第42話 【8月2日】【90万人記念】虹メン凸待ち!!【萌黄あかつき/虹】

 8月2日。

 まだ、僕と詩楽が出会っていなかった頃の出来事である。


 夏休みも真っ盛り。

 しかし、不登校中の僕の場合、毎日が夏休みである。


 VTuberの配信を見ながら、最低限の勉強をこなす。勉強が終わってからは、部屋でダラダラ。

 気づけば、夜21時になっていた。


『みなさん、どうも、こんあかつき。レインボウコネクト3期生、バーチャル魔法少女萌黄あかつきでーす』


 推しの配信が始まって、テンションが高まる。


『おかげさまで、デビューから3ヵ月で、チャンネル登録者90万人をいただきまして……この間の雑談配信で、凸待ち配信をすると言ってしまったので』


(今日のあかつきちゃん、やけに緊張してない?)


『誰も来なかったら、どうしようと思ってるんですけど、不安で、どちゃくそ緊張してきたし!』


 凸待ち配信。レインボウコネクトのメンバー虹メンからディスコーダーで通話してくるのを、あかつきちゃんが待つという企画だ。


 あかつきちゃんにできるのは通話を待つだけ。最悪、誰からもかけてこない可能性がある。


 不安を訴えるところまでが、ある意味テンプレートと化している。


『いちおう、虹メンには連絡してるけど、あたしコミュ障じゃん。0人もマジでありうるから』


:ポンコツを発揮するのが、あかつきたんの特技じゃん

:がんばって!

:フラグを立てる女w


『今日のトークデッキなんだけどさ。ミルフィーユで募集したじゃん。そしたら――』


 配信画面の『トークデッキ』欄に文字が映し出される。


『・1日、最高何時間ゲームした?

 ・好きな鍋の具は?

 ・パンツの色は?』


『ゲームはともかく、下2つはどういうこと?』


 リスナー投票で決まったトークネタに困惑しているようだった。


『真夏に鍋とか考えたくないし。パンツネタは、あたし魔法少女なんだよ?』


:魔法少女(ポンコツ)

:パンツのない凸待ちとは?


 ――プルルルルル!


『はろー、あかつきちゃん。3期生の小羊こひつじおーぶです』

『おぉ、おーぶちゃん来てくれたんだぁ。マジで、天使すぎる』

『占い師だけどね』


 あかつきちゃんの同期、小羊おーぶちゃん。まったりした占い師キャラだ。


『じゃあ、さっそく質問するね。1日、最高何時間ゲームした?』

『ゲームはあんまりしないけど、占いなら30時間はしてるかな』

『占い師は時間操作系能力者なの⁉』

『魔法少女に褒められて光栄だね』


 マイペースなおーぶちゃんと話すうちに、あかつきちゃんの緊張もほぐれてきたらしい。


『パンツの色は?』

『……今日のラッキーパンツは、赤だったよ』


 答えになっていない答えを返す、おーぶちゃん。憎めないのが、さすが。

 しばらく話して、おーぶちゃんは去って行く。


 続けて。


『拙者は侍系VTuber虎徹こてつ舞華まいかでござる。同胞はらからの記念ゆえ、夜分恐縮でござるが祝いに参った次第』

『舞華ちゃんも夜遅くにありがとね』


 舞華ちゃん、朝6時からの朝活配信をしているので、夜は早い。


『好きな鍋の具は?』

『どじょうでござる』


(どじょうって、魚だよね?)


『どじょうは江戸の味。武士のたしなみであるぞ』

『そ、そうなんだ。どじょうを食べたら、あたしもFPSつよつよになるかな?』

『剣の道は鍛錬あるのみ』


 ゲーマーと武士の会話は噛み合わないと思いきや、あかつきちゃんは熱心に耳を傾けていた。


『パンツの色は?』

『拙者は武士である。パンツなどはかぬ』


 まさかのノーパン発言が飛び出した。


:ノーパン剣士つよつよすぎる!

:さす、侍!

:あかつきちゃんもパンツを捨てるときだぞ


 衝撃の事実を告白した後、舞華ちゃんは通話を切った。


 これで、あかつきちゃんの同期は終わり。

 あとは先輩たちが来るかどうか。


 ――プルルルルル!


