第55話 【100万人耐久】【マインドクラフト】ハードな人生を生き抜け! 【花蜜はにー/虹】
ラノベ1冊まるごと朗読の翌日。
3連休の初日。
午前11時から急遽配信をすることになった。
「甘音ちゃん、今日の配信は縛りプレイになるけど、約束は守ってね」
10時55分すぎ。配信前の最終チェックをしていたら、僕の部屋にいた詩楽が言う。
「ごめんね、心配かけて」
「こっちこそ。ムダにしゃべらせちゃって、ごめんなさい」
昨夜、5時間も話し続けたので、さすがに喉もしんどい。
詩楽の気遣いが胸に染みた。
詩楽が部屋を出ていき、僕は配信を始める。
「みなさん、こんにちは。花蜜はにーです」
疲れたなんて言っていられない。
声と表情は連動していると、ボイトレの先生にも教わった。オーバーぎみに笑顔を作る。
「今日は配信の予定なかったんですけどよね。ですが、現在のチャンネル登録者数は、99万7000人。もうすぐ100万人に行きそうなので、耐久配信をすることになりました」
:昨夜もあれだけ話したのに⁉
:喉も大切に
:喉の薬代をおいとくね ¥1000
「みなさん、ありがとうございます。今日はしゃべりをセーブするといいますか……」
今日の肝の部分でもある。
「縛りプレイで、『一切話してはいけない』をしてみたいと思います」
:なんと⁉
:むしろ、斬新
:気にせんと、喉休めといて ¥500
「ゲームは、マインドクラフトのハードモード。
生き抜くことを目標にします。
強敵に襲われても、悲鳴も上げられません。
しゃべったら、罰ゲームが待っています。
しかも、罰ゲームの内容は、アモーレ先輩とプリムラ先輩に決めてもらいます」
:あのふたりはセクハラ魔やもんな
:イキロ
「じゃあ、さっそくプレイしていきますね。ここからは話しません」
配信画面に『無言プレイ中』の文字を出すと、マインドクラフトを立ち上げる。
普段は1期生の先輩が作ってくれたサーバにログインしているが、今日は新しくワールドを作る。
なお、1期生の先輩たちは大学受験のため、最近はあまり活動をしていない。
設定を済ませると、世界が作られた。
平原にいた。
まずは、最低限のアイテムを作らないと。
第一段階として、作業台を製作する。
近くで素材を集め、ツルハシと木の斧を用意した。
(そろそろ、移動するか)
やがて、村が見えた。
(村だ! 村があった!)
普段の配信だったら、大きめな声で言っていただろう。
しゃべれないのが、地味につらい。
ゲーム配信は、ただゲームをしているだけ。
そんなふうに考えていた時期が、僕にもありました。
現実は、よほどゲームがうまくないかぎりは、トーク力も要求される。
しかも、花蜜はにーは声質で売っている。
無言の配信は自分の良さを活かせない。
『無言』は僕には厳しい。
詩楽が縛りプレイと評していた意味が、完全に理解できた。
:はにーちゃん、しゃべりたそう
:話せないとキレる人もいるもんな
声を出してないのに、リスナーさんに感づかれてしまった。
口をパクパクさせ、笑顔を作った。
カメラが僕の表情を読み取って、はにーのアバターに反映する。さっきよりは楽しそうになった。
続けて、ゲームのキャラジャンプを何度かしてみた。テンション高いアピールだ。
しかし、いきなりHPが減った。
敵が草陰に隠れていたらしい。
ハードモードなので、ダメージが大きい。
3発食らった結果、ゲージは3割弱にまで減っていた。
(ヤバい。やられる⁉)
叫びたい。叫べない。
(モブで、これって、ハードモードやばすぎる!)
