
「死んじゃったから、もう遅いんだよ」
悔恨の情を言葉に乗せて、つぶやいた。
「ご、ごめん」
舞華さんが泣きじゃくり、僕は彼女と一緒に涙をこぼす。
そこに、おーぶさんも混ざった。
しんみりした空気で終わるのも、考えもの。
3人で星々を眺めて。
「みんなで、アイさんの分まで楽しもうね」
僕は締めくくった。
モデルになった人物が笑顔になれるよう祈りを込めて。
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