『みんな、ラブリーだよぉ❤❤❤ 虹の2期生で、本業は愛の伝道師、さくらアモーレでーす。アモーレはイタリア語でラブ。全人類に愛が届きますように』


 強烈な人が来た。

 レインボウコネクトでもっともチャンネル登録者が多い人であり、最強にぶっ飛んだキャラである。


『ど、どうも。アモーレ先輩』


 同期を相手にしていたときと別人のようにあかつきちゃんが硬くなっている。


『あかつきちゃん、ラブ・ユーだよぉ❤❤❤ かしこまるなんて、アモーレ、かなしぃ(;。;)』

『かしこま!』

『まだ、硬いなぁ。アモーレがお胸を揉んで、解きほぐそうか?』


 出た。必殺のセクハラが。


『あたし、清楚なんですけど?』

『清楚と書いて、エロと読む。この世界の常識だぞぉ』


:清楚(察し)w

:清楚はヤバい奴しかいねえ


『今日は8月2日。パンツの日。バニーの日でもあるよ~』

『そ、そうなんですか』

『あかつきちゃん、推しパンツは?』


 凸待ちはゲストに質問するのが一般的なのだが、逆になっていた。


『推しパンツってなんですか?』

『そのまんまだよぉ。下着メーカーがパンツの日にあわせて、推しパンツのランキング投票をトリッターでしてるからね』

『やけに詳しいですね』

『だって、アモーレはイタリア語で愛だもん。愛の伝道師として、下着は外せないよぉ』


 アモーレちゃんはニヤニヤ笑ってから、あかつきちゃんに言う。


『話をそらそうとしても、ムダムダムダ!』

『くっ』

『推しパンツはなんですか?』


:ギリギリを攻めてる

:いじめにならないか不安な奴

:あかつきちゃんの態度的にセーフやろ


『あたしの推しパンツ、誰に需要あるんです?』


 あかつきちゃんは答えたくない模様。

 雰囲気を悪くしない範囲で、かわそうとしている。


 あかつきちゃん、ゲームや歌ではレインボウコネクトでもトップクラスの実力を誇っている。


 なのに、どこかが抜けていて、ポンコツムーブも多い。

 今のケースでも、天然の陽キャだったら、上手に誤魔化せるだろう。


 対応できない彼女を見ていて、守ってあげたくなるというか。

 欠点があるからこそ、身近に感じられるというか。


「失敗してもいいんだからね」


 たとえ、あかつきちゃん炎上に巻き込まれようが、僕は彼女を推し続ける。

 エールを送っていたら。


『あかつきちゃんって……』


 なおも固まっているあかつきちゃんに対して、アモーレちゃんは何か言いたげにしている。

 不穏な空気にいたたまれなくなる。


『ウブなんだね~。マジでかわいい』


 えっ?

 アモーレちゃん、急に態度が柔らかくなった。


『リアルでも会ったことないじゃん』

『ええ』

『今度、オフコラボしない?』

『……いいですよ』

『よし。スカートめくるの楽しみだなぁ』


 雰囲気を変えたと思ったら、セクハラしたし。


『冗談、冗談。あかつきちゃんってさぁ、妙に汚したくなるんだよねぇ』


:アモーレ、よからぬ企み……もっとやれ

:どうせエロいことすんでしょ

:アモーレ、見境なく胸揉むからな


『みんな、ようわかっとる。アモーレ、健全な運営を心がけておりますので。みんなが喜んでくれて、アモーレが面白いが一番だしぃ』

『面白いですか?』

『そうそう。面白くなるから、推しパンツを教えて』


(ここで、推しパンツに戻したし⁉)


『推しパンツは……黒のレースです』


 煽られて、暴露してしまった、あかつきちゃん。


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ! 銀髪魔法少女が黒レース。ギャップがたまりませんのぉ』


 コメントも含めて、大盛り上がりだったのは言うまでもない。

 しばらくして、アモーレちゃんが帰って行く。


 この配信で、僕はますます萌黄あかつきというVTuberを好きになるのだった。

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