泣いている余裕もない。
斧でモブを攻撃し、すぐに、離脱。反撃される。避ける。こっちから攻撃。
慎重に戦って、モブを倒した。
(ふぅ)
歩くと、村を見つけた。
村に着いて、一服する。
ワイチューブの管理画面をチェックする。
『99万9300人』
この勢いなら、あと30分ぐらいかと思われる。
村の空いた敷地で建築するのもいいけれど。
(冒険しないとな)
村を出ようとして、とある家の横を通りがかったときである――。
――バンッ!
またしても、突然、攻撃された。
ゾンビだった。ゾンビがドアを突き破って、攻めてきたのだ。
(ゾンビだと⁉)
心の中で、叫んだ。
ゾンビの群れが出現する
(なんだと⁉)
いまの僕の課題はチャレンジすること。
気持ちとしては戦いたい。
しかし、無謀な戦いはチャレンジではない。
(逃げるぞ!)
ゾンビの群れから一目散に逃げ出す。
幸い、無事に逃げ出すことができた。
気づけば、山の中にいて――。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっ!』
獣の咆哮が鳴り響く。
空にあらたな敵がいた。
(ぶはっ、レッドラだと⁉)
なぜ?
レッドラは別の世界に棲息するドラゴンでボスキャラだ。
レッドラと戦うためには、とあるダンジョンを攻略して、ポータルで転移しないといけない。
こんなところにいるのは、ハードモードだから?
(撤退だな)
が、そううまくはいかない。
レッドラの配下である敵に囲まれてしまった。
(しかし、逃げられない)
戦うしかない。
みっともない死に方をするんだったら、挑戦してやられた方がマシ。
木の斧を構えて、レッドラに突撃する。
ドラゴンの足を斧で打つ。
ひ弱な武器ではダメージが通らない。
すぐに、距離を取ろうとするが。
『うぉぉぉぉぉぉぉ』
一歩遅かった、ブレスが飛んでくる。
避けられずに直撃してしまった。
たった一撃で、HPが半分に減った。
四方からはじわじわとお供モンスターが押し寄せてくる。
絶体絶命のピンチ。
(うわぁぁっっっ‼)
心の中で思いっきり叫びながら、斧を振り回し、レッドラに向かっていく。
もはや行動パターンなんて考える余裕もない。
潔く散ろう。
数秒後。ゲームオーバーになった。
:はにーちゃん、おめ ¥5000
:最後の戦い、かっけぇ
:ゲームオーバーの瞬間に達成とはやりおる
「ふぇっ?」
気が抜けたタイミングで思わぬコメントがあった。思わず声が出てしまった。
「もしかして?」
:こっちの表示は100万人だよ
呆けていたら、リスナーさんが教えてくれた。
管理画面でも、100万人を超えていた。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっ!」
話すのを我慢していた反動で思いっきり叫んでしまった。
数秒間、沈黙を置いて、僕は真面目に話し始める。
「デビューして、3ヵ月ちょっとで、ようやくVTuberの活動に慣れ始めたばかり。
はにーは、まだまだ発展途上です。勉強することも多いし、失敗もします。さっきみたいにやられちゃったし」
数ヶ月前なんて、学校にも行ってなかった人間だ。
ちょっとぐらい注目されたからって、エラくはなれない。運営の力もあるわけだし。
「前も言ったけど、はにーは自分の声が嫌いだったの。でも、いまは喜んでくれる人がいる。だから――」
息を深く吸い込んで。
昨日からの配信で疲れた体にムチを打って。
「いまの自分で、少しでも気持ちが楽になる人がいるなら、これからも配信をがんばっていきたいと思います」
:がんばってな
:ムリしないでね ¥10000
萌黄あかつき:やってくれ子だと思ってたけど ¥50000
:あかつきもよう見とる
隣の部屋にいるはずの彼女からウルチャをもらったのですが。
なにはともあれ、ひとつの目標を達成した。
ウルチャのお礼は別の枠ですると言ってから、配信を終える。
体に力が入らず、ベッドに倒れ込む。
うつらうつらする。
詩楽が僕の頭を撫でているらしい。
昼寝が最高に贅沢だった。
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