第73話 【作戦2日目】マダミス1【レインボウコネクト】

 翌日の昼下がり。僕はふたたび美咲さんの家を訪れていた。

 2期生の2人は別の仕事があるらしい。天岩戸作戦2日目は、僕がメイン役で、美咲家の鍵まで預かっていた。


 なお、コラボ相手は虎徹こてつ舞華まいかさんと、小羊こひつじおーぶさん。

 ふたりも僕の横にいる。


「お邪魔します」


 僕が小声で言うと。


「たのもう!」

 舞華さんは武士らしく堂々と振る舞う。


 おーぶさんは水晶玉を見て。

「邪気を感じる」

 しみじみとつぶやいていた。


 僕はリビングにノーパソを置き、配信の準備を進める。


「ふたりとも資料は読んだよね?」

「うむ。拙者は不慣れな分野ではあるが、死力は尽くす」

「もち。占いの力に頼っていいのかな?」


 義理堅いのはいいけれど力が入りすぎの侍さんと、なんでも占いで解決しようとする占い師さん。


「ゲームだし、楽しんで。あと、占いもいいけど、シナリオの完全無視はやめてね」


 同級生ふたりにやんわりと言う。

 時間になったので、配信を始める。


「みなさん、こんにちは。レインボウコネクト・アークの花蜜かみつはにーです。今日は3期生の虎徹こてつ舞華まいかさん、小羊こひつじおーぶさんと、コラボです」


 舞華さんと、おーぶさんが挨拶をする。


「あと、この配信ですが、さくらアモーレ先輩に捧げます」


:アモーレ殺されてるしw

:後輩からも愛されてるんやな(意味深)


 別に、生きている人に捧げてもいいのだが、ウケてくれた。


「マーダーミステリーというゲームをしていきます」


 マーダーミステリーとは?


「3人のなかに、犯人がいます。犯人を見つけて、事件の真相を解明するのがゲームの目的です」


 ミステリー小説の世界観をベースに、プレイヤーがキャラになりきって、犯人探しをするゲームだ。


「はにーたち3人は、自分用のシナリオを事前に読んでいます。シナリオには事件当時の行動、自分の目的や秘密などが書かれてます」


 舞華さんたちは印刷されたシナリオに目を落とす。


「犯人役の目的は犯人だとバレないこと。残り2人は犯人を捕まえること」

「拙者も役を演じないといけないのか?」

「今回は素の自分を無理に消す必要はないよ。ある程度、シナリオで調整してるから」

「よかった。拙者、自分のことを『あたし』とでも呼ぼうものなら、切腹ものである」


 簡単に腹を切ろうとするところまで、武士っぽい。


「じゃあ、ゲームを始めるよ」


 ゲームマスターGMはいないが、僕が進行役だ。説明を始める。


「タイトルは、『ゆけむり温泉! 宇宙船殺人事件⁉ ~女子大生4人で宇宙の温泉旅、ロリ巨乳JDが全裸になる⁉』です」


:2時間ミステリーかよ?

:宇宙と温泉と女子大生ってw


「時は2200年。誰もが宇宙旅行ができる時代。宇宙船の運転もAIがやってくれる。女子大生4人組が宇宙船をレンタルして、宇宙の旅をしていた。


 ここで女子大生グループの紹介をするね。

 アイ。大学2年生。合法ロリ巨乳。

 はにー。大学1年生。演劇少女。

 舞華。大学1年生。剣術師範。

 おーぶ。大学1年生。占い師」


 本来はもうちょっと詳細なキャラ設定はあるのだが、今回は初心者向けなので割愛した。


:アイ以外はまんまじゃねえか⁉

:名前変わると混乱しちゃうし、いいんじゃね


「宇宙船には温泉もあるよ。地球と同じ気圧が保たれているからね。

 女子大生たちは温泉につかり、星を眺め、カードゲームをして。旅を満喫する。


 1週間の宇宙旅行が半分ほどすぎた、4日目。火星付近を飛んでいたときに事件が起こった。


 はにーは目を覚ますと、温泉に行く。宇宙温泉が美肌に良いらしいから。


 先客がいた。湯船につかる、小柄な金髪少女はアイさん。

 裸の付き合いもいいかなと思ったけど、様子がおかしい。


 寝ている?

