第50話 【誕生日配信】なにが出るかな?【鍋パ】【花蜜はにー/虹】前編

 16歳の誕生日当日。

 夜8時。宴が始まった。

 

「みなさん、こんばんは。レインボウコネクト・アークの花蜜かみつはにーです。今日は、はにーの誕生日にお越しくださり、ありがとう、ありがとう」


 1万人以上のリスナーさんが集まってくれている。

 ここ数年、誕生日は母とふたりで祝うのが当たり前だった。環境が変わりすぎて、現実感がない。


「今日は2期生の先輩たちや、あかつきさんと鍋パしますね。鍋パの様子を配信します」


 先日の企画会議で僕が提案したのは、鍋パだった。

 参加者も同じ。萌黄あかつき役の詩楽に、さくらアモーレ役の美咲さん、プリムラ先輩に、スイレン先輩である。


「始まったら、真面目な話ができなくなりそうなので、最初に言っておきますね」


:おっ、告知?


「正解でーす。誕生日記念ボイスをダウンロード販売しますね。このあと、9時にTOOTHで買えるようになります」


:待望のボイス販売!!!!!!!!!!

:これで勝つる ¥50000


「あと、お手紙もありがとうございますね。全部読ませてもらってます」


 真面目な話をしているさなか、キッチンでは女子4名が調理に勤しんでいる。とある事情により、かなり怖い。


「残念ながら、プレゼントは受け取れないけれど、気持ちは届いてるからね」


 紛失防止エアリータグがプレゼントに混入していたら、住所を特定されてしまう。そのため、リスナーさんからのプレゼントはもらえないルールになっている。


:しゃーないから、ウルチャ送る ¥10000

:対策取れるまで、ウルチャでごめん ¥30000


 リスナーさん、太っ腹です。感謝しかない。


「先輩たちが鍋の準備をしてましたが、できたようなので、始めますね」


 花咲プリムラ先輩が鍋を卓上コンロに乗せる。土鍋の上には蓋がされていて、中身は見えない。恐怖しかない、ふたたび。


 全員が着席し、ひとりずつ軽く挨拶をすませる。


「発起人である、さくらアモーレだぞっ。今日は、はにーちゃんを祝う鍋パだから」

「おま、なにか考えてるの、オレはお見通しだぜ」

「プリムラちゃん、なに言ってるのかな。みんなで、闇鍋するだけじゃん」

「『闇鍋するだけ』って、ロクなことにならない気がしますけど」


 美咲さんことアモーレに、プリムラ先輩と、あかつきさんが突っ込む。


「闇鍋について、説明しますね」


 闇鍋を知らないリスナーさんに向けて、僕が言う。


「各自が食材を持ち寄って、ひとつの鍋に入れる料理なんです。

 部屋を暗くして、鍋の中身が見えないようにします。

 参加者は鍋に箸を突っ込んで、適当に具材を取り出すんですけど……一度、取ったものは食べないといけないんですよね。嫌いなものでも食べましょう。

 あと、口直しに蜂蜜を用意しました。鍋の脇に壺を置いたので、ヤバくなったらお好きにどうぞ」


 あえて、もっとも怖ろしいところには触れないでおく。


「お鍋、おいしそう~すやぁ」


 スイレン先輩は無邪気そうに言う


:スイレンちゃん、闇鍋の現実を知らんのか

:大草原不可避


「部屋を暗くすると危ないので、今日は特別な準備をしました」


 プリムラ先輩が鍋の蓋を取る。

 紙の蓋がさらにあった。煮物の落とし蓋に使われるような紙である。

 僕はスマホで鍋の写真を撮って、ディスコーダーにアップ。ノートPCで配信画面に画像を映し出す。


「紙に割れ目を入れています。割れ目から箸を突っ込んで、具材を取ってください。これなら鍋の中身も見えませんし、配信で闇鍋するにはいい感じです」

「部屋が明るい分、自分が取った具材が見えちゃうけど、みんな食おうな」


 今回の闇鍋のもっとも怖いところである。

 理由は、のちほどわかると思う。


「じゃあ、ひとりずつ食べていきましょうかね」


 僕が切り出すと。


「最初はあたしがいく」


 あかつきさんが手を挙げる。


「闇を浄化するのが魔法少女の使命。まず、あたしから……」


 魔法少女が取り出したのは、やや茶色の大根だった。

 僕は取り皿を撮影し、リスナーさんにも見えるようにする。


「やった、大根。楽勝ね。この色なら味噌味が染み込んでるかも」


 あかつきさんは柔らかくなった大根を箸で切り、桜色の唇に運ぶ。


「………………………………うげっ、『魂の宝石』が濁った。このままじゃ魔女になっちゃう」


 今回の闇鍋の怖いところだ。


 いろんな具材を混ぜることにより、想定外の化学反応が起きる。


 見た目が大根であっても、味も大根とは限らない。しかも、大根は味の影響を受けやすい。


 簡単に言うなら、脳は大根の見た目から味噌味を期待する。ところが、実際に食べてみたら、解釈不一致を起こしたわけだ。


 通常ルールでの、食材が見えない未知の恐怖か?

 今回の、解釈不一致の恐怖か?


 どちらがしんどいんだろう。

 なお、化学反応があるので、味はどちらにしてもマズい。


 解釈不一致にくわえて、意味不明なマズさ。

 ダブルパンチを受けて、かなりしんどい思いをしてるはず。


「さあ、あかつきさん。蜂蜜を舐めましょう」


 僕はスプーンで蜂蜜をすくい、あかつきさんの顔に近づける。

 あーんで、てぇてぇを狙ったのもある。


 ところが――。

 ペロペロ。


 なぜか、僕の頬に柔らかくて、ねっとりしたモノが当たっていた。


「おっ、あかつきの野郎、はにーちゃんに蜂蜜をあーんされたのに、はにーちゃんの頬を舐めとるよ」

「子犬プレイで愛を語るにょ?」

「あかつきちゃん、寝ぼけてるの? おやすみ~」


 先輩たちの反応で事実を認めないわけにはいかなかった。

 真横にカノジョの顔が迫っているわけで。

 配信中に頬をキスされてる感じになってしまった。


 3人に見られているだけでなく、1万人以上のリスナーさんにも目撃されてるような気がして。


(……羞恥プレイじゃん)


 冷静になったら、興奮が収まった。


「あかつきさん、どこを舐めてるの?」


 僕があかつきさんに突っ込むと。


「はにーちゃんは存在が蜂蜜。おかげで、魔女化の呪いが解けた気がする」


 あかつきさん、今度はスプーンの蜂蜜もペロリ。


「あーんも達成したし、お得感がたまらん」


:あかつき、子犬みたいだな

:子犬化した魔法少女たすかる ¥10000

:ギリでセーフ?


 先が思いやられる闇鍋配信。

 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る