第58話 【オフコラボ】別荘を満喫しよう!

 1年半ぶりにプールに入っていた。


 普段は家でPCをいじってばかりで、かなり体が硬い。

 泳ぐと体がほぐれて、気持ちいい。


 プライベートプールは全長25メートルほど。プールとしては狭いが、2人で遊ぶ分にはちょうどいいかも。


 少し泳いで、疲れてきた。

 水の中で立ち止まる。


 青空のもと飛んでいる鳥を眺めていたら。

 右腕にみずみずしい弾力を感じて。


「なにしてるの?」


 右腕を見てみたら、大変なことになっていた。


 詩楽の豊かな胸が僕の腕に押されて、潰れている。

 膨らみの上半分が露出しているため、見た目的にも感触的にも刺激が強すぎる。


 ひさびさの休日に、水の中にいる解放感も加わって、男子の衝動がもたげてくる。


(柔らかいのわかってるけど、揉んでみたいなぁ)


 てぇてぇ関係が大事なのはわかっていても、性欲がなくなったわけではない。


「甘音ちゃん、ここは特殊なプール。誰も見てないから、触っていいんだよ」


 視線でバレたらしい。


(お触りはギリで許されるのかな……?)


 手を彼女の胸部に伸ばしかけるが。


「メチャクチャ柔らかいし、詩楽が好きだし。触りたい。でも――」

「でも?」

「いまの関係が心地よいから、変わりたくないというか」


 僕は胸を触るのではなく、彼女の髪を撫でた。


「甘音ちゃんが喜んでくれるなら、あたしは変わってもいいよ」

「気持ちはうれしいけど、詩楽を大事にしたいから……できない」


 詩楽はため息を吐く。


(愛想を尽かされた⁉)


 ビクビクしていたら。


「愛してほしいけど、あたしを想ってくれてるのがわかるんだよね」

「詩楽さん?」

「あたしが好きになった甘音ちゃんは、雰囲気に流されて触る人じゃないし」


 詩楽は真正面から抱きついてくる。

 ふたたび胸が当たるが、今度は変な気は起こらなかった。


「そのかわりに、あたしを抱っこしたまま、プールを歩いて」

「……それで詩楽が満足するなら」


 しばらくプールでイチャラブした。

 プールを出て、着替えを済ませた後。


「夕食はなにを食べる?」


 今日は泊まることになっていた。


「せっかくだし、海の食材を庭で焼いてみるとか?」

「さすが、甘音ちゃん。海鮮バーベキューいいね。バーベキューセットも置いてあるし」


 海鮮市場に行く。


 閉店間際だったらしく、あまり残っていない。

 それでも、エビやホタテ、サザエ、イカ、タコを買えた。


 スーパーで他の物も購入し、別荘に戻る。


 バーベキューの準備はふたりでした。

 普段は学校や配信もある。スケジュールを見て料理当番を決めている。

 けれど、ふたりとも多忙なので、料理は時間勝負になってしまう。


 後ろの予定を考えずに、ゆっくりと焼くのを待つなんて、贅沢かも。

 しばらくして、具材が焼き上がる。


「海しか勝たん」


 串に刺したイカを頬張ったまま、詩楽が言う。


「うん、理事長には感謝しかない」

「奏、あたしにはお節介だけど」


 口では文句を垂れながらも、不快さは伝わってこない。

 なんだかんだ言って、好きなんだと思う。


 僕たちはのんびりと海の幸を味わった。

 食事の後片付けをした後、ふたたび庭へ。


 空を見上げる。冬の夜空が輝いていた。

 東京から遠くないのに、星がきれいだ。


 冬でも暖かいのが助かる。さすが、金持ちの別荘。室内にある庭は最高すぎた。

 僕たちは隣あうビーチチェアに寝そべる。

 星空を眺めていたら――。


「「あっ、流れ星」」


 声が揃った。


「甘音ちゃん、なにか願った?」

「うん。この調子で詩楽には元気でいてほしい。そう願った」

「せっかくのチャンスなのに、あたしのことばかり」

「すぐに消えちゃったし、自分のことを考える暇もなかったかな」

「ありがとう。あたしクソ雑魚メンタルだけど、前よりは楽になったかも」


 彼女の言葉を聞いて思った。


 人の本質は数ヶ月で変わらない。

 詩楽の16年近い人生で培ってきた性格や、考え方は体に染みついたもの。

 最近は自虐が減っていても、今みたいに出てしまうことも。


 習慣を直すのは簡単ではない。


 けれど、気持ちは変わる。

 前は焦って無理をして、飛び降りようとしたり、過労になったり。感情が彼女を追い込んでいた。

 が、いまの彼女は焦らずにがんばっている。


 気持ちが楽になったのなら、本質が前のままだとしても。

 彼女は幸せになれるはず。


 今の幸福を積み重ねていけば、彼女の本質が否定的であっても問題ないと思った。


「詩楽のメンタルが安定して、僕もうれしい」

「もう見守られてるだけじゃない。あたし、先輩でもあるし、あたしも甘音ちゃんの役に立ちたいの」

「もう充分すぎるぐらいに手伝ってもらってるよ」

「じゃあ、ご褒美ほしいかな」

「なにがいいの?」

「星を眺めながら……キスして」


 詩楽は上半身を起こす。


 僕はビーチチェアから降りると、彼女の横に膝立ちする。


 目をつぶる詩楽の髪をかき上げ。

 顔を近づける。

 間近に見る彼女の唇はみずみずしくて。


 口をつけると甘かった。


 冬の星座が僕たちを見守っていた。

 しばらく、互いを味わったあと、体を離す。


「これで、明日からも勝つる」

「僕もがんばれる」


 明日からはあらたな日常が始まる。

 アニメ案件に向けての準備もあるうえに、期末テストも近づく。


「学校との両立も大変だけど、アニメ仕事を成功させよう!」

「ん。絶対にやってみせる」


 夜が更けるまで、幸せなひとときをすごした。

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