第49話 誕生日イベント企画会議

 夕陽が差し込む、我が家のリビングにて。


「じゃあ、第1回、花蜜はにーたんの誕生日イベント企画会議を始めるにゃ」

「ドンドンパフパフ! オレが盛り上げてやる」

「彼女のプライドに賭けて、絶対に負けない」

「がんばって、起きてるね~」


 1名を除いて、女子たちのテンションが高かった。


(なんか、恥ずかしいんですけど)


 僕の誕生日で女子が盛り上がるなんて、まったく想定していなかった。

 もちろん、僕個人ではなく、花蜜はにーの企画だってわかっている。それでも、童貞には恥ずかしいんですよ。


「みんなぁ、はにーの誕生日記念配信になるをしたいか、どんどん意見を出してみるにゃ」


 僕が口を挟む間もなく、美咲さんが進行していく。


「ん。本妻のあたしから。あたしの案が即採用だし、先輩たちの時間を奪いたくないの」


 詩楽は自信満々に胸を張る。ぴっちりしたセーターが巨乳を強調していた。


「おま、言うようになったな」

「ユメパイセンだから、ポンコツムーブするはずにゃ」

「すやぁ~」


 先輩たちはそれぞれ反応する。最後の人は寝てるけど。


「今回にかぎっては、あたしもくじけない……………………………………はず」


 詩楽さん、急にトーンダウンしてます。

 いちおう、フォローの心構えだけでもしておこう。


「あのね、はにーちゃんの魅力を語り尽くす配信をするの。顔、髪、鼻の下、頬の色、胸の大きさ、ビーチクの色、足の爪の形。心の目を研ぎ澄ませば、すべてが見えるわ。もちろん、大事なのは外見だけじゃない」

「「「……」」」「もう~食べられないよぉ」


 寝ている人を除き、周りが引くなか、僕のカノジョは得意げな顔でプレゼンする。


「声は鉄板すぎて、3日は語れる。72時間耐久配信もありかな」


 琥珀色の目がとろけそう。


「内面の魅力もたまらないわね。リスナーさんにも優しくて、みんなのリクエストに応えようとがんばるし。あたしたちとのコラボでも気を利かせてくれる」


 完全にのろけている。


「お兄ちゃん、らぶちゃんからぁ、シチュボ依頼したいにゃ」


 ついに美咲さんが割り込んでくる。


「美咲、つまらない内容だったら、あたし全裸で駅まで走るから」


 なぜ、詩楽は美咲さんでなく、自分に罰を与えようとするんだろう?


「『あてぃしのこと好きすぎるでしょ⁉』と叫んで」

「あっ、それ言われてみたい」


 結論として、カノジョの全裸は守られた。


(それはさておき、どう評価すればいいんだよ?)


 あかつきさんが僕の魅力を語り尽くすなんて、マジでご褒美すぎ。

 けれど、非公開であればの話。何万人の前で言われるなんて、拷問である。足の爪の形とか本気で語られても怖いし。


 断りたい。

 問題は詩楽を傷つけないでウヤムヤにできるかどうか。


「とりあえず、他の人の案も聞いていいですか?」


 もっとも無難な意見に逃げた。


「なら、次はオレの番な」


 プリムラ先輩が手を挙げる。


「オレとのエッチを実況する」

「はい?」


 僕の口から間の抜けた声が漏れる。

 なお、詩楽は真っ青になり、美咲さんはニヤニヤしている。


「ウタっち、安心しろ。甘音っちとのエッチじゃなく、はにーだから。百合エッチだと思ってくれ」

「どゆこと?」


 詩楽が眉をぴくつかせて、先輩を問い詰める。


「オレが攻めで、はにーが受けな。逆だったら、一線を越えるまであるが、オレにオ○ンポはない。ウタっちが恐れる事態にはなるまいよ」

「……途中まではするんでしょ?」

「あたぼうよ」

「あたし、ちょっと南極に行って、地球にやられてくる」

「詩楽さん、ちょっと落ち着いてよ」


 詩楽は立ち上がると、玄関の方を向く。

 いまにも走り出そうとしたので、僕は慌てて詩楽の手を掴む。


「ワイチューブさん的にも、事務所的にも完全にアウトだから」

「まあ、そういうこった」

「プリムラも良い生活してるにゃ。らぶちゃんを笑えないじゃん」


 冗談だったらしい。


(セクハラは困りますよぉ)


 ガチで迷惑はしてないので、ギリでセーフ?


「気を取り直して、スイレンちゃん言ってみ?」

「んにゃ」


 寝ていた人が目を覚ました。


「エッチなのはダメだよぉ。健全な配信しようねぇ」


 きちんと聞いていたのに、軽く驚いた。


「具体的にはどうするのにゃ?」

「みんなでお泊まりするのぉ。お布団をリビングに敷いて、おねんね。朝まで生活音を垂れ流しておく」


 いわゆる、生活音配信って奴か。

 前のふたりに比べたら、健全かな。僕が女子と同じ部屋に寝てよければの話ではあるが。


「おま、幼稚園のお昼寝タイムかよ?」

「生活音配信自体はありよりのあり。けど、はにーちゃんの魅力を活かせるのかな。はにーちゃんの声が一番のウリなんだし」

「どっちかといえば、スイレンちゃんの配信ですればいいにゃ」


 なかなか難しいです。


 なお、スイレン先輩は気にした素振りもなく、おねんねしてます。

 強メンタルすぎる。


「じゃあ、らぶちゃんだね」


 美咲さんは天真爛漫な笑みを浮かべる。


「パパ活プレイにゃ」

「ぶはぁぁっっ!」


 思わず噴き出してしまった。

 美咲さん自身のパパ活疑惑が完全に消えてない中での、まさかの発言だから。


 注意深く美咲さんの顔色を観察する。

 無邪気そのものだった。後ろめたいものを抱えているようには感じられない。

 いくら小悪魔キャラだとしても、パパ活していて、この態度はないと思う。


「パパ活プレイって、どうやるんだよ?」

「んにゃ。リスナーさんを配信に呼んで、はにーちゃんがパパ活女子を演じるの。リスナーさんを悦ばせて、貢がせたら勝ちみたいな。てへっ」


 やはり、小悪魔だった。


「それ、言い方すごく悪くなるけど、ウルチャ文化を突き詰めた感じが……」


 プリムラ先輩ですら言い淀んでしまった。


「リスナーさんを呼ぶのは面白いとは思いますけれど、パパ活は先生たちに怒られますよね」


 僕は想定される事態を伝えて、断った。


「うーん、はにーちゃんには一皮むけてほしかったんだけどにゃぁ」


 美咲さんのことだ。なんとなく面白そうが本音なんだろう。


「さて、3人分の意見は出たけど、全ボツにゃ」

「すいません、僕のために」


 僕が頭を下げると。


「ううん、オレ、もっとセクハラしてぇ」

「あたしはイチャラブを限界突破したい」

「らぶちゃんは人をけしかけて、面白くなればいいにゃ」


(この人たちにも困ったものだな)


 レインボウコネクトの人たちは良い人が多いし、運営にもよくしてもらっている。

 けれど、たまに暴走について行けないこともあって。


(完璧なホワイト企業は幻想ってことか……)


 現実はそう甘くない。

 他人にすべて決めてもらおうというのが、虫がよすぎるし。


 先輩たちの意見を聞きつつ、よりよい配信をするには、僕がもっと考えなきゃ。


 女子たちが騒ぐのを聞きながら、僕は頭を動かす。


「あの、ちょっといいですか?」

「お兄ちゃん、なにかにゃ?」


 とある案をぶつけてみた。


「ん。ありよりのありね」

「そのネタなら多少のエロもできるな」

「らぶちゃんもハプニング起こせるし、満足にゃ」

「おいしいもの食べたい……ぐぅ」


 最後の人も賛成なのかな?


「では、当日はうちに集合お願いします。準備も忘れないでくださいね」


 というわけで、花蜜はにーの誕生日記念配信の企画が決まった。

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