第72話 【地獄の闇鍋リトライ】最後に立っているのは誰か⁉
地獄の闇鍋がグツグツ煮立っている。
午後2時すぎ。昼食から時間も経っていない。食欲もない状態で、激マズ料理に挑もうとしていた。
前回同様、部屋は暗くしない。クッキングシートを使って手元が見えないようにしている。
「今回は参加者が3人だけで具が少ないだろ。だから、
侍さんと、占い師さんが何を選んだかは気になるところ。ふたりとも真面目なので、危険物ではなさそうなので、安心はしている。
「誰からいきますか?」
「公平にじゃんけんだな」
じゃんけんをすると思いきや。
「グースカピ~」
寝ている人がいた。
「今回は、スイレンからな」
プリムラ先輩がスイレン先輩を起こす。
「今日こそは寝ないはずだったのに……罰ゲームだから、穢れるね」
スイレン先輩は鍋に手を突っ込んで、具を引き上げる。思いっきりがいい。
(穢すつもりはないですけどね)
なお、前回は辛いししとうに当たってしまって、かわいそうだった。
「この魚……くさい」
見た感じ、魚の干物らしい。
ただ、垂れている汁は茶色。カレーよりも黒っぽい。どことなく、う○こを連想させる色だった。
(この匂い、メチャクチャ強烈じゃん)
どうせ、他の食材と変な化学反応が起きているんだろう。怖い。
匂いにくわえて、汁の色も食欲を減退させる。
それでも、スイレン先輩は鼻を手で押さえながらも、箸で魚を切って、口に運ぶ。
「うげっ」
いつも眠そうで、まったりした人とは思えない反応だった。
「この魚、くさやかも」
そりゃ、臭いわけだ。というか、鍋にくさやの汁が流れている。恐怖しかない。
「あと、自分が持ってきたチョコが汁になって……」
う○こはチョコだったのか。安堵しかけるが、くさやとチョコの組み合わせもホラーだ。
「くさやは舞華からの差し入れな。武士らしいぜ」
そういうオチだったか。
「じゃあ、続けてオレなんだが……ふっ、勝ったぜ」
そう言って、プリムラ先輩が鍋から引き上げたのは――。
「それ、なんですか?」
「なにって……。ブラジャーなんだが」
さも当たり前のように言う。
「オレ、Opaxのポップアップ・ストアで女子大生をナンパしたんだ。Mカップの人でさぁ、使えなくなったブラを譲ってもらったわけよ」
武勇伝を語るイケメン女子高生。
:前に雑談で話してた人か!
:あいかわらず、ナンパ魔やな
ところで、前回はパンツで、今回はブラジャー。この先輩、本当に下着を食べるつもりなんだろうか。
「じゃあ、いただきまーす」
ブラジャーの最も尖ったところをかじった。Mカップ、メチャクチャ大きい。
「いちおうは食ったが、さすがに全部はムリ」
ブラを食べて平然としている先輩は、エラーな存在かも。
「じゃあ、最後は僕」
僕が掴んだのは、パンだった。普通の食パンである。
「ちっ、『パンツ』じゃなくて、『パン』とはつまんねえな」
1文字変わるだけで大違いだ。
「このパンは、小羊おーぶからの差し入れ。今日のラッキーフードは、パンらしい」
「たしかに、ラッキーフードかもですね」
少なくとも、くさややブラジャーに比べたら、マシ。
このときの僕は、そう思っていた。
一口食べるや。
「マズぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‼」
叫んでいた。
食パンはダメだった。
具体的に言うなら、1週間連続ではいたパンツに泥水をつけて、2週間放置した感じの味だ。まったくイメージできない。
「はにー。残念だったな。くさやのダシが出て、チョコが溶けていて、ブラジャーを煮て、はにーが入れたトンカツ。それらが悪魔合体している汁だぜ。パンにお汁が染み込で、マズくならないわけがない」
迂闊だった。
やっぱり、闇鍋は体を張った遊びだ。
さっきは芸人よろしく大げさに叫んでみたけど……。
あらためて、芸の世界の厳しさを実感させられた。
(美咲さんも面白いが口癖だけど、人を楽しませるって、難しいよな)
美咲さん、体を張ったり、面白いポイントを見つけて人に伝えたり。
面白いをテーマに活動をして、チャンネル登録者数が130万人。
ああ見えて、すごい人なのかもしれない。
(そんな人に楽しさを届けないと!)
しんみりしている場合じゃない。
もっと楽しもう!
「マズい。なにがマズいとおっしゃってましてございますのかしらのすけ……かしらのすけって、ハゲなのか、あたし気になります!」
僕の脳がバグった。
(こうなったら、とことんやるぜ!)
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
自分でも信じられないように絶叫すると、自棄になって食パンを掴む。
勢いで食パンを完食するや。
「うんめぇぇぇぇ」
見せかけでもいいので、楽しそうに振る舞った。
このあともメチャクチャ騒いだ。
しかし、配信が終わるまで、隣の部屋からは反応がなかった。
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