 ううん、寝ているにしては変。


 体を揺さぶった。

 アイさんが倒れ込んでくる。

 息をいていなかった」


 僕はふたりの方を見て。


「犯人はこのなかにいます」


 ミステリー定番のセリフを決める。


「この3人のうち、誰かがアイを殺したの」

「ま、待て。病死の可能性はござらぬのか?」

「はにーもそう思って、医療ロボットに見てもらったの。そしたら、アイの死体から毒が検出されたってさ」

「だからって、拙者たちがアイを殺すなんて、信じられないのだが」

「舞華の気持ちはわかるよ。でも、おーぶの占いでも、このなかに犯人がいるって出てるわ」

「ちっ。おーぶの占いが当たるのは拙者も承知しておる」


 舞華さんは渋々納得した感を上手に演技する。


「だが、拙者は犯人ではござらぬ」


 舞華さんはため息を吐く。


「拙者も武士ゆえ、情けはかける。拙者に免じて、罪を打ち明けてくれぬか?」

「えぇっ⁉ はにーは犯人じゃないよぉ。だって、はにーが来たときには死んでたもん」

「でも、第一発見者が怪しいのはミステリーあるあるだしぃ。おーぶの占いでもはにーさんが犯人だと言ってるよ」

「そ、そうなのか?」


 ふたりの疑いの目が僕に向けられる。


「はにー殿。カツ丼でいいか? 拙者がカツ丼を取るゆえ、白状しちまえ」


(侍キャラが刑事さんになった?)


 刑事さんが追及してくる時間を利用して、僕はシナリオを確認した。


「はにーはアイさんに恨みはないわ」

「……拙者は聞いたことあるぞ。アイがいつも不法侵入して、胸を押しつけてくることに対し、『かれぴっぴに百合と思われたら、どうするの?』と、愚痴ってたそうじゃないか?」

「それ、おーぶも聞いたことある。はにーさん、アイさんが小悪魔で振り回されてばかりだもんね。ウザさのあまり、殺したくなったのよね?」

「うっ」


 完全に僕が疑われている。


「なんで、知ってるのよ」


 動機があるので、その部分については認めざるを得ない。


「でも、はにーはやってない。旅行中に、『アイさん、おっぱい当てないで』と頼んだことはあったけど」

「ほほう。アイが言うことを聞かなくて、毒を飲ませたのか? 白状して、楽になっちまえよ」


 さらに墓穴を掘った。


「おーぶさんの占いが百発百中って、かえって怪しくない?」


 なんとか矛先を変えようと試みる。


「……たしかに、絶対当たる占いはインチキくさい」


 侍あらため刑事さんも納得してくれた。


「おーぶさん、なんではにーが犯人だと断定したの?」

「そうだな。自分にやましいところがあって、自分から目をそらすためという考えもあろう」

「……ちぇっ」


 のほほんとした同級生が舌打ちする。演技とはいえ、違和感がある。


「おーぶ、アイさんにセクハラをされてたの」


(おっ、動機あり)


「だから、おーぶは占いを利用して、アイさんにセクハラをやめさせようとした。宇宙ダコのクトゥルフ風エキスドリンクを飲めば、セクハラは治ると占いに出たから」


(口に出すのもおぞましいドリンクなんですけど?)


「旅行中、ひそかにドリンクを作っていて、今日の夕方にはできるから飲ませようとした矢先に、こんなことになるなんて……」

「言い逃れようとしてるんじゃないな?」


 ウソをついている可能性もある。


「じゃあ、そのドリンクを持ってきて。医療AIに調べさせるから」


 僕が言うと、おーぶさんは証拠品を持ってきた。


「ふたりとも動機はあるわけか?」

「舞華さんにはないんですか?」

「うむ。侍ならば、正々堂々と斬るまで。毒殺など卑怯な手段は用いぬ」


 侍さんの発言に引っかかった。


「動機があるかどうか聞いたのに、手段を答えたのは、なぜ?」

「……拙者が犯人ではないと理解してもらうためなり」


 ちょっとずれている。

 キャラなのか?

 ウソをついているのか?


「なにはともあれ、3人とも言いたいことは言ったのかな?」

「うむ」「うん」


 僕を含めた全員がちょっとずつ怪しい。

 収拾つくのかな